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院長のコラム


























 

院長のコラム 2019年2月〜6月掲載分(テキストのみ)


記事のリスト表示並びに画像付きフルバージョンへのリンクはPCサイトからどうぞ)


*検索サイトからお越しの方は、ブラウザの<ページ内検索>を利用して目的とする用語を見つけて下さい。

*内容についてですが、動物学、生物学、医学に関する一定以上の知識、興味、関心をお持ちの方に向けてのものとなります。








逆立ちする動物 A マダラスカンク




2019年6月25日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回、マングース科の動物 コビトマングースの逆立ちマーキング動作を紹介しました。イタチ科に近いスカンク科のスカンクは肛門腺からの液体の噴霧攻撃並びにその悪臭被害の大きさで有名ですが、中でも米国南部〜中米に棲息する小型のマダラスカンク属の4種は、発射前には skunk dance  としてよく知られている威嚇の逆立ち歩きをします。今回はこのスカンクを採り上げ、逆立ちの実態に幾らか迫りたいと思います。

 skunk dance の記事を紹介しましょう。



If you see a skunk dance like this, get away

Spotted skunks perform a 'handstand dance' for intimidation.

Russell McLendon

https://www.mnn.com/earth-matters/animals/blogs/spotted-skunk-handstand-dance

May 11, 2018, 8:33 a.m.

 から以下抜粋


 "Like the other three groups of skunks, spotted skunks are capable of spraying a strong unpleasant scent as a form of defense," the NationalPark Service wrote in a 2015 Facebook post about the video. "But before spraying, spotted skunks will sometimes go into a handstand and attemptto intimidate any would-be aggressors like this wildlife camera, placed in Happy Valley."

 The display begins with the skunk standing upright on its forelimbs, with its tail and hind legs up in the air, and may also involve otherintimidation tactics like stomping, hissing, charging, scratching and aiming, according to the University of Michigan Museum of Zoology's AnimalDiversity Web (ADW).

 This dance may not directly reveal the skunk's next move, but it's no idle threat.

 If dancing fails to intimidate a potential predator, the skunk can resort to its real weapons: a pair of scent glands, one on each side of its anus,that spray a foul-smelling musk. "The skunk generally aims for the attacker's eyes, temporarily blinding it as well as assaulting its olfaction withthe yellowish-colored butyl mercaptan-containing liquid, which can be ejected up to 10 feet," the ADW explains.

 A spotted skunk can reportedly hold about 15 grams (1 tablespoon) of this oil, which is slightly different from the oil of a striped skunk, andrelease it in a rapid-fire burst of sprays. It may take a week to replenish the oil once it's depleted, though, so handstands could offer a moresustainable way to fend off troublemakers. In the video below, a spotted skunk repeatedly uses this technique to repel a fox:

 Still, if you ever find yourself watching a skunk dance like this in person, don't count on any second chances. Otherwise, you may need thisrecipe from the ADW:

   "One remedy for skunk odor is 1 quart 3% hydrogen peroxide (from the pharmacy), 1/4 cup baking soda and 1 teaspoon liquid soap. Wash andrinse, keeping away from eyes, nose and mouth."


以下院長和訳 

 他の3グループのスカンクと同様、防御形式としてマダラスカンクは強烈に不快な悪臭をまき散らす。国立公園局は2015年のフェイスブックのこのビデオの投稿で以下の様に書いている。「Happy Valley に設置された野生動物撮影用カメラに映っている様に、撒布の前に、時々逆立ちし、攻撃者となろう何者に対しても脅しに掛かるのだ」


 ミシガン大学動物学博物館の動物多様性ウェブサイト(ADW)に拠れば、この示威行動は、前肢で直立に立ち上がり、尻尾と後肢を空中に突き出して始まるが、足を踏みならしたり、シューと音を立てたり、突進したり、引っ掻いたり、狙いを付けたりと言った他の脅しの方法を取る時もある。


 このダンスは、スカンクが次になにをするのかを直接示すものではないが、無駄な脅しとは全く違う。捕食者となり得る者への威嚇に失敗した場合、スカンクはその最終兵器−肛門の左右に一つずつある一対の臭腺から悪臭のある分泌物をまき散らす−に訴える事が出来るのだ。最大3mまで射出され得る黄色みを帯びたブチルメルカプタン液を噴射して、たいていは攻撃者の目を標的にし、一時的に盲目にさせ、また嗅覚に対しても攻撃を加える、とADW は説明する。


 報じられるところでは、マダラスカンクはシマスカンクの油分とは軽度に異なる15グラム(スプーン1杯)のこの油を保持しており、急速な連続発射でまき散らす。一旦カラになると補充するのに一週間程度を要すが、それでも逆立ち動作は妨害者からの攻撃を遣り過ごす為の、より持続可能な方法とはなり得る。下のビデオではマダラスカンクはキツネを追い払うためにこのテクニックを繰り返し使っている。


 もし自分自身が生でこの様なスカンクダンスを目にしていることに気が付いたならば、今回は大丈夫だろうなどと考えてはいけない。さもなければ、以下のADWのレシピが必要になるかも知れない:<スカンクの臭気に対する1療法は、3%の過酸化水素水1クォート(0.946リットル)(薬局で購入)、1/4カップの重曹、スプーン1杯の液体洗剤を用い、目、鼻、口に入らぬ様注意しながら洗い、濯ぐ>。




 他のスカンクと異なり、マダラスカンク属の4種のみが自立式の逆立ち動作を可能とするのは、矢張りボディサイズの小ささ(体重は0.2kg〜1kg)が物を言っているからだろうと考えます。体重が増大するとこの動作が困難になるものと予想されます。首を反らすことから頸椎の関節角度が大きく、また、手の関節を反らす許容角度並びに体重を支えるための関節強度や筋の構築も、他のスカンク類と比較すると差が出ている可能性もありますが、形態的な差は僅かかも知れません。これが大きいサイズの動物で同様の動作を定型的に行うのであれば、力学的要請から形態的な違いはより明瞭なものとなる筈です。哺乳動物で独立式の(媒体に寄り掛からない)逆立ちを定型的動作として行うのは、マダラスカンクのみではないかと思います。逆立ちを維持すべく、手の位置を随時ずらして地面に着けば、自ずとヨタヨタ式の歩行もどきにはなりますが、この逆立ち歩行が方向性を明確にし得、目指した方向へと進める様に至れば、逆立ち二足(二手)歩行は完成に近づきますが、マダラスカンクは普段は四足歩行しますので(これの方がラク)、完成度を高めて逆立ち二手歩行オンリーにロコモーションが取って代わる理由は見いだせません。飽くまで警告・威嚇動作としての役目の逆立ち歩行に留まるでしょう。

 ブチルメルカプタンは酸化され易く、それゆえ過酸化水素水(オキシフル)の混合液で洗浄するとのレシピですが、現在、過酸化水素水は発癌性が判明し、人体への使用は奨められません。原子状の酸素が遺伝子損傷作用を有する訳ですが、悪臭は取れたは良いが癌の危険がある、では困りますね。

 スカンクは狂犬病の媒介動物でもあり咬まれると大変なことになります。この意味からも目撃次第、兎にも角にも逃げるに如かず、が何よりですね。








逆立ちする動物 @ コビトマングース




2019年6月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 哺乳動物には種の定型的動作の1つとして、野生環境で自発的に二本足で立ち上がったり、またトコトコと短時間歩くものが珍しくはありません。大小類人猿はいずれの種も普通に二足歩行しますし、ニホンザルなども餌を運んだりする際には短時間ですが二足歩行します。ヒグマなども巧みに立ち上がり、数歩の二足歩行が可能です。レイヨウなども立ち上がって、木の芽を食べたりします。ミーアキャットも立ち上がって見張りをするので有名です。

 この様に正立で二足立ちする動物は多いのですが、しかしながら二足立ちの180度逆方向、つまり両手を着いて体重を支え、種としての逆立ち動作を定型的に示す動物は数少なく、加えるにほとんど脚光を浴びることもありません。今回は、その内の1種、マングース科の動物 コビトマングースを採り上げます。次回以降は、マダラスカンク、飼いイヌ、そして最後にイヌ科のヤブイヌの逆立ち動作を採り上げ、逆立ち動作の持つ意義についてまとまった考察を加える予定です。

 まずはコビトマングースの逆立ち行動に関する動物行動学の論文(抄録部分)を紹介します。

Handstand Scent Marking in the Dwarf Mongoose (Helogale parvula)

Lynda L. Sharpe Matthys M. Jooste Michael I. Cherry

Ethology Volume 118, Issue 6 First published: 16 May 2012

https://www.researchgate.net/publication/263487189_Handstand_Scent_Marking_in_the_Dwarf_Mongoose_Helogale_parvula

コビトマングースの逆立ち匂いマーキング行動


 国立オーストラリア大学の Lynda L 氏らの論文です。

 抄録部分までは誰でもアクセス可能です。それ以上は著者の承認を得て入手するか、或いは版元の Willy から有料で購入することになります。ResearchGate のメンバーである院長は、フルテキストを提供してくれないかと著者に求めましたが、残念ながら返答がありませんでした。大学の図書館に出かけてまで文献をコピーする気持にならず、かと言って web 経由でダウンロード可能なフルテキストに数千円支払う気持もなく、入手は諦めました。


以下抄録

  Many mammal species adopt marking postures that elevate their scent deposits. The most extreme of these is handstand marking, in which anindividual reverses against an upright object, flings its hind legs into the air above its back and balances bipedally on its fore feet. The resultinganogenital deposit is thus raised one full body length above ground level. It has been suggested that this energetically costly form of markingserves to provide  conspecifics with information about the marker's body size and hence  competitive ability. However, this explanation assumesthat the height of an  individuals’ deposit does reflect accurately its body size, an assumption that  has never been tested in any hand‐standingspecies. This study investigated  the relationship between body size and handstand mark height in a wild population of dwarf mongooses (Helogaleparvula) in South Africa. We found  that although body size and marking height were correlated positively for female dwarf mongooses, they werenot related for males. Male dwarf mongooses (who are subject to intrasexual competition from outside their group) invested more heavily inanogenital range marking, marking at three  times the female frequency and placing their deposits significantly higher than  females  (althoughthey were not dimorphic). Males that were particularly  vulnerable to rivals (i.e. those that were small for their age) tended to mark higher thanmore robust age‐mates, in keeping with the predictions of Adams & Mesterton‐Gibbons’ (1995, J. Theor. Biol.175, 405-421). model of deceptivethreat communication. These findings suggest  strongly that the height of anogenital scent deposits is of social significance  to dwarf mongooses.


以下抄録訳

 多くの哺乳類は匂い物質を貯留する位置を高める様にマーキング姿勢を取る。最も極端な例は逆立ち姿勢で、立ち上がった対象物に向かって逆立ちし、背中の高さを超えて両足を空中に突き出し、両手をついて二足でバランスを取るのである。その結果、肛門生殖器からの匂いを貯留する位置は、地面からその動物の体長1頭分の全長の高さにまで持ち上げられる。エネルギー的にコストの掛かるこのマーキング動作は、マーキングした個体のボディサイズの情報詰まりは競争力を、種内で示すだろうとこれまで示唆されてきた。この説明は、しかしながら、個体のマーキングの高さがその個体のボディサイスを真に反映するものとして仮定されたものであり、これは逆立ちしてマーキングするどの動物に於いても全く検証されていなかった仮定である。


 本研究は南アフリカのコビトマングースの野生集団に於いて、ボディサイズと逆立ちマーキング高との間の関係を調査した。


 ボディサイズとマーキングの高さは雌のコビトマングースでは正の相関が見られたが、雄ではそうではないことが分かった。雄のコビトマングース −他のグループの雄から種内競争に晒される− は肛門生殖器による縄張りマーキングに、より烈しく身を投じ、頻度は雌の3倍、また(コビトマングースに体格の性差はないが)マーキングする高さは雌のものより有意に高い位置にあった。ライバルに対して明らかに劣る雄(つまり同年代の雄に対して年齢の割に小さな雄)は、同じ年齢のがっしりした体格の雄よりもより高い位置にマーキングする傾向にあったが、これはAdams & Mesterton‐Gibbons らの欺瞞的威嚇行動 (1995, J. Theor.Biol.175, 405-421) の予測に違わない。


 これらの知見は、肛門生殖器の匂いの貯留の高さは、コビトマングースの社会に重要な意義を持っていることを強く示すものである。



 

 紹介した論文は、体格とマーキング位置の高さにどの程度の確からしさがあるか調べた、との仕事ですね。雌雄で体格差の無いコビトマングースでは、雄がマーキングする高さの方が雌よりは有意に高く、また同じ年齢群の中でも体格の劣る雄の方がより高い位置にマーキングすることが分かった、との結果です。

 肛門腺でマーキングする前に、まずは別個体がマーキングした箇所に顔を近づけて匂いの確認を行い、次いで左右の頬を交互に複数回擦りつけて頬から出る匂いで匂いづけを行い、最後に逆立ちしてマーキングするとの動作がweb 上の動画からは分かります。雌雄で体格差が無いにも拘わらず雄の位置が高いことは、雄がより腕を伸ばし、体幹をより垂直化させてマーキングを行う事を意味しますが、同年代に比べて体格の劣る雄が「背伸び」をしてマーキングする行動と併せ、マーキング動作への雄の必死さが見て取れます。縄張り内により高い位置でマーキングすることで、<より大きなサイズの雄が居る集団だ、喧嘩をしても敵わない>との威嚇効果を相手側集団に示す意味がある筈ですが、実戦を回避する為の1つの上手い遣り方だと院長は感じます。

 イタチ科のスカンクが雌雄共に肛門腺から強烈な匂いの液体を噴射する前に、威嚇、警告行動の1つとして逆立ち並びに逆立ち歩行する事が知られていますが、コビトマングースとは少し意味が異なりますが、これも示威行動の1つです。但し、<欺瞞的威嚇行動>ではありませんので、すぐに逃げないと実弾が発射され大変なことになりますが。

 動物行動学の論文ゆえ、腕の挙上の角度や体幹の鉛直線からの角度等を見る視点はありません。コビトマングースは非常に小型の哺乳類ですが、大型の動物では、二乗三乗の法則から、逆立ち時に手で体重を支えるのが負担となり、逆立ち動作は大変に辛い動作となります。コビトマングースの様な小型サイズの動物の場合、一瞬の逆立ち動作に対してエネルギーコストが掛かる云々の議論は意義が薄いと感じます。コビトマングースで同体格の雌の匂い付け位置が低いことは、妊娠等により体幹重量が増大して、逆立ちが辛くなる要因の可能性を院長の頭を掠めました。縄張り維持に対する意欲が雄ほど高くはない可能性もありそうです。また分泌物は雌雄で匂いの差がある筈ですが、雌の匂い付けは相手側集団に対して、雌の存在を報せる重要な信号となる筈です。この論文にはそれに対しての考察や言及が全くありませんね。

 尿や肛門腺、身体の他の部分からの分泌物を枝や幹、岩に擦りつけて縄張りを主張する行動は数々の動物種に観察され、特に珍しいことではありませんが(霊長類でもワオキツネザルに見られます)、匂い付けする場所の高さを競い合う方向への進化は、姿勢の位置の(水平位から垂直位への)変化の観点から大変面白く感じたところです。

 次回はコビトマングースよりは一回り以上体格の大きい、マダラスカンクの逆立ち動作について触れます。








ハイエナC 形態と行動




2019年6月15日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回Bでは系統分類の論文を紹介しましたが、今回最終回では、再び英語版 Wikipedia のhyena の項に戻り、形態並びに行動的特性の項を採り上げます。



身体のつくり


 ハイエナの胴体長は比率的に短く、体付きは可なりがっちりとしたオオカミ様の造りだが、身体の後ろ1/4は高さが低く、肩甲骨の高まり(キ甲 きこう)から臀部に向かい、背中が斜めに下がっていくのが明瞭に見て取れる。前肢は高さがあり、一方、後肢は大変短く、足首は肉厚で短い。頭蓋骨は表面的には大型のイヌ科動物に類似するが、ずっと大きくて重く、顔面部が短い。ハイエナは指行性で手足の平はおのおの4本指を備え、膨らんだ明瞭な肉球を持つ。イヌ科動物に似て、ハイエナは短く強靱で引っ込められない鉤爪を持つ。毛皮は毛の密度が薄く、ざらついていて、下毛は僅かか或いは欠いている。大方の種は豊かな鬣(たてがみ)を備え、それは肩甲骨の高まり或いは頭に始まる。ブチハイエナを例外として、ハイエナは縞模様の毛皮を備えるが、彼らのジャコウネコの祖先からそれを受け継いでいる様に見える。耳は大きく、基部(付け根)が単純に隆起し、耳介の縁には滑液嚢を備えない。頸部を含め脊柱は、可動性に制限を持つ。ハイエナは陰茎骨を持たない。ハイエナの肋骨はイヌ科のそれより一対多く、舌はネコ或いはジャコウネコの様にザラついている。大方の種で雄は雌より大型であるが、ブチハイエナは例外であり、雄が体重で雄を凌駕し優勢に立つのである。また、他のハイエナとは異なり、ブチハイエナの雌の外性器は雄のそれに大変良く似ている。

 歯牙はイヌ科のものに非常に類似するが、粗雑な食物を消費し、骨を砕く為に更に特殊化が進んでいる。裂肉歯は−特に上顎のものが−非常に力強く、また顎に最大の圧力が掛かる方へとずっと後ろ側に移動している。残りの歯は、発達していない上顎の臼歯を除き、強大であり、基部は幅広く、鋭い縁を備える。犬歯は短いが、厚く頑丈である。舌や唇に関しては、イヌ科に比べると、犬歯部位の下顎はずっと強く、それはイヌ科とは異なりハイエナが前方の歯と前臼歯を用いて骨を砕く事実を反映している。イヌ科は、裂肉臼歯の後方でそれを行うのである。ハイエナの顎の力は、シマハイエナとブチハイエナ共に、皮膚を破ること無く只の一度の首への噛み付きでイヌを殺したと記録されて来ているほどの強さである。ブチハイエナは、身体のサイズに比例した強力な噛む力でよく知られているが、実は(タスマニアデビルを含む)他の数多くの動物の方が身体のサイズの割には噛む力はより強力である。アードウルフは頬歯(=臼歯)のサイズを大きく縮めており、成体では時に欠損していることもある。それ以外は他の3種と変わらず、全てのハイエナの歯式は、3.1.4.1/3.1.3.1 である。

 ハイエナは会陰部の臭腺を欠くが、肛門開口部に無毛の皮膚の大きな袋を持っている。肛門の上の、大肛門腺はこの袋に口を開く。肛門腺の複数の開口部の間並びに開口部の上には、幾つかの皮脂腺が存在する。これらの腺は、白い、クリーム状の分泌物を作り、ハイエナはそれを草の茎に練り着ける。この分泌物の匂いは大変強烈で、安物の石鹸を沸騰させた様な、或いは焦がしたような匂いで、風下数メートルでもヒトには感知できる。分泌物は第一に縄張りをマーキングするのに用いられるが、アードウルフとシマハイエナ共に、敵から攻撃されたときにはそれを噴射する。



行動


 ハイエナはネコやジャコウネコの様にしばしば自身で毛繕いし、また生殖器を舐める遣り方はネコに大変似ている(後方の背中を付けて座り、両足を開いて片方の足を空中にピンと垂直に上げる)。しかしながら、他のネコ亜目とは異なり、顔は「洗わない」。他の食肉目と全く同じ遣り方で排便するが、排尿時にはイヌ科とは異なり足を上げる事は全く無い。と言うのは、排尿は彼らの縄張り機能には全く役立たないからである。その代わりに、ハイエナは肛門腺を用いて縄張りをマーキングするが、これは、ジャコウネコ科及びイタチ科で見られ、イヌ科とネコ科では見られない習性である。

 ライオンやイヌに襲撃された時は、シマハイエナとチャイロハイエナは、死んだ振りをするだろう。尤もブチハイエナは猛烈に防戦する。ブチハイエナは非常に音声的で、吠えたり、フゥーと唸ったり、呻いたり、低い声でウーと言ったり、クスクス笑ったり、大声で叫んだり、唸ったり、笑ったり、また鼻をクークー鳴らしたりと言った数多くの異なる音声を発する。シマハイエナはこれに比べると静かで、その発声は、短い音から成る笑い声及び吠え声に限定される。

 ハイエナの交尾は、短い間隔を置いた頻回の短時間の交接から成り、通常1回の、長引く交接を行うイヌ科とは異なっている。ブチハイエナの子供は、ほぼ十分に発達した状態で生まれ、成体の模様は無いものの、目が開き、切歯と犬歯は萌芽している。対照的に、シマハイエナの子供は、成体の模様で生まれるが、目は閉じ、耳は小さい。ハイエナは幼な子の為に食物を吐き出すことは無く、シマハイエナの雄を除き、雄は子供の成育には全く役割を果たさない。

 シマハイエナは第一義的に腐肉食者であるが、偶発的には、どの様な動物であれ防御力の無いものには、攻撃し殺すことがあるし、果物で食事を補うこともある。ブチハイエナは、偶発的には腐肉食者だが、中〜大型サイズの有蹄類に対して社会的な狩りを行う。イヌの様な遣り方で長距離の追跡で疲弊させ、仲間から寸断させて捕獲する。アードウルフは第一義的に昆虫食であり、Trinervitermes 並びに Hodotermes 属のシロアリを採食するのに特化している。その長い、幅広の舌で舐め上げ食べ尽くすのである。アードウルフは一度の外出で30万匹の Trinervitermesを食べることが出来る。


 ブチハイエナの雌の外性器が雄のものと区別が困難であることはよく知られています。これについて触れない訳にはいきません。

https://hyena-project.com/research-topics/who-females-prefer/

Female spotted hyenas have the power to choose their mates. First,females spotted hyenas are socially dominant over  most males (mostlyimmigrant males) and can thereby reject any male they do not want to mate with. Second, t he  masculinisation of the females’ external sexualorgans into a‘pseudopenis’forces males to mate in a very instable position; a successful mating requires the full cooperation of the female. Unlikemost other mammals, female spotted  hyenas cannot be forced to mate and have complete control over copulation. Having a pseudopenistherefore provides  substantial benefits to females by allowing them to choose the father of their offspring. And female spotted hyenas  haveclear ideas about who they want to mate with.


 「雌が偽ペニスを持つ事で、交尾の安定性が無くなり、雌が優秀な雄として相手を判断しない場合、受容しないことを更に容易にする。その利点で偽ペニス化した。」との解釈ですが、これは恣意的な解釈に過ぎると感じます。相手が嫌なら雌の方が体格も優勢ゆえ、雄にケリを喰らわせれば良いだけです。仮に他の動物の様に雌の体格の方が小さいなら 「なかなか交接できない」構造は気に入らない相手からの交尾を遮断する手立てとして機能はするでしょうけれど。

 胎児期に高い濃度の男性ホルモンに晒され、雌の脳が雄性化されると共に外生殖器も雄性化の方向に向かい、(仮性)半陰陽化すると単純に考えでも良かろうと思います。生まれる子供のサイズが小さい動物であれば、この様な形の進化も許容されますが、霊長類のような頭の大きな子供を産む動物では、その様な外性器では出産時に破断されてしまい、感染症から死の転帰を取り、遺伝子を遺すのが不利になります。ブチハイエナの出産シーンの動画を見てみたいものです。

 生殖器を男性化するのが進化の主たる目的では無く、付随的な現象であり、雌の行動に雄のような攻撃的性質を加味した行動が、種には有利だったため、「男勝り」の雌を生む方向、詰まりは雌の血中男性ホルモン濃度を高くする方向に進化したと考えたらどうでしょうか?


ハイエナは外見的にはイヌにだいぶ接近しているように見えますが、頭蓋骨などはネコ的要素も濃厚に遺し、また行動面でもネコ的要素を遺すなど、面白い存在ですね。イヌ型化したネコ亜目動物として考えるのも面白ろそうです。

 院長は霊長類の形態機能の進化を研究テーマにしていますが、食肉目ほどの各科をなだらかに繋ぐ様な形態推移は見られません(そもそも旧世界ザルはオナガザル科1科のみで、全ての旧世界サルはそこに含まれます)。別の見方をすれば、各分類群で勝ち残った頂点のもののみが存在し、中間的な動物は生き残れないのが霊長目の特徴なのかもしれません。この様に、動物の系統が違えば、環境圧に対する応答性に差が出るのは寧ろ当然のことにも見え、例えば昆虫で得られた進化理論が他の生き物に当て填まる可能性、また霊長類で得られたそれが他の生き物の進化の仕方に当てはまる可能性には色合いの濃淡が出そうだと想像しています(難しい用語ですが1つの動物から得られた結果を他の動物でも当てはまるだろうと推定することを外挿 がいそう と呼びます)。

 食肉目は、目としての系統の間でなだらかな形態の推移が見て取れると同時に、系統が近くとも環境圧によってガラリと姿形を変えるものもあり、「形態の持つ意義を問い直す上で有用な研究対象となるなぁ」、との感想を改めて抱きました。京都大学が霊長類研究所を立ち上げましたが、イヌ、ネコを<飯のタネ>とする獣医系大学或いは学部が、食肉目動物学研究所を設立してくれたら面白いとの希望を最後にお伝えし、ハイエナの話を終わりにしたいと思います。








ハイエナB 系統分類




2019年6月10日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今回はハイエナの系統分類に関する論文を採り上げて話を進めます。

 ハイエナの系統に関する新しい(とは言っても2006年)学説を紹介しましょう。下記に引用するのは考察の項の一番最後の部分となります。


Molecular systematics of the Hyaenidae: Relationships of a relictual lineage

resolved by a molecular supermatrix  

Klaus-Peter Koepfli et al.  Molecular Phylogenetics and Evolution 38 (3):603-20, April 2006

4.4. Inter relationships among the feliform carnivorans


Our results show that the clade containing Herpestes, Mungos and Cryptoprocta  is placed as the sister group to the  Hyaenidae with 100% nodalsupport (Fig. 2). Furthermore, we estimate that these clades diverged around 29 MYA, in  the Middle Oligocene (Table 6). This age is somewhatolder than the 25 MYA age suggested by the hyaenid fossil record  (Werdelin and Solounias, 1991), but this latter age falls within our estimatedcredibility interval  (Table 6). The  j oining of hyaenids and herpestids as sister taxa supports earlier phylogenetic  estimates based on analyses ofthe  auditory bulla (Hunt, 1989). Our results are also congruent with previous molecular studies using mitochondrial gene  sequences (cyt b andND2) and nuclear gene sequences (intron 1 of the transthyretin gene and exon 1 of the i nterphotoreceptor retenoid-binding protein) thatsampled only Crocuta as the sole representative of the Hyaenidae  (Flynn and Nedbal, 1998; Gaubert and Veron, 2003; Yoder et al., 2003; Yu et al.,2004). The two genera of mongooses   r epresented in our study (Herpestes and Mungos) are classified in the Herpestidae while the Malagasy-endemic  carnivoran Cryptoprocta is traditionally classified as a member of the Viverridae. Our findings, however, confirm the  results of a recentstudy of Malagasy Carnivora that showed that carnivorans endemic to Madagascar (traditionally   classified in both the Herpestidae and Viverridae)are descended from a single common ancestor and share ancestry  with the Herpestidae (Yoder et al., 2003). Furthermore, among the four viverridtaxa we sequenced in our study,   Nandinia was the most basal lineage within the feliforms (Fig. 2). Collectively, our results lend additional supportto t he  conclusions of several recent studies that have shown that the Viverridae, as traditionally circumscribed, is not    monophyletic (Flynnand Nedbal, 1998; Gaubert and Veron, 2003; Yoder et al., 2003; Yu et al., 2004). Overall, the  pattern of interrelationships among the feliformfamilies inferred in this study are concordant with these other  molecular-based studies, suggesting that diferent regions of the feliformcarnivoran genome are tracking the same  phylogenetic history. Although a larger sample of feliform taxa is obviously required to further validatethese findings,   such concordance across diferent studies nonetheless provides confidence that a stable phylogenetic   hypothesis for theprimary families of the Feliformia is emerging.



(以下院長和訳)

 4.4.ネコ亜目食肉目動物の関係

 我々の結果は、Herpestes,属  Mungos属及び  Cryptoprocta (フォッサ) 属 を含むクレード  (分岐群)が節点 nordal から分岐したハイエナ科に対する姉妹群として間違いなく位置づけられる事を示している(図2)。更に、我々はこれらのクレードが2900万年前前後、漸新世中期に分岐したと算定した(表6)。この年代は、ハイエナの化石記録が示唆する年代の2500万年前  (Werdelin and Solounias, 1991) よりは幾らか遡るが、後者の年代は、我々の見積もる信頼区間の内に収まるものである(表6)。


 ハイエナ科とマングース科を姉妹群として結びつけることは、これらより早期に行われた耳骨胞の分析に基づく研究が提出した、系統発生の推定を支持することになる。


 我々の結果は、ミトコンドリア遺伝子のシーケンス (cyt b and ND2) 及び遺伝子シーケンス(トランスサイレチン遺伝子のイントロン1 と光受容体間レチノイド結合タンパク質のエクソン1)を用いた以前の分子系統的研究  (Flynn and Nedbal, 1998; Gaubert and Veron, 2003; Yoder et al., 2003; Yu et al., 2004) −これはハイエナ科の代表として僅かにCrocuta属のみをサンプルしたもの− にも矛盾無く一致する。


 我々の研究にて科を代表するものとして利用した2つのマングースの属  (Herpestes属 及び  Mungos属) は、マングース科に分類されるが、一方、マダガスカル島特有の食肉目動物 であるフォッサは、伝統的にジャコウネコ科の仲間として分類されている。しかしながら我々の研究結果は、マダガスカルの食肉目に関する最近の研究結果、即ち、マダガスカル特有の食肉目 (これらは伝統的に マングース科とジャコウネコ科の両者に分類される) が一つの共通祖先からの子孫であって、祖先をマングース科と共有する  (Yoder et al., 2003)、との考えを確かなものとする。


 更に、我々の研究でシーケンスした4つのジャコウネコ科の分類群の間で、キノボリジャコウネコ属 は、ネコ亜目の中で最も基礎となる系列であった。


 以上をまとめると、我々の結果は、伝統的にその周囲を境界線で囲まれていたジャコウネコ科が、実は単系統ではないことを示してきた最近の研究  (Flynnand Nedbal, 1998; Gaubert and Veron, 2003; Yoder et al., 2003; Yu et al., 2004) を支持するものとなる。


 全体的に見れば、本研究で推論されるネコ亜目の科の間の関係のパターンは、これらの他の分子ベースの研究に調和するが、これはネコ亜目の食肉目ゲノムの異なる領域が、同一の系統発生の歴史をそれぞれ別個に辿っていることを示唆する。これらの知見を更に検証する為には、ネコ亜目分類群のより大きなサイズの資料が必要要である事は明らかだが、異なる研究の間でその様な一致が見られることは、それでもなお、ネコ亜目の系統発生上の第一的な科は何であるのか、に関する揺らぎなき仮説が出現しつつあることに、信頼を与えるものである。

(以上)



 本論文は、遺伝学的解析と形態学的解析を併せて考えると、ハイエナ科はネコ亜目の中でも、ジャコウネコ科ではなく、マングース科に系統的に一番近く、2900万年前に共通祖先から分かれ出た兄弟姉妹の関係にあるとの結論です。また、従来のジャコウネコ科動物の分類には問題があり、血縁関係の距離が異なる様々な動物が紛れ込んでいるとの指摘ですね。更にキノボリジャコウネコの仲間がネコ亜目の最初の祖先型に近いとの推論です。

 マングースとハイエナとは外見的には体型からしてもあまり似ていない様に感じますが、共通祖先から分岐して後に、共通のネコ的要素をベースにしてそれぞれが進化的な改変を受けてきたと考える他はありません。矢張り、ハイエナは相当にイヌ化している様に感じますが如何でしょうか?。他方、ネコ科自体は、ネコ亜目のご先祖様(キノボリジャコウネコに近い動物)よりも吻の長さを短縮化させている可能性もあり、顔面の平坦化が進行している様にも見えます。。

 次回最終回のCでは、ハイエナの形態的特徴と行動特性を、ジャコウネコやマングースを含めた他のネコ亜目と比較しつつ話を展開します。








ハイエナA 進化




2019年6月5日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 英語版 Wikipedia のhyena の項が大変充実した内容ですので、前回に引き続き、参考にしながら話を進めたいと思います。今回は進化の項を採り上げます。



進化



起源


 ハイエナは2200万年前、殆どの初期のネコ亜目の種がまだ樹上性であった頃、中新世のユーラシアのジャングルの中に起源した。最初の祖先型ハイエナは現生のシマヘミガルス (タイガーシベット) にほぼそっくりだが、これは一番最初に記載されたハイエナ種である。この、Plioviverrops は、しなやかな動作のシベット様の動物で、ユーラシアに2200〜2000万年前に住み、中耳と歯牙の構造からハイエナ科として同定し得る。Plioviverrops の系列は、繁栄し、長い四肢とより尖った顎を持つ子孫を産みだした。これは北米のイヌ科が辿ったのとほぼ同じ方向性である。



イヌ型ハイエナの興隆と没落


 Plioviverrops の子孫は1500万年前に繁栄の頂点を極め、30種以上がこれまでに同定されている。ホネ砕き者として特殊化している極く最近のハイエナ種と違い、これらのイヌ型ハイエナは、敏捷な身体のオオカミ様の動物であり、その中の1種にIctitherium  viverrinumが居たがジャッカルに非常に良く似ていた。中新世の化石発掘場ではイヌ型ハイエナが非常に多く産出するところもあり、Ictitherium 及びその他のイヌ型ハイエナの遺物が、他の全ての食肉目の化石を併せたものを凌駕するほどである。イヌ型ハイエナの衰退は700〜500万年前の気候変動の時期の間に始まったが、イヌ科動物が陸化したベーリング海峡を渡りユーラシアに達したときに情勢が悪化したのである。1つの種  Chasmaporthetes ossifragusは何とか地橋を越えて北米に渡ったが、それをなし得た唯一のハイエナである。Chasmopothertes はイヌ科動物が独占していた、平地性でホネ砕きのニッチェ(生態的地位)から逸れ、チーター様の短距離疾走者として発達することで北米で暫くの間何とか生き延びた。イヌ型ハイエナは150万年前までに殆ど死に絶えた。



砕骨型ハイエナ


 1400〜1000万年前迄に、ハイエナ科は2つの明瞭に異なるグループに分かれた。イヌ型ハイエナと砕骨型ハイエナである。祖先系の砕骨型ハイエナの到来は、非常によく似た Percrocutidae 科の衰退と付合する。砕骨型ハイエナは気候変動並びにイヌ科動物の到来−これはイヌ型ハイエナを消し去った−を遣り過ごして生き伸びた。砕骨型ハイエナは北米に渡ることは一度も無かった。と言うのは、イヌ科の亜科 Borophaginaeがそこでは既にそのニッチェを占めていたからである。500万年前までに、砕骨型ハイエナは、サーベルキャットが倒した大型草食獣の遺体を第一の餌としつつ、ユーラシアの優勢な腐肉食者となっていた。属の1つ Pachycrocuta は、200kgの巨大な腐肉食者であり、ゾウのホネを砕くことが出来た。後期氷河期に大型草食獣が衰退するに伴い、Pachycrocuta はより小さな Crocutaに置き換わった。



近代ハイエナの勃興


 現生のハイエナは、アードウルフ、ブチ、シマ、そしてチャイロハイエナの4種である。 

 アードウルフはその系列を直接に1500万年前の Plioviverrops に辿る事が出来、イヌ型ハイエナの系列の唯一の生き残りである。その成功は一部はその昆虫食に帰することが出来る、と言うには北米から渡ってきたイヌ科動物と何ら競合には晒されなかったからである。兵隊シロアリが分泌するテルペンを消化できる無敵の能力は、その祖先がかつて悪臭を発する腐肉を強力に消化していたシステムを改変したものの様に見える。


 シマハイエナは、鮮新世アフリカのH. namaquensis から進化したのかも知れない。シマハイエナの化石はアフリカでは珍しくもなく、化石記録は中期鮮新世更にはVillafranchian年代にまですら遡る。シマハイエナの化石は地中海地域では見付かっていないので、この種は他と比較すると後期にユーラシアに侵入した様に見える。ブチハイエナが氷河期の終わりにアジアで絶滅した直後に、アフリカから出て拡散していったのだろう。シマハイエナは鮮新世の間、ヨーロッパでは何度かは出現し、フランスとドイツでは特に拡散した。オーストリアのMontmaurin, Hollabrunn、ポルトガルの Furninha Cave、またジブラルタルの Genista  Caves にも姿を現した。ヨーロッパのものの形態は近代の集団に外見が非常に類似するが、より大型で、チャイロハイエナに匹敵するサイズである。


 ブチハイエナは 1000万年前にシマ及びチャイロハイエナから分岐した。直接の祖先は、インドのCrocuta sivalensisで、これは Villafranchian 年代の間に棲息していた。祖先系のブチハイエナは、遺体を巡る競合者からの増大する圧力に呼応して、おそらく社会的な行動を発達させていただろう。斯くして、チームとして振る舞うことを余儀なくされた。ブチハイエナは、ホネ砕き用の前臼歯の奥に鋭い裂肉歯を進化させ、それ故、獲物が絶命するのを待つ必要も無くなった(これはチャイロ及びシマハイエナでも同様のことである)。斯くして、ブチハイエナは腐肉食者と同じく社会性狩猟者ともなったのである。彼らは、より大きなテリトリーを形成する傾向を強めたが、これは獲物がしばしば移住性であり、小さなテリトリーでの長時間の追跡は他の一族の芝地に足を踏み込むことになるとの事実から必要になったのである。ブチハイエナは鮮新世中期に、起源した土地から拡散しヨーロッパから南のアフリカ、中国に至るとても広い領域に急速に勢力を広げた。12500年前の草原の衰退に伴い、ヨーロッパからはブチハイエナが好む低地の生き物が大量に姿を消し、それに呼応する様に混成林が増大した。この様な環境の下で、ブチハイエナはオオカミや人間に打ち負かされただろう。と言うのはオオカミや人間は平地と同様森の中でも、また低地でも高原でも生きることが出来たからである。大まかに見て 20000年前から後には、ブチハイエナの数が縮小し始め、西ヨーロッパからは 14000〜11000年前には、地域によってはもっと早くに、完全に姿を消し去った。


  イヌ型ハイエナが北米から遣ってきた「本物」のイヌであるオオカミとの競争に敗れ150万年前には絶滅し、他の動物と競合しないシロアリ食に特化したアードウルフのみ、現在に命脈を保っているわけですね。僅か2万年前までに西欧にブチハイエナが棲息していたと言うのには驚かされます。家畜のイヌの起源が早くは4万年前と推定されていますので、イヌを連れた人間がヨーロッパでブチハイエナと遭遇したのは間違いないですね。環境の変化の結果、同じく社会的な統制の下に狩りを行うオオカミとは競合し合う様になり、<イヌモドキ>に勝ち目は無くなったのでしょう。ちょっと哀しくもあります。現在はオオカミ(北方系の動物)が分布しないアフリカ、中近東、南アジアでタフに棲息しています。








ハイエナ@ 概論




2019年6月1日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 ハイエナと聞くと、ライオンが食べ残した動物の残骸、或いは「あまり新鮮ではない」倒れた動物に群がる、ちょっと不気味でコワい動物−剥き出しになった肋骨のカゴに顔を突っ込む−とのイメージを持たれる方も多く、動物園でもじっくりと生体を観察することなく、さっと別の動物のコーナーに移動してしまう方が大半ではないかと思います。確かにパンダに比べればヒトなる動物種からは全くの不人気と言えるでしょう。ハイエナを展示しても地元の商店街がハイエナ饅頭を売り出すとはとても思えませんね。院長は静岡県の日本平動物園でブチハイエナをじっくりと観察記録したことがありますが、身体のサイズが随分と大きく、首がやや長くて「肉厚」な体型だなぁと感じました。ハイイロオオカミの様な精悍且つ敏捷そうな顔つきでは無く、目立たない、やや茫洋とした表情でもあり、地味系、裏方系の様に正直感じました。地上をすたすたと歩き回り、文字通りの残骸がメインではありますが、他の哺乳類を食べること、また姿形もちょっとイヌに似ている点から、イヌモドキと読んでもいいのかもしれません。只、有袋類のフクロオオカミの方が、全体としてはよりイヌに類似した、完成度の高いイヌモドキの様に院長には感じられますが。

 今回はイヌ科を取り巻く動物の1つとしてこの動物について採り上げましょう。

 ライオンが柔らかい筋肉や内臓を食べた後の残骸と言えば、ホネなどの歯が立たない部分がメインとなります。ハイエナのことを bone crusher ホネ砕きと呼ぶのは、ホネを強力な顎で噛み砕き、中身の栄養(骨髄)を摂る習性から来ています。ハイエナの頭蓋骨を見ると、オオカミに比して前後方向に短く、詰まりは顎の突き出しが甘いですね。歯牙は鋭さはあるものの、第一印象としてはまず肉厚で頑丈そうな歯列に見えます。吻が長ければ、奥歯に近い側に位置する咬筋群(こうきんぐん、モノを噛む力を発現する筋群)は、テコの原理から、先端部分には力を入れにくくなります。イヌは先端に位置する切歯+犬歯でまずは獲物の皮をピンセットの様に掴んで引き倒し、のど元を締め上げる、或いは頸動脈を破断するなどして獲物を仕留めます。肉を切って食べるのは奥歯(臼歯)の役割との按配です。一方、ネコは犬歯を使い、いきなり急所を狙い仕留めます。ライオンの狩りを見ると手の爪で相手を引っかけて倒し、あとは急所をガブリと行きます。顎の関節の蝶番(ちょうつがい)と犬歯との距離が短いので、テコの力点と作用点の距離が短く、強力な力を犬歯に掛ける事が出来るのです。狩りと咀嚼に於いては、ハイエナは、オオカミとネコの中間的な感じですね。狩猟も行いますが、だいぶオオカミの狩猟法に類似している様に見えます。では以上から、<ハイエナは、「生きの良くない、噛み切りにくい」餌から、新鮮な餌を自分で捕る方向へと進化しつつあって、体型も吻の突き出しも、ネコ型から脱却してイヌ型に近づけつつある動物群>、であると考えて良いのでしょうか?

 英語版 Wikipedia のhyena の項が、学術論文引用の下に纏められた、大変充実し且つ信用に値すると判断される記述内容ですので、これを参考にしながら話を進めたいと思います。一般の方が、ハイエナとはなんぞや、を知るには好適でしょう。

 まず概論の和訳ですが、



 ハイエナはハイエナ科に属するネコ亜目の肉食哺乳類である。現存するのは3属の僅か4種のみであり、食肉目では5番目に小さい科であり、哺乳綱にあっても最小の科の1つである。多様性は低いものの、アフリカの生態系の中では独特且つ生命力溢れる構成員となっている。

 系統発生的にはネコやジャコウネコに近く、ネコ亜目に属するのだが、行動的また形態的要素の幾つかはイヌ科に極めて類似し、これは収斂現象である。ハイエナ科、イヌ科共に、非樹上性、地上疾走性狩猟者であり、爪よりも寧ろ自分の歯牙を利用して獲物を捕獲する。どちらも、食べ物を迅速に食べ、また食べ物を蓄えることもある。大きく頑強な、引っ込まない爪を備えた硬い足は、走行したり鋭くターンしたりするのに適している。しかしながら、ハイエナの毛繕い、匂い付け、排便、繁殖、子育て行動は、他のネコ亜目の行動と一致する。


 ブチハイエナは、食べる動物の内の95%までも捕食するが、一方、シマハイエナは大方は腐肉食である。ハイエナは、大衆文化的には臆病者であるとの評判を取っているにも関わらず、獲物を巡ってはライオンの様なより大型の捕食者を撃退することが広く知られている。


 ハイエナは第一義的に夜行性動物だが、早朝の時間帯に巣穴から出て冒険に繰り出す時もある。高度に社会的なブチハイエナを例外として、ハイエナは一般的には群居性の動物ではない。尤も、家族集団で生活し集合して狩りを行う。


 ハイエナは、まず最初は、中新世のユーラシアにてジャコウネコ様の祖先から現れた動物であり、軽い造りのイヌ型のハイエナと、がっちりした体型の砕骨型ハイエナの、2つの明白に異なるタイプに多様化した。イヌ型のハイエナは1500万年前に繁栄した(その内の1つの分類群は北米にも進出した)が、イヌ科動物がユーラシアに到達するに伴い、気候変動後に絶滅してしまった。イヌ型のハイエナの系列の中では、昆虫食のアードウルフのみが生き残り、砕骨型ハイエナ(現生のブチハイエナ、チャイロハイエナ及びシマハイエナ)はユーラシア及びアフリカの、誰もが認める腐肉食動物のトップとなった。


 ハイエナはそれの脇で生活してきた人間の文化の民話や神話の中では傑出した特徴を持つ。ハイエナはぞっとさせ、軽蔑に値する動物として共通に見られている。ハイエナは人間の魂に作用し、墓を荒らし、家畜や子供を盗むものと考えられている文化もある。アフリカの伝統医療でハイエナの身体の部分を用いるなど、ハイエナを妖術に関連づける文化もある。




 イヌの方にでは無くむしろネコに近い系統の動物ですが、木登り生活は止めて地上に進出し、基本的にcursorial (カーソリアル、平地走行性)動物化したのですね。軽量な造りのイヌ型ハイエナは現在、ほそぼそとシロアリ食のアードウルフとして生き残り、骨太タイプの砕骨型ハイエナは3種類が現生しています。その中でも、ブチハイエナが社会性と狩猟性を高め、行動面でもよりイヌに接近している様にも見えます。尤も、頭蓋骨を観察すると、矢張りネコとオオカミの中間的な特徴は濃厚に遺っています。地上に降りたときには既に優れた狩人が居て、それの食べ残しを餌とする、まぁ隙間産業的な位置に填まり込んで生きる場所を見つけ、次第に平地走行型狩猟者に向けて進化の枝を伸ばし始めたのかもしれません。上記概略を読むと、矢張りイヌになりかけているネコと考えても的外れではないようです。








イヌ科の系統分類C 分類の実際U




2019年5月25日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 分類の実際Uに入りますが、前回採り上げた論文の考察と結論の部分を中心にやや詳しく触れたいと思います。余談ですが、イヌ科動物の仕事であれば研究助成金は方々から引っ張って来易いのかもしれません。院長の霊長類の仕事の分野では特に研究費が潤沢だったとの記憶は全くありません。おサルと言う事でマスコミの注目は一時的に集めますが、経済規模の大きい犬用品や飼料会社からの協賛は得られません。そもそも「犬猿の仲」とも言いますし・・・。

 ミトコンドリアDNA の解析に基づく本論文の結果では、解析法により揺れは出るものの、イヌ科の大本の先祖から最初にキツネが、次いでタヌキが分岐し、残りの集団から一部のキツネが分かれ、他の全てのイヌ科と分かれたことになります。この集団からは南米イヌの大方と、<イヌ属+(ヤブイヌ、タテガミオオカミ、リカオン)>の仲間が分岐しました。アフリカに棲息する side-stripped jackal ヨコスジジャッカルが従来はイヌ属に分類されていましたが、遺伝子の解析はこれが<イヌ属+(ヤブイヌ、タテガミオオカミ、リカオン)>の仲間の外に位置し、著者等はイヌ属個々の動物の見直しが必要だと主張しています。確かにアフリカ棲息のヨコスジジャッカルはイヌ属とは僅かに雰囲気が違う様に感じます。ジャッカルとされる動物が複数回枝分かれていますが、同じジャッカルと一括りにされて来た動物が単純に姉妹群とは言えない事が分かります。形態的に似ていることから同じ一群と思われ、ジャッカルの名が付けられていますが、中身が違いますよ、との話です。

 パナマ地峡が出来て南北大陸が繋がったのは300万年前との説を元にすると、ヤブイヌとタテガミオオカミが分離したのは600万年前との計算結果ゆえ、この2種は南米進出以前に分かれ、各々が地峡を渡り南米に到達したとの推論を可能にします。

 われわれが飼育しているイヌは、イヌ科の大きな系統集団の中の一種、gray wolf  を domesticate したものに過ぎません。家畜化もされないイヌ型動物がワンサカいる訳です。


 今回の遺伝子解析の結果と、過去の形態データとを併せて解析 (most-parsimony 法)した系統樹を作ると、ヤブイヌとタテガミオオカミが南米群に移動するのが大きな違いです。詰まりは、南米に棲息するイヌ科は同一祖先から発した単系統群となります。オオカミとドール、リカオンは近い纏まった仲間となり、まぁ南米イヌ科の従兄弟の様な存在ですね。それらとは離れて、タヌキが、更に離れてキツネが存在します。この系統樹は、特にcontroversy (=論争を生む)なところも感じられず、素直に受け入れられそうに見えます。

 遺伝子解析を行うにしても、それが一部の遺伝子を行っての、限定されたサンプル数に基づく解析であることから、得られた結果が100%正しいとは言えません。当然異論を生みます。勿論、従来の形だけからの系統分類が正しいとも言えません。遺伝子解析の結果から斬新な考察を行い、何か新規な観点を主張しつつ、従来からの形態データと併せた解析も載せるのは、上手い遣り方と思いますし、論文のレフェリー(査読者)からの指摘を受けて解析を追加したのかもしれません。形態学に対しても問題提起と刺激を与えてくれると思いますが、従来の問題点を見直すべき良い機会です。

 著者等の推論の更に詳細を知りたい方は、まずはこの論文の643,644頁の Conclusions and Perspectives (結論並びに研究の今後)、項を是非お目通し下さい。

 論文の実例をざっとご覧戴き、形態 vs.遺伝の実態をお感じ戴けたかと思います。似た様な形態の動物を形態のみから解析しても系統分類を誤ることになりますが、かと言って有力な遺伝子解析とて、遺伝子のどの様な部分をどの様な方法で比較したかにより結果は違ってきます。解析した範囲が小さく、サンプル数が小さければ、結論は弱含みとなり揺れ動きます。それを知って戴ければと思います。

 実は院長の出身研究室(家畜解剖学教室、今は獣医解剖学教室に改称)は現在は形態学担当ですが、元々は遺伝学も担当していたところで、それから生殖器官の研究、形態学オンリーへと進んで来ました。指導教官のM先生から直接聞きましたが、国立遺伝研が設立されるに当たり、その準備室が家畜解剖学教室内に設けられ、のちに遺伝研の第三代所長となられた森脇大五郎氏もちょくちょく顔を出していたとのことです。遺伝研のホームページを見てもその辺の経緯についての何らの記述も無く、遺伝研の職員すら知らないのかも知れません。

 イヌ科系統分類の全体的な話はこれで終わりとし、次回からはまた別の話題で進めます。どうぞご期待下さい!









イヌ科の系統分類B 分類の実際T




2019年5月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今回と次回の2回では、形態解析並びにミトコンドリアDNAによる解析を併行して用いた、イヌ科系統分類の実際例に触れます。@Aと長かったと思いますが、ここに紹介する論文を理解するための基本的知識を学んで戴く為でもありました。

 さて、かれこれ20年以上前の少し古めの論文ですが、カリフォルニア大学の Wayne らに拠る30頁を超える力作を紹介しましょう。内容的に高度な学術論文ですが、皆さんがお飼いのイヌには、世界中にいろいろな仲間、親戚達が居ることを知っておくのも楽しいのではと思います。いわゆる研究者は自分の興味の対象に突き進み、大学や研究所に於いてこの様な論文作成の仕事に従事する訳ですが、一般の方々には想像も出来ないかもしれませんね。この論文は特に南米に棲息するイヌ科動物の起源にスポットを当てています。


Molecular Systematics of the Canidae  

イヌ科の分子系統分類

R.K.Wayne et al.

Systematic Biology, 46, Issue 4, 1997,622-653

https://www.researchgate.net/publication/11394220_Molecular_Systematics_of_the_Canidae/download


 上から無料で全文がダウンロード出来ます。各頁が図として収録されていますので、文字としてのコピーが出来ません。適当なOCR ソフトを用いて文字部分を電子化すると便利でしょう。638−643頁の考察並びに結論部分を先に読むと全体の理解が進むと思います。



抄録

  Despite numerous systematic studies, the relationships among many species  within the dog family, Canidae, remain unresolved. Two problems ofbroad   evolutionary significance are the origins of the taxonomically rich canid fauna of  South America and the development in three species ofthe trenchant heel, a  unique meat-cutting blade on the first molar. The first problem is of interest  because the fossil record provides littleevidence for the origins of divergent  South American species such as the maned wolf and the bush dog. The second  issue is problematicbecaude the trenchant heel, although complex in form, may  have evolved independently to assist in the processing of meat. We attempted  to  resolve these two issues and five other specific taxonomic controversies by  phylogenetic analysis of  2,001 base pairs of mitochondrial DNA(mtDNA)  sequence  data from 23 canid species. The mtDNA tree topology, coupled with  data from   fossil record, and estimates of rates ofSouth America sequential  divergence  suggest at least three and possibly four North American invasions  of  South  America. This result impliesthat an important chapter in the evolution  of modern  canids remains to be discovered in the fossil record and  that the South American  canidendemism is as much the result of extinction  outside of South America as  it  is due to speciation within South America. The  origin of  thetrenchant heel is   not well resolved by our data, although the  maximum parsimony tree is weakly  consistent with a single origin followed by  multiple losses of character  in several  extant species. A combined analysis of  the  mtDNA data and published  morphological data providesunexpected support  for a monophyletic South  American canid clade. However, the homogeneity  partition tests indicate  significantheterogeneity between the two data sets.


抄録和訳

 これまで系統分類の研究が数多くあったが、それにも関わらずイヌ科内の多くの種間の関係は未解明のままだった。大きな意義を持つ進化上の2つの解決すべき問題は、分類学的に豊かな動物群を構成する南米のイヌ科の起源についての問題、並びに、3種のイヌに於ける trenchant  heel (鋭いヒールの意)−第一大臼歯の独特な裂肉縁−の発達の問題である。最初の問いは興味深い、と言うのは例えば タテガミオオカミ や ヤブイヌと言った南米種の分岐に関する証拠を化石記録は殆ど全く遺していない為である。形は複雑化しているが trenchant  heel が肉の処理の為に互いに独立的に進化した可能性があるが故に、2番目の問いは疑問の種となっている。我々はこの2つの問題に加え、論争のある他の5つの特異的な分類学上の問題を解明する為、イヌ科 23種のミトコンドアDNA(mtDNA)遺伝子配列の2001組の塩基対のデータを用い系統発生学的解析を試みた。化石記録のデータと併せて作られた mtDNA 樹の枝分かれの様子、並びに、南米イヌに関する遺伝子の分岐の年代の算定から、少なくとも3回、可能性としては4回の、北米イヌ科動物の南米への侵入があったことが示唆される。この結果は、現生イヌ科の進化に於ける重要な1節が今後化石記録の中に発見されるだろう事、また、(現生の)南米固有のイヌ−南米内での種分化に由来する−が南米以外の地域では正に絶滅したことを意味する。trenchant heel の起源は、我々のデータでは十分には解明出来なかった。尤も、最大節約法に基づく系統樹は、単一起源のものが後に(系統内で)複数回に亘りその特徴を消失した結果だろうとの推論、に対しては、幾つかの現生種に関しては、弱い整合性しか示さない。mtDNA と文献上の形態学データを併せた解析は、南米イヌの予想もしなかった単系統説を支持する。しかしながら、分割均一性テストは、これら2つのデータセットの間で不均一なところが有意に存在する事を示している。

 (次回に続く)








イヌ科の系統分類A 遺伝分析




2019年5月15日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今回は形態的手法の対極的な方法である遺伝子解析の手法の内、ミトコンドリアDNAについて並びにこれを利用した系統分類の方法についてざっと話を展開します。動物のカタチからではなく、遺伝子情報を元に分類するとどうなるか、のお話です。

 ミトコンドリアDNAと言う言葉を聞いたことがある方は近年増えてきているだろうと思います。例えば法医学の分野などで身元確認に頻繁に利用もされます

 生き物(動物と植物)の細胞には核とそれ以外の部分(細胞質と言う)から成りますが、細胞質にはミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官が存在しています。1個の細胞当たり哺乳動物では数百〜数千個程度散在しています(エネルギー消費の高い細胞ほど数が多い)。運ばれてきた酸素が細胞内に入ると、ミトコンドリアがこれを取り入れ、ブドウ糖を「軽く燃やし」て得られた物質 (中間産物)を使い、ATP と呼ばれるエネルギーの詰まった通貨を作り出す機能−詰まりは酸素呼吸の本質−がミトコンドリア内で進められます。エネルギー源の糖類(動物では一般的にブドウ糖、植物ではショ糖など)、細胞外部からの酸素、そして細胞内のミトコンドリアのいずれかが欠けても細胞は生存出来なくなります。まぁ、非常に重要な小器官と言う訳です。哺乳動物は恒温動物ですのでエネルギー源のブドウ糖をせっせと燃やして体温を維持する必要性から、ミトコンドリアの数は多いのですが、爬虫類では 1細胞当たりのミトコンドリアの数はだいぶ少なくなります。まぁ、ほそぼそとストーブを燃やすと想像すれば良いでしょう。哺乳類の細胞は餌食いですので、ちょっとした栄養不足や酸欠にも弱く、すぐに細胞が死んでしまいます。脳細胞はその最たるもので、釜焚きの為に絶えず薪をくべてフイゴで酸素を送らねばならない訳です。鉄火場状態のカマドがミトコンドリアに相当しますが、この様な活性の高い細胞−肝臓、腎臓、筋肉、脳の細胞−には特に沢山のミトコンドリアが存在します。

 因みに、「ミトコンドリアは元々別の細菌(アルファプロテオバクテリアの仲間)だったが、これが生物の細胞に共生して現在の動物細胞が完成した」と考えられています(二量体説)。酸素呼吸に特異的に進化した細菌と合体する(細胞内寄生体と呼べます)ことで、効率良く高エネルギーを産生可能な細胞特性を手に入れて格段の進化が成し遂げられたとの按配です。高等植物の細胞には更に葉緑体が存在しますが、これも別の細菌が寄生したとの説(三量体説)があります。酸素呼吸を可能とするミトコンドリアに加え、それとは逆の、二酸化炭素と太陽光からエネルギー源と酸素を作り出すとの超ハイテク器官を獲得した話になりますが、或る意味、植物の方が動物よりも進んでいるのかもしれませんね。勿論、葉緑体も独自の遺伝子を持ち、自発的に分裂して数を増やします。


 細胞内のミトコンドリアが抱えている遺伝子(ミトコンドリアDNA)を比較して生物の系統関係を調べようとの動きが始まってから、かれこれ40年ほど経過すると思います。

 核の遺伝子は母親の卵子と父親の精子が合体したものであるのに対し、ミトコンドリアは卵子の「白身」の方に含まれ、父方の遺伝子が加わる事無く、母から娘、そして孫娘へと基本は変化せずにそのまま受け継がれます。精子が受精する際には父方のミトコンドリアは消失し核のDNAのみとなりますので子供には伝わることはありません。まぁ、ちょっと変わった性質の遺伝(細胞質遺伝、メンデルの法則に拠らない)ですが、男女平等ではなく、母親から受け継ぐ遺伝情報の方が多い訳ですね。ミトコンドリアDNA が含む情報、例えば体質の一部なども母親から余計に受け継ぐことになります。

 遺伝子が他からのものと合体もせず、変わることなく「白身」経由で代々バトンタッチされますので、それを元に女系の血筋を辿る事が可能になります。例えば5300年前のアイスマンが発掘されましたが、チロル地方に住む19の現存する家族がその子孫と分かったとのレポートがあります。同じ系統のミトコンドリアDNAを持つ女性が見付かり、同じ血筋だとの判断です。

 同じものが受け継がれるのが基本であっても、長い年月の内には突然変異が起こり、ミトコンドリアDNAの一部が変化することもあります。今度はこれを元にして、どこが変化しているのか、どこが同じなのかを比較して、どこで枝分かれが発生し、それがどれぐらい前のことかなど、互いの遠近の関係が樹木の枝の様に推測出来るようになります。まぁ、骨の計測データ無しでも系統関係が分かる訳です。

 アイスマンの骨と現生人類の骨のみを比較したところで、骨は生息環境の影響を受けますので、ヨーロッパ人だろう程度の事は言えても、どの人種或いは誰の祖先であったのかは詳細は分かりません。しかし遺伝子の比較が出来れば、(勿論完璧ではありませんが) 格段に精度良く系統関係が推測出来ることになります。遺伝情報が失われている化石には利用は出来ませんが、生きている動物同士(正確には遺伝情報が残されている標本個体)の間の比較であれば大変強力な研究上の武器となります。いや、生きている動物同士で系統を論じるのに、単に骨の計測のみでモノを言うのは、もはや完全に時代遅れとも言えるのではと思います。<遺伝的手法>或いは<遺伝子+形態分析の手法>で系統が明らかになった上で、では自分が注目している形態が如何にしてまたなぜ得られたのかを比較機能形態学或いは進化学の視点で再考するのは逆に大変有意義な仕事になります。これは実は形態学と言う学問自体の意義を見つめ直す仕事でもありますが。院長は形態屋ですので、この様な情勢を寧ろ追い風として、古くさいと言われる事の多い形態学が、一皮むけて息を吹き返してくれればと切に願っているところです。尤も、院長が学会等で時々お会いする大先輩に拠ると、系統などを考えるのは邪道であって、形態学者は形そのものに直に向き合い、その形態の持つ意義を第一に考究すべき、とのお考えです。その様な哲学性も勿論「有り」と言いますか、その様な姿勢が形態学の本筋とも言えると思えます。

 これまで二回に分けて、形態を元にした系統分類、及び遺伝情報を元にした系統分類各々の advantage と disadvantage についてざっと触れました。次回及び次々回では、これら 2つを併せた知見に基づく、イヌ科の分類の 1例について扱いますね。








イヌ科の系統分類@ 形態分析の話




2019年5月10日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 これまで飼育動物としてのイヌについて、先祖のオオカミから如何にして domesticate されたのかを含め、各種の話題を採り上げてきました。実際にはイヌ科の他の動物としてキツネや コヨーテ、はたまた ヤブイヌなどと言う一般の方には見当も付かない仲間も居るのですが、ではこれらの動物達は互いにどの様な関係、立ち位置にあるのか?−今回はこの話題を採り上げます。最初の2回で系統分類の手法について解説し、後半の2回では実際のイヌ科の分類について概観します。計4回の長丁場となりますがどうぞ最後までおつきあい下さい。

 イヌ科に分類されるからには、その集団は如何にもイヌ然とした姿形だろうと考える方が殆どと思いますが、実際のところそれは大方正しく、同じ食肉目ですが少し離れた系統のハイエナ科の動物(イヌよりはジャコウネコやマングースに近縁)も、ずんぐりした体型のものが多いですがイヌに類似します。また血縁関係の遠く離れたイヌ型動物と言えば、1933年に絶滅してしまった有袋類のフクロオオカミ (タスマニアオオカミ)がいる (いた)のみですが、これは他人のそら似とお考え下さい。

 イヌ型とは何かと簡単に言えば、地上疾走性を高めた中型〜やや大型サイズの動物で、四肢は細長く手足の指は把握性を失い、ほっそりした胴体は地表より離れて保たれ、頭蓋骨の吻が尖る様に伸張し前後に細長く、顎には強大な犬歯を備えこれで狩りを行い、耳が三角に尖り、知能が高く感覚鋭敏で動作も素早く、短距離疾走に加え、長距離の耐久走も可能とする(=平地疾走性に特化)、とでも言えましょうか。実際には、これら特徴には属レベルでは少しずつ濃淡が存在します。上記の特徴は特にオオカミやキツネでは明瞭ですが、中南米のイヌ科動物の一部や日本及び東ユーラシアに分布するタヌキでは、体型はずんぐりとし、また耳も小さめで丸形となります。一言で言えば、違いはありますが  euduarance & cursorial hunting に向けて進化した動物群 (持久走型平地ハンター)と言って良いのではと思います。

 これらの特徴はネコと変わりが無いのではと疑問に思う方もいると思いますが、ネコは吻の突き出しが弱いためイヌより嗅覚が劣り、獲物をピンセットの様に口先で挟んで確保する事が出来ませんし(大きく開口して犬歯に力を入れ一撃で仕留め、少ない数の奥歯で力強く噛み切る)、しなやかな身体を利用して瞬発的なダッシュは出来ますが長距離耐久走は行わず、またイヌよりは木登りも得意ですね。これは眼球がより平面的に配列し立体視が優れる事も幾らか関係します。狩りの方法も違います。ネコは抜き足差し足で(爪を引っ込めて音を立てずに)接近するか待ち伏せをして、バネが弾けるが如くに一気に獲物を仕留めますが、イヌは集団或いは単独での時間を掛けての狩りが見られます。イヌ科とネコ科の行動特性そのものが姿形に表れている訳です。


 動物が互いにどの様な系統関係、つまりはどの様な祖先から出て様々な種類に分かれ、また互いの血縁関係はどうなのかを追求する事は、生物学の基本であり、系統分類学  systematics システィマティクスと呼称します。一方 classification 分類とは、単に何らかの基準を元にしてを動物を分ける行為を指します。例えば、枝にぶら下がる動物、毛皮の黒い動物などの様に。まぁ、平たく言えば、血縁関係に基づいて動物を分類するのが  systematics で、人間の家系図もこれと同様の考え方です。分類classification の中の1つの方法ですね。

 少し前までは、動物の形態、特に骨の違いを元に系統分類の最後の詰めを行って来ました。例えばイリオモテヤマネコの頭蓋骨の各所間の距離を計測し(実はどこを計測するかは人間の側が恣意的に選択したもの)、他のネコと比較した上で、イリオモテヤマネコがどの祖先から由来し、他のどの様なネコと近いのかを推測する方法です。絶滅した動物は、マンモスの冷凍個体などを除き、骨や歯の化石標本のみしか証拠が得られませんので、現在でもこの手法に頼らざるを得ません。

 これは実は問題を抱えています。どういうことかと言うと、上記のイヌ科とは全く離れたフクロオオカミとがイヌと類似する問題、詰まりは<他人のそら似>現象に全ての答えがあります。動物の姿形は、血の近縁関係を離れても類似することがあるが故に、形の近縁のみから系統を考えると判断を誤るとの危険性です。イリオモテヤマネコの頭蓋骨はじめ他の身体的特徴はどう見てもネコのものゆえ、ネコであると分類して間違いはゼロです。しかしそれがイエネコの祖先のベンガルヤマネコとどの程度離れていてイエネコとはどの様な関係にあるのかと言った「微妙」なレベルでは間違った推論を犯す危険性からは免れ得ないと言う事です。まぁ形態は、大まかには系統を反映するが、細かなところでは系統を反映しないものへと、進化的な改変 modification を受けている可能性があると言う事ですね。これは何かの機能的必要性から個別に獲得された形態、或いは偶然性(遺伝的浮動と言います)により得られた形態などの場合がありますが、系統と関係性の低い形態変化に相当するものです。単なる骨計測学な対象間の比較は学問的意義が薄くなり、形態学なる学問は形の意義そのものを問う方向に深化せねばなりません。骨計測の技量のみしか持たないのであれば、業務報告としての「論文めいたもの」以上の内容は出しにくい時代となりつつあります。


 尚、本項で触れたタスマニアオオカミについては、他の有袋類と共に別項を立ててまた後日詳しく触れる予定です。ハイエナ科についても別項で採り上げたいと思います。









なぜゾウは癌にならないのかA




2019年5月5日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回に続き、なぜゾウは癌にならないのか、の続編となります。本文紹介は前編で終わり、ここ後編では院長の注記のみとなります。


院長注:

*院長は医学系研究機関に在職していましたが、癌抑制遺伝子 P53 などに関しては知っていて当たり前の話のレベルでした。Nature  の記事をあらかたスイスイと理解する自然科学一般に関しての教養を持つレベルの者を moderate  scientist  と呼称しますが、このクラスの者であれば TP53 については一応は知っていると思います。一流の論文や記事は彼らが理解できる内容で執筆されます。まぁ極端に難し過ぎず、易し過ぎることもないレベルですね。今回紹介したレポートが易しすぎて退屈だと感じるなら、読者諸氏は相当のハイレベルにあると確実に言えましょう。

*「ゾウは癌には滅多に罹患しないが、それは身体のサイズを大型化する進化の過程で、癌の発生を抑制する遺伝子のコピーを多数持ったためだ、と 2つの研究グルーブがほぼ同時に発表した」 と言う報告です。1つの細胞内に多数の TP53 が有れば、強力且つ確実に、遺伝子修復が可能であったり、アポトーシスを起こすことが出来、癌細胞の芽が無くなる、だから癌にならない、との論法ですね。動物のサイズの持つ意義に、遺伝学的証拠を提示し新たな光を当てた、画期的な仕事と院長は感じます。


*人間をターゲットにする医学研究者は通常人間相手のことにしか関心を持ちません。動物や他の生き物には関心すら抱かない、考えたこともないと言うのが通例と思います。米国研究者の、ワクを超越した電光石火のような動きには敬服せざるを得ません。今回採り上げた研究は、哺乳動物を広くターゲットにする動物学者や獣医学の研究者に業績を挙げて貰いたかったのですが、その点歯がゆく感じています。動物学者は医学的素養なく、表面的な、目に見える事象の解明に腐心し(院長から見れば大方単なる計測仕事或いは文学の範疇に見えます)、一方獣医はいわゆる飼育動物にしか目が向かず、目隠しされた競走馬の如くに思考の幅が狭いのか、と院長は憂慮しています。本邦ではそれ以前に研究費が確保出来ないとの壁もありそうですが。


*遺伝子を比較して動物の系統関係の再構築を図るのが第一段階とすれば、オオカミはなぜイヌになったのかの項でも触れたように、従来謎とされて来た進化のあり方の解明に遺伝学が応用される様になって来た訳ですが、第二段階に入ったようですね。今後、画期的な成果が次々と上がる予感がして院長は身震いしているほどです。

*P53遺伝子に欠陥を抱えて発癌し易い患者に対して、遺伝子そのものを修復する治療、或いは TP35 が作らせる P53タンパク質 を補う療法も容易に思いつくところですが、後者については、遺伝子変異を起こした細胞の内部で TP53 のスイッチが入り、P53タンパク質 を合成し遺伝子を修復するか或いは自らの細胞を死滅させるかの話ですので、口から服薬などすれば問題解決、万歳!とは行かないでしょう。:健康な細胞まで自死させてしまう虞もありますね。

 抗がん剤の副作用も、実は癌細胞のみをターゲットに出来ず、正常な細胞にまで毒性を及ぼす訳ですが、まぁ、(最先端の研究は除き)現在の一般的な臨床医学とは、癌細胞を狙い撃ちも出来ない薬剤を投与して、正常細胞と癌細胞の根比べをさせて勝負するとの、随分と原始的なレベルに留まったままなのか、との思いを新たにさせられます。

*P53遺伝子を外部から細胞内に組み込むには、ウイルスにP53遺伝子を組み込んでターゲットとする細胞に感染させて導入する方法があります。ウイルスを運び屋vector ベクターとして使う手法ですが、癌のウイルス療法を含めた「癌細胞標的療法」については後日別項で詳しく採り上げたいと思います。

 キモとなるのは、ウイルスを癌細胞だけに感染させるテクニックですね。現在、本邦でも各種のウイルスをベクターとして利用する研究が鋭意行われています。


*海牛(かいぎゅう) 目のマナティと岩狸(いわだぬき) 目のハイラックスはゾウとは似ても似つきませんが、頭蓋骨を見れば近縁関係にあることは形態学の専門家であれば理解できます。特に海牛とゾウのそれはよく似ています。ゾウも祖先のメリテリウムは小型で鼻も短かったのですが、大型化する過程で鼻も伸びて便利な道具として利用できるようになりました。奇妙と言えば奇妙な進化だと思いませんか?

*身体のサイズ (body size) と代謝、機能等の関係については、だいぶ以前から知られてきた歴史がありますが、本川達雄氏のベストセラー 『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 』 で詳細にまとめられています。物理学に目覚めた高校生が数式をあれこれ変形し、こんなこともあんなことも分かったよ、と興奮している姿を本川氏に感じなくもありませんが、サイズの問題を世の中に広く知らしめた功績は高く評価すべきと考えます。

*サイズがゾウを遙かに超えるクジラではどうなっているのか興味があります。TP53の数を矢張り増やしているのかどうか。ところでクジラの筋肉は暗赤色ですが、これはミオグロビンを大量に含むからです。血色素ヘモグロビンの兄弟の様な色素です。マッコウクジラは海面に出て10秒に一回の割で呼吸し、それを10分間続けて筋肉中のミオグロビンに酸素を溜め込んでから海に潜りますが、深海への潜水中1時間も呼吸しないで OK と言われています。詰まりは筋肉が消費する酸素は筋肉自体がまかなっており、赤血球の抱えた酸素を消費せず、また身体が大型化すれば個々の細胞の代謝は低下しますので、臓器も酸素消費を抑えることが出来る訳です。まぁ、実際に息こらえも一段と得意になる訳ですね。酸素を喰わない臓器細胞では活性酸素の発生量も低下し(活性酸素には有用な役割もありますが)、1細胞当たりの発生量がゾウに比べると一段と低下している可能性があります。これも長命化、更に可能性として発癌率の低下(クジラの発癌率が低いとのデータはあるのでしょうか?)と関連があるかもしれません。TP53の関与無しでイケてるやもしれません。この辺りを解明しようとしても捕鯨国以外ではなかなか出来ない研究でしょう。

*このレポートの最後のパラグラフについてですが、大型化に伴い代謝が下がると、1個1個の細胞の活性が下がるゆえ、TP53 が沢山有っても効きが悪くなるとの考えは理解できますが、同時に細胞分裂頻度が低下すれば (=細胞の更新もゆっくり) それに伴う遺伝子変異発生の率も低下し、発癌リスクは低下する筈です。またすぐ上で触れたように活性酸素の発生も低下する筈です。何を言おうとしているのか院長には十分には解せませんでした。もっとも、TP53 の効きが低下しているところでタバコを吸えば発癌リスクが上がるのは確かです。

*2018年の夏に、ゾウの P53 遺伝子の機能発現機序に関する新たな論文が出ましたので、近々院長コラムで紹介する予定です。








なぜゾウは癌にならないのか@




2019年5月1日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 2015年10月8日付けの  Nature News & Comment に  How elephants avoid  cancer ? どうやってゾウは癌を避けているのか?のレポートが掲載されました。著者はEwen Callaway 氏です。検索すれば無料で読めます。分かり易く書かれた記事ですので是非お目通し下さい。本コラム記事が長いので本文の紹介 (前編@) と院長の注記 (後編A) とに分割してあります。

以下この記事の概略:



*なぜゾウが癌にならないのかは有名な謎だった。「大きいサイズ或いは年数を経た臓器・器官はそれに至るまでの細胞分裂回数の絶体数が大きいのであるから、その結果遺伝子変異が起きて癌細胞が発生する数も大きいと予測されるが、これが説明出来ない。動物の大きさや年齢と癌の罹患率には相関が殆ど見られない。これは何故なのか?」 と1970年代にオクスフォード大の RichardPeto が唱えた (Peto のパラドックス)。彼は、ひょっとして生物に固有の、何か内在する機序が存在し、それが加齢或いは成長肥大時に細胞を守っているのではないかと考えた。

*今週、独立して発表された2つの論文が、Peto のパラドックスに少なくとも1つの答えを与えた可能性がある。ヒトや他の動物には 1細胞中の遺伝子ワンセット (= ゲノム)当たり 1個しか存在しない TP53  と呼ばれる遺伝子をゾウは 20個 も持っていたのである。この遺伝子は癌抑制遺伝子として知られ、細胞のDNAに傷がついた時にスイッチが入り、P53  タンパクを量産し、傷を修復するか或いは細胞を死滅させる。

*(ゾウでの) TP53 の意義が明確にされるまでには数年が必要だった。ソルトレイク市のユタ大学の小児癌専門家で科学者でもある Joshua Schiffman は3年前に開催の或る進化に関する学術会議で Peto のパラドックスについて初めて耳にした。そこでは進化生物学者の Cario Maley −現在はテンペのアリゾナ州立大−がアフリカ象のゲノムに複数の TP53  のコピーが見つかったことを発表したのである。

*Schiffman は、TP53 遺伝子の2つの対立遺伝子の欠損−癌の発生へと繋がる−を持つ小児患者の治療を専門としているが、Maley の発表を聞いたあとで、ゾウが何か自分の患者を助け得る為の生物学的なヒントを備えているのではと考えた。まだ自分の仕事を論文にしていなかった Maley  とチームを組み、ソルトレイク市動物園のゾウ飼育担当者に、哺乳類の白血球中で P53 がどの様に働くのかをテストしたいのでゾウの血液を分けてくれないかと依頼した。

*ほぼ同じ頃、2012年の中頃だが、イリノイのシカゴ大の進化遺伝学者である Vincent  Lynch は Peto のパラドックスについての講義を準備していたのだが、それをどう説明したら良いのか悩んでいた。「講義を行う直前に、私はゾウのゲノムの TP53 を探り、それが 20個 であることに行き着いた」と Lynch は言う。

*Schiffman と Lynch のチームは独立に自分たちの発見を発表した。Schiffman は米国医学会誌に、そして Lynch は bioRxiv  (バイオアーカイブ)へのプレプリント (本投稿前の習作) の投稿であるが、これは(本投稿され)eLie 誌で現在査読中である。

*36種の哺乳類の動物園での病理解剖記録−ゼブラマウスからゾウに至る−を使い、Schiffman のチームは身体のサイズと癌の罹患率になんらの関係も無い事を示した(死亡した数百の飼育下のゾウの分析の結果、3%前後のゾウが癌に罹っていた)。研究者たちは、ゾウが通常よりも多い P53 タンパクを産生すること、またゾウの血液細胞が電離放射線からのDNA損傷に対し見事なまでに鋭敏な反応を示す様子であること、を見つけた。ゾウの細胞は、ヒトの細胞よりずっと高い比率で、DNA損傷に対してアポトーシスと呼ばれるコントロールされた自己破壊を遂行する。Schiffman は傷つけられたゾウの細胞は DNA の傷を修復する代わりに、自身を殺し癌が芽を出そうとするのを阻止する様に進化したことを示し、これが Peto のパラドックスに対する輝かしい答えです、と言う。

*Lynch のチームは、カリフォルニアのサンディエゴ動物から入手したアフリカゾウ及びアジアゾウの皮膚細胞を調べ、殆ど同じ結果を見いだした。かれらは更に、マンモスの絶滅2種に於いても TP53 が12個存在する事を発見したが、ゾウに最も近い現生種であるマナティーとハイラックス (これは小さな、毛皮で覆われた獣) ではたった 1個であった。Lynch はゾウに繋がる系統がサイズを大型化するに連れ、TP53 のコピーが徐々に数を増したと考える。しかし、彼は (ゾウが癌になりにくいのは) 別の生物学的な機序も関係していると考えている。

*ロンドンの癌研究所の癌生物学者である Mel Greaves は、TP53 が唯一の説明とはなり得ないと考えている。「大型獣がより大きくなるに連れ、動きがより緩慢になり、それゆえ、代謝が低下して細胞分裂のペースも落ちるが、やがて(TP53の) 防御的な機序は癌を制止することにもはや限界を持つに至るだろう。(その様な状態の中で)もしゾウがタバコを吸い悪い食生活をしたら何が起ころうか?ゾウが本当に癌から守られるかは疑わしくなる、と彼は言う。

(本文紹介は以上)







忠犬ハチ公と農科大学


2019年4月25日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 ザギトワ選手と秋田犬マサルの項では、動物検疫の話がメインとなってしまい、秋田犬自体については殆ど扱う事が出来ませんでした。今回は秋田犬そのものをメインに採り上げたいと思いますが、また大幅に脱線の様な気が・・・。

 秋田犬と言えば東京に住んでいる者にとってはまず第一に忠犬ハチ公が思い浮かぶ筈です。駒場農学校(これは元々の名前、大正8年に東京帝国大学農科大学から東京帝国大学農学部に改称)の教授であった上野英三郎の飼い犬で、上野教授が出勤のため自宅から坂を下りて渋谷駅に向かうのを駅まで見届けた飼い犬です。教授亡き後10年に亘り駅前で主人の帰りを待ち続けました。

 東大農学部は昭和10年には一高の在った弥生町と敷地交換をして漸く都心のキャンパスを持つことができました。代わりに一高、即ち現在の東大教養学部は目黒の崖っぷちの辺境の地へと追いやられた訳です。因みに現在の京王井の頭線 駒場東大前駅は昭和26年までは一高前駅の名前でした。

 現在の農学部は東大の他の学部と同様、東京の山の手大地の南縁上に位置しており、急坂 (言問通りの鉄砲坂) を経て上野界隈へと下る事が出来ます。自宅から通学していた院長は、地下鉄千代田線の根津駅と農学部の弥生キャンパスを毎日ひぃこらひぃこら と往復していた訳です。標高差は数十mはあるでしょうか。この坂の上に住んでいたのが弥生式土器の製作者であり、坂の下にある不忍池は、東京湾の一番奥の遺残と言う訳です。弥生町から土器が出たので弥生人、弥生時代の名が付いた訳ですね。昔は坂の下でアサリでも掘っていたのでしょう。不忍池が淡水化するに連れて稲作でも始めていたのかもしれません。誰がレンコンを植えたのかは不明ですが・・・。




 坂の上からは上野の下町を見下ろすことが出来、これが一高寮歌の嗚呼玉杯に花受けての一番、


嗚呼玉杯に花うけて


緑酒に月の影宿し


治安の夢に耽りたる


栄華の巷低く見て


向ケ岡にそそり立つ


五寮の健児意気高し


(矢野勘治作)


 の、治安の夢に耽りたる栄華の巷 (ちまた) 低く見て、に繋がります。高台から地理的に低い上野、浅草を見ているのが第一義であり、精神的に低く見ている、詰まりは歓楽街を軽蔑して見ているとの解釈がありますが間違いでしょう。


青空文庫 森鴎外 『雁』

https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/45224_19919.html

 一番最後の弐拾弐にて、帝大の同じ学科の石原が石を当てて落とした雁を、夕方の薄暗がりの中、不忍池に入り引き揚げるのを、「僕」と岡田が見ているシーンの描写があり印象的です。現在も下谷、根津、上野、湯島の町々と丘の上とを繋ぐ数多くの坂道は基本的に昔のままですが、不忍池と共にその薄暗さは消え失せ、だいぶ明るくなった、いや、明るくなり過ぎたような気もしています。池に鴨が押し寄せ、蓮が繁茂しているのは昔と変わらないとは思いますが。因みに、上野の山の北縁に建つ上野精養軒のテラス或いは屋上から、<対岸>の向丘とその間の不忍池を眺めつつ冷えたビールを呑むのは格別です。




最初から大幅脱線でしたが元に戻しますね。

 忠犬ハチ公の名の通りで、秋田犬は頑固な性質も見られるものの、狩猟者である主人、マタギの忠実なしもべとして務まるべく本来は育種 breeding されて来た犬種です。

 国際畜犬連盟 Federation Cynologique Internationale (本部ベルギー、トゥアン)の犬種分類では、スピッツ及び原始犬種に分類されています。スピッツとは尖っているとの意味ですが、祖先のオオカミの様に耳と鼻先(吻)が尖っている犬種と言うことになります。そこのPDF形式の犬種標準には、秋田犬の歴史の概略が掲載されています。因みに、原始的とは遅れているの意味は全く無く、原種のオオカミに近いと言う意味です。

(以下院長の和訳、原文に明らかに一部言葉が欠けている箇所、単語の配列がおかしい箇所があります)



歴史概略


 元々は日本犬は小型〜中型犬のみで大型犬種は全く存在していなかった。秋田地域では1603年以来秋田マタギ犬(中型の狩猟犬)が闘犬として利用されて来た。1868年以降、秋田犬は土佐犬並びにマスティフと掛け合わされた。結果としてこの犬種のサイズは大型化したが、スピッツタイプの性質は失われた。1908年になり、闘犬は禁止されたが、それにも関わらずこの犬種は維持され大型の日本犬として改良された。結果として、1931年に本犬種の最も優れた9頭が天然記念物として指定を受けた。第二次大戦 (1939−1945)の間、軍用衣類の毛皮利用源として犬を使うことが普通となった。警察が、軍用犬として利用可能なジャーマンシェパード種以外の全ての犬の捕獲と没収を命じたが、飼育者の中には本種をジャーマンシェパードと掛け合わせることでこの命令を迂回しようと試みた者が居た。第二次大戦後、秋田犬は極端に数を減らし、3つの明確に異なるタイプ、即ち、秋田マタギ犬、秋田闘犬、秋田シェパード犬として存在していた。このことは育種に当たり大きな混乱をもたらした。戦後に純粋犬種として復活させる過程で、マスティフとジャーマンシェパードの性質を示す出羽系統の金剛号(が一時脚光を浴び数も増えたが[この箇所原文抜け落ちにつき補填訳])、賢明で犬のことをよく知る飼育者達はこのタイプを然るべき日本犬種として是認しなかった。それで元々の純粋な犬種を復元する目的の為に、その系統に秋田マタギ犬を掛け合わせ、それまでの海外の血統を排除すべく努力した。彼らは今日知られる大型サイズの純血種を固定することに成功した。

(以上)



 忠犬ハチ公は耳が尖ったスピッツタイプで顔付きも和犬風ですので、垂れ耳の土佐犬やマスティフの血が入っていない純粋種、即ち秋田マタギ犬に近いものだったのでしょう。上の記述からは、元々のマタギ犬は残っていたが、サイズが中型だったので、大型の金剛号と何度も掛け合わせて、洋犬の血を薄めて大型の和犬タイプ、即ち現在の秋田犬を作り出した、と言う事ですね。

 闘犬目的などの軽い気持で外来種を一度掛け合わせてしまうとその性質を排除して元に戻すのに多大の手間暇が掛かります。日本人は品種を作り出し維持しようとの、育種に対する理解がどうも甘いのではないか、と院長は感じる事が多いです。安易に混ぜ合わせては駄目ですね。

 30年ほど前になりますが、秋葉原にあった山用品の店に犬の毛皮が売られていました。冬山に入山する者が腰のお尻側に垂らしておき、雪の上に座っても冷たくならない様にする為のもので、40cm四方程度の大きさのものですが、価格は相当安かった(1枚500円程度だった)ように記憶しています。質の良いイタチ科の毛皮とは100倍程度の差があるように思います。戦中に安価な毛皮材料として利用された多数の犬の事を考えると胸が痛みますが、戦争行為は人間のみならず動物の命までも粗末にする訳です。そう言えばディズニー映画の101匹わんちゃん大行進にはイヌの毛皮でコートを作らんとするクルエルなる奇っ怪な女性が登場し、子供心にもぞっとしたことを覚えています。余談ですが、ジャーマンシェパードを例外としたのは、ひょっとすると、日本の同盟国ドイツのヒトラーがそれを愛玩していたことに配慮した為かもしれません。その写真を持っていますが掲載は控えますね。

 リチャード・ギア主演の映画 『Hachi』 にて犬種としての日本の秋田犬が世界にも広く知られるようになりました。渋谷駅のハチ公銅像を見に来る海外からの観光客もそこそこ居ます。

 秋田犬の歴史的背景と犬種復元に向けた先人の努力を胸にこの映画を鑑賞すると、また別の感慨が湧くのではと思います。

 この映画の影響で日本犬全般に関する世界的な関心も高まりつつありますが、柴犬、狆などの他の日本犬に関するトピックスについては、機会があれば別項にて触れたいと思います。







はしかとジステンパー


2019年4月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 院長が子供の頃はジステンパーで死んでしまうイヌが数多く見られました。当時のクラスメートの女の子が読んでいた少女漫画誌にも、愛犬をジステンパーで失い悲しむ少女のエピソードが描かれていたことを思い出します。

 幸いにして現在の日本ではジステンパーのワクチン接種が普及し、ワクチンさえきちんと接種しておけばこの感染症で亡くなることはありませんが、未接種ですとかなりの割合で感染し、重篤な結果へとつながります。皆さんも開業獣医のもとで混合ワクチンの接種を(定期的に)受けられているはずですが、その中にはジステンパーのワクチンも含まれている筈です。

  ジステンパーは強力な感染力を持ち、また感染すると致死率が 最大で 9割にも達する恐ろしい感染症 (感染したイヌの年齢、免疫状態、またウイルス株の毒性の違いで致死率は変動する) ですが、実は人間の世界で強力な感染力を持つはしかとは同じグループ (パラミクソウイルス科) のウイルスです。昔は子供は誰でもはしかに罹患しましたが、ワクチンが普及してからは鎮圧されました。只、過去数ヶ月に亘りニュースに採り上げられていますが、ワクチンを受けていない、或いは免疫が十分に出来ていない世代が、海外から持ち込まれた、或いは海外に出かけて得たはしかに感染すると、その患者を出発点として周辺地域にて感染が急速に拡大し始めます。臨床症状ははしかとは違いますが、感染拡大の様相はジステンパーもはしかも似ていますね。このグループには更におたふく風邪、RSウイルス性気管支炎などを含みますがいずれも感染力は非常に強力です。

 ジステンパーワクチンが未接種状態の地域 (世界ではまだまだ沢山あります) に、他地域から持ち込まれたイヌなどを介して本感染症が流行を始めると、もはや燎原の火の手を止めることはほぼ不可能になります。病、猖獗を極めると表現しても良いかも知れません。飼い犬と接触したイヌ科の動物は全て感染し、多くは死亡すると考えてよいと思います。ジステンパーは18世紀に南米からもたらされたとされていますが、もはや全世界に拡大してしまい、文字通りのパンデミック pandemic 状態と言って良いかと思います。



以下 Wikipedia 英語版の臨床症状の部分の和訳 (院長による)



臨床症状


 無症状、ケンネルコフと区別出来ない軽度の呼吸器症状から嘔吐、血性下痢、そして死亡に至る重症の肺炎までの広範囲な像を示す。

 鼻水、嘔吐と下痢、脱水、流涎、咳と努力呼吸、食欲並びに体重減少が一般的に見られる症状である。神経学的な問題が進み失禁を示すことがある。中枢神経系が冒されると、筋或いは筋群の局所的な不随意性の痙攣、流涎を伴うてんかんや、チューインガム動作(より正しくはジステンパーミオクローヌス)と記述される顎の運動が観察される。

 この状態が進行すると、てんかん症状が更に悪化し欠神てんかん、次いで死の転帰を遂げる。光過敏、協調運動失調、旋回、痛覚や触覚の過敏、運動能力低下を来す個体もある。一般的では無いが、失明、麻痺を来す個体もある。これらの症状は最低でも 10日は続き、神経学的な症状は感染後数週或いは数ヶ月後に発現することもある。生き残り得た僅かな個体は、様々な程度のチックつまりはぴくぴく動きを通常遺す。このチックは時間の経過とともに軽くなる。



後遺症


 ジステンパーに罹患して生き残ったイヌは生命に危険の無い症状と危険性を持つ症状の両者を抱え込む。最も普通に見られる命に無関係な症状は、硬蹠症であるが、肉球や鼻先の皮膚が肥厚して起こる。他の一般的な後遺症状は歯のエナメル質の形成不全だが、エナメル質の形成がまだ十分ではない、即ち歯牙が歯肉からまだ萌出していない子犬では特にダメージを受ける。これはウイルスがエナメル質を産生する細胞を殺すが為に起こる。これら影響を受けた歯牙はすぐに駄目になる。

 命に関わる後遺症は、たいていは神経系の脱落に由来するものである。ジステンパーに感染したイヌは進行性の精神能力並びに運動能力の劣化を来しがちで、時間の経過と共に、より重篤なてんかん、麻痺、視力低下、運動失調を来し得る。これらのイヌはそれらが面する計り知れない痛みと苦しみ故に人の手により安楽死させられる。

 (以上)



 ジステンパーは胃腸、気管支、脊髄と脳を冒しますが、感染すると多くが死に絶え、生き残っても色々と後遺症に悩まされることもある訳ですね。神経系をウイルスが徐々に冒し、消化器や呼吸器症状が治ったと見えても、遅延して神経学的症状が現れる場合もあると言う事です。ジステンパーに限らず、人間の感染症でもウイルスが免疫が作動しにくい神経系に潜み、じわじわと持続感染を続け、時間を経過してから神経学的な臨床症状を発現するものが少なくは無いと思います。

 ジステンパーは食肉目の多くの動物、鰭脚目(アザラシやアシカ、変異したウイルスに拠る)、霊長類の一部 (カニクイザルの集団感染例あり)、有袋類 (フクロオオカミはこれで絶滅に追いやられたとの説有り) などに感染しますが人間は感染しません。イヌ科以外では死亡率は様々で、例えばワクチン未接種のフェレットでは致死率 100%です。

 感染イヌの人為的な導入で、未感染地区の野生動物が絶滅の危機に追いやられる脅威は現在も存在し、例えば上記の様にフクロオオカミ、或いはニホンオオカミが絶滅し (ニホンオオカミについては別の原因も併せ考えられます)、アフリカのリカオンなども脅威を受けています。人間の活動に伴い世界を移動するイヌは同時に感染症の運び屋 vector  にもなっている訳で、自然破壊、環境破壊の伏兵ですが、これは人間の責任でもあります。

 生き物が本来棲息していない地域に人為的に持ち込まれ、現地の元々の動物相  fauna に悪影響を及ぼす例が多々あります。まぁ、有害鳥獣と呼ばれる生き物ですが、これについては本邦での法律施策面を含め、また後日採り上げたいと思います。








犬は噛み付いて当たり前


2019年4月15日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 狂犬病の項で、狂犬病はイヌ以外に広く哺乳動物に感染し発症する感染症であると書きました。それ故、狂犬病に感染し潜伏期間中にあるイヌ以外の動物が本邦に輸入される可能性はゼロではありません。問題はその動物が牙を持っていて噛み付く習性のある動物であるかどうかです。それが無ければ他に感染させる虞は格段に低くなり、感染した動物が発症して脳炎症状を起こし死亡するだけでしょう。例えば人間が感染し発症した場合も最後は狂騒状態から昏睡に至りますが、人間は噛み付く習性が無く、他の者に襲いかかって感染させる伝搬様式はありません。発症者が亡くなればそれで終わりとなります。詰まりは、牙で噛み付く動物と言えば食肉目の肉食性の動物が殆どですから、それら動物に対し重点的に目を光らせれば狂犬病流行の危険性を抑えることができるだろう、との考えに立っているものと思われます。

 実際には国内ではニホンザル等 (「等」と表記したのは、動物園等から逃げ出して野生化したマカク或いはこれらとニホンザルとの混血集団が野山に棲息するゆえ、可能性を考慮してのことです) による咬傷事例が散発もしていますので、万一国内野生猿に狂犬病が入った場合には、それが人間への被害に繋がる危険性も高まり、大変厄介な事になりそうです。しかしサルは賢くまた敏捷ですので、異常な個体が居ればそれからさっと遠ざかり、ウイルスがサル集団内でプールされ維持される蓋然性は非常に低いとも考えられます。

 考えてみると、強大な牙を持つ食肉獣でハンターでもあるイヌを手許に置いたこと、即ち  domesticate した事は、人間にとっては利便性に加え、咬傷受傷と狂犬病感染の危険性を併せ持つ諸刃の剣を得たことになります。


 フィリピン国内に513施設を擁する動物咬傷治療センターには年間 で国民の1%に相当する100万人もの咬傷被害者が押し寄せますが、大半は浮浪イヌや半ば野生化したイヌに拠る被害と思われます。1日当たり3000件の咬傷事故発生の計算です。このようなイヌの存在を許容しない社会にすれば狂犬病の方は解決に至る筈ですが、残りの咬傷の方はゼロには出来ませんね。何となればイヌは咬む本能の元に進化してきたのですから。それでハンティングを行い、武器として使用して来た動物と言う訳です。

 人間の奥歯は臼の様な形をしていますが、これは食べ物をすり潰すのに役立ちます。木の実や穀類を或いは根菜や野菜をすり潰しながら飲み込むには向いています。しかしイヌの歯にはその様な奥歯は無く、肉を切り裂いて小片にする目的の歯しかありません。獲物を噛み付いて捕獲し、細切れにして呑み込む方向に完璧にまで適応した歯列構成です。まぁ、イヌは噛み付いて当たり前、噛み付くのが彼らの生きる術(すべ)だったのですから。その様な武器を持つ動物を我々人間は仲間として飼育する様になりました。

 脳炎に罹患して噛む本能が凶暴化したイヌは別としても、健康なイヌに於いても、躾の鍵は持って生まれた習性・本能である、「咬む」「噛む」をどう制御するかに掛かっていることがあらためて良く理解戴けると思います。具体的には咬んでも良い対象と咬んではいけない対象を理解させることになります。

 このイヌの躾け、特に咬むことの制御に関しては別項で改めて採り上げたいと思います。







ザギトワ選手と秋田犬マサル


2019年4月10日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 1年と 2ヶ月前になりますが、2018年 2月に開催された平昌冬期オリンピック大会では、日本勢が大活躍をしてくれ、院長も TVの前に齧り付いて夢中で見ていました。そだねーのカーリングチームの好ゲーム展開やスピードスケートでの金銀メダル獲得、またフィギュアスケート競技にて羽生結弦選手が見事男子シングルの連勝を成し遂げたことは大きな感動として院長の記憶に強く残っています。今でもそのシーンの幾つかがふと脳内再生されるほどです。他方、女子シングルではロシアのザギトワ選手が驚異的な粘りを見せ、15歳 9ヶ月で金メダルを獲得したことにも驚かされました。秋田犬を飼いたいとの希望に対し、秋田犬保存会から同年 5月に雌の子犬が贈呈され、彼女がマサルと命名したことは有名です。

 世界フィギュアスケート大会 2019 がさいたまスーパーアリーナを会場として 3月20日〜24日に開催されたばかりですが、熾烈な戦いの中、ザギトワ選手はまたもや初日から素晴らしい演技を見せてくれ、金メダルを手にしました。当初はそのマサルを連れて今回日本を訪問したいとの希望でしたが、残念ながら手続きが間に合わないとの理由で断念したと報道されました。今回はこの手続き、即ちイヌを日本に上陸させる際に取られる検疫システムについて話を展開しましょう。内容的には前回の狂犬病の話の続きになります。

 狂犬病の項で、日本は鋭意努力した結果、60 年前には清浄化を達成した旨を書きましたが、折角クリーン化されても、国外から再び狂犬病ウイルスを持ち込まれてしまうと、短期間の内に感染が拡大し蔓延してしまう虞があります。潜伏期間を経て発症した狂乱状態のイヌは次々と周囲のイヌやその他の動物に噛みつきますので、1頭が10頭、その10頭が100頭へとどんどん拡大していきます。それを防止する為には、持ち込もうとしているイヌに対して一定期間観察を行い、確実に狂犬病に罹患していないかを見極めたのち、初めて国内で自由に移動してOKですよとの許可を与えるシステムが設けられています。動物検疫システムですね。

 実際のところ、仮に潜伏期間中の罹患犬が船舶からの不法な持ち込み等を通じて入ったにしても、国内では街中をうろうろする野犬はほとんどおらず、それらの間で互いに噛み付き合って狂犬病ウイルスのプール集団が形成される虞は少ないと予想しますが、ゼロではありませんので厳重な警戒を続けるに越したことはありません。そもそも動物検疫とは、家畜、産業用動物に対しての感染を起こし、経済的損失を与える可能性のある疾患、並びに人間にも重大な結果を招く人畜共通感染症 zoonosis ズーノウシスに感染していないか、汚染されていないかをスクリーニングするシステムとなりますが、知り得ている全ての病気をチェックするものではなく、人間の社会に対して重大な意味を持つ感染症に限定されたものです。


 日本国内にイヌを持ち込もうとする者は以下の手続きを取る必要があります。

 まず、狂犬病からの清浄化が為されている国、地域である アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムからの輸入の場合ですが、他の汚染地域からの場合と異なり、幾らか簡略化された手続きになります (それでも大変面倒ですが)。日本の指定された空港、海港に到着後、輸入検査にて特に不備が無ければ係留検査を受けること無く輸入が許可されます。

 汚染地域 (清浄化されている国、地域以外の全て) からの輸入の場合は、一段と厳格となり、現地で狂犬病予防注射を 2回 以上接種し、血中の抗体価が一定以上であることを確認して後、更に 180日 を経過し 2年以内に輸入を行うことが義務づけられます。日数が不足する場合は 180日に不足する分を国内検疫所で係留されます。勿論、上陸後は輸入検査を受けます。

 いずれの場合も到着する予定の空海港の動物検疫所宛てに到着 40日以上前に各種の届け出でを行う必要があります。また個体識別用のマイクロチップの皮下装填は必須です。

 その様な次第で、思い立ってイヌを国内に持ち込む事は不可能ですね。マサルが飼育されているロシアは狂犬病汚染国ですので、各種の厳格な手続きを行って後、ロシア国内で 180日の待機が必要となり、それに不足する場合は日本に上陸後に不足日数分を係留され、そこから連れ出すことも出来ません。この様な訳で日本への同伴を諦めたのでしょう。

 イヌの輸入に関しては日本は如何に厳格な警戒態勢を敷いているかが良く分かります。数少ない狂犬病清浄国の地位と名誉を絶体に手放す訳には行かないとの強い姿勢が感じ取れます。

 秋田犬そのものの話については別項にて展開したいと思います。








狂犬病の話


2019年4月5日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 4月になり、そろそろ狂犬病予防接種の始まる時節となりましたね。ここは1つ、動物の専門家、獣医師ならではの濃い話を展開しましょう。

 本邦では1950年に狂犬病予防法の成立を見、飼い犬を登録制として狂犬病ワクチン接種を義務化したこと、併せて野犬の捕獲を鋭意進めたことにより、狂犬病の一掃に成功しました。1956年を最後として、それ以降は国内感染による狂犬病は発生していません。狂犬病はイヌに固有の感染症では無く、ヒトを含めた全ての哺乳動物に感染し (スペクトルが広いと言う) 最後は重篤な脳炎を発症させる恐ろしいウイルス感染症です。発症後の治療法はなく、狂い死にするのを見ているだけになります。幸いにして日本の野生動物からも狂犬病ウイルスは検出されていません。

 但し、海外、特にアジア地区に於いては現在でも狂犬病が多発しており、毎年の死者は数万人に及びます。この様な状況を認識していない日本人が海外を訪れ、仏教やヒンズー教寺院の境内で野犬に咬まれたり、森から姿を現した小動物を撫でようとして咬まれたりする例が散見されるところです。ホテルに戻りフロント係に、さっき観光に出かけたお寺でイヌに咬まれちゃったよ、と話したところ、相手が青くなり大騒ぎになったとの事例も聞くところです。

  狂犬病からクリーン化された国は、日本、オーストラリア、グアム、ニュージーランド、フィジー、ハワイ諸島、アイスランド、アイルランド、英国(グレート・ブリテンおよび北アイルランドに限る)、スウェーデン、ノルウェーなどの数少ない国々ですが、これらの国の一部では狂犬病もどきと言って良い類似の感染症 (リッサウイルス感染症) にコウモリが感染しており、咬傷を受けて感染すると殆ど狂犬病に近い症状を発症して死亡します。本邦は先人の本症撲滅への篤い想いと努力が実りクリーン化され、現在も厳密な感染症予防管理態勢下にあります。その様な意識が波及した結果と院長は考えますが、幸い、コウモリに関しても狂犬病もどきの感染は検出されていません。

 野生動物は人間に対する警戒心が強く、自分から人前に出て来て接近する事は考えられませんが、狂犬病に感染して発症している動物個体は、一種の狂騒状態に有り、平然と接近して来ていきなり噛みつきますので、米国などで国立公園を散策中にリスが出て来た、可愛い〜、などと手を伸ばすと現地のレンジャーから、お前一体何をするんだとこっぴどく叱られてしまいます。狂犬病或いは狂犬病もどきに感染して発症しているコウモリは、山道を歩いている時などにいきなり舞い降りて肩に噛みついたりもしますので、厚めの生地の服で「武装」するのが最善です。まぁ、野生動物を甘く見ないことですね。人間に簡単に捕獲される様な個体についても、何らかの脳炎を発症しているのではと疑うことが大切です。


 近年国内では野良ネコ、不要犬の殺処分をストップさせて命を救おうとの動きが活発化してきていますが、その様な国は数少なく、人間の命を奪いかねない、何の感染症に罹患しているか分からない類いのイヌやネコは殺処分して当然と考えられている国も厳然として存在します。院長が子供の頃は、野犬狩りの部隊の様な組織−おそらくは保健所の下部組織−が地域の野犬を捕獲する作戦を遂行した、との報道も耳にした記憶があります。実際のところ、小学生の時に近くの公園に遊びに行く際に、毎度襲いかかってくるイヌがうろうろしており、院長の同級生で親しかったY君 (その後慶応大に進学) は怖がってぶるぶる震えていました。自転車に乗っている時ですが、院長も道の横から突然現れ追いかけてきた野犬 (別のイヌ) に脚を咬まれそうになった事もあります。今とは隔世の感がありますが (これは東京23区内の話!)、その様なイヌ(時代からして既に狂犬病には感染していなかったはずです) が、狂犬病汚染時代には鋭意捕獲・殺処分され清浄化が成し遂げられた訳です。

 狂犬病汚染地域で万一動物に咬まれた場合 (ウイルスは唾液中に存在)、傷口を石鹸を使い良く洗いウイルスを体内から排出する操作が大切です。院長コラムの破傷風の項でも触れましたが、咬傷のキズの状態が許せば血液をしつこく絞り出す操作も有効と思います。あとは直ちに現地医療機関を受診しワクチン接種等を受ける段取りとなりますが、不明時には大使館や総領事館等に迅速に相談すると良いでしょう。自分の人生が掛かっていますので大げさに騒ぎ立てるぐらいで良いと思います。

 感染が成立した場合、ウイルスは神経路をじわじわ遡上して脳に達します。この間1〜2ヶ月程度を要し、これが潜伏期となります。この間にワクチンの力でウイルスの遡上をストップ出来れば問題は起きませんが、ウイルスが脳に到達し軽度の脳炎症状が出始めたときはもう完全に手遅れとなり治療法はありません。破傷風は『震える舌』で映画化されましたが、人間の狂犬病はちょっと映画化は出来ないレベルの病態となります。日本が狂犬病撲滅に邁進したのも患者の悲惨な末期を見た周囲の人々の強い気持ちがあったからでしょう。


 獣医療の話に戻しますが、飼い犬は年に一度の狂犬病予防ワクチンの接種が義務付けられています。接種率が低下しているとも聞きますが、飼育しているイヌが万一第三者に噛みついた場合に未接種の場合は大ごとになりかねません。どの様な経路で海外から狂犬病ウイルスが持ち込まれるか予測がつきませんので、飼い主また周辺の人々、そしてペットの命を守る為にも予防接種は必ず受けて下さい。感染症に対して甘い態度を取ると、一瞬にして先人が築きあげた防波堤を越えられてしまい、本邦が汚染地域との認定を受ける事になりかねませんが、これは名誉な話ではありません。

 コウモリが狂犬病もどきのリッサウイルスに感染すると書きました (勿論狂犬病そのものにも感染します) が、純然たる狂犬病が撲滅出来たオーストラリアでは一方フルーツコウモリにこの感染が見られます。院長からすればこの感染症も狂犬病の範疇に含めて扱うべきと考えますが、噂では、狂犬病清浄国であるとの栄誉を失いたくないが為に、リッサウイルス感染症は狂犬病と異なるのだと政治的な背景で強弁していると聞いた事があります。観光客に対して狂犬病が無い国だ、安全だ、どうぞおいで下さいの旨を強調したい意図があるのではと思います。日本は現在、リッサウイルス感染症を含め清浄化されている数少ない国ですが、自然の中に出かけてもいきなり動物に噛みつかれることもない別次元の国であると、皆さんにはその幸せを噛みしめながら深呼吸して戴きたいと院長は思います。そしてそれがどのようにして達成されたのかをどうぞ時々思い返してください。

 狂犬病を含めた本邦の動物検疫体制については本項の続編、『ザギトワ選手と秋田犬マサル』にて後日触れます。







剽窃 と 捏造


2019年4月1日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 つい先ほど、新元号が令和であると発表されました。ラ行で始まる音が採用されるとは意外でしたが、凜とした発音の中にも力強い気持が込められている事が感じ取れました。


 さて、今日はエイプリルフールと言う事で、嘘にまつわる話題としましょうか。

 当院長コラムの、ホームページ開設のおしらせ、の項に、「本コラムに掲載される記事内容、アイデア等については、その全体もしくは一部について、改変等を含めた無断転載、剽窃、或いはそれらに類する行為を行う事を固く禁じます。」とのおきまりの文言を入れさせて戴きました。まじめに本コラムをお読み戴いている方々には全く無縁のことですが、ごく稀に、自分のものと他人のものの区別が甘い者が闖入し、記事内容やそれが含むアイデアを平然と抜き取り、あたかも自分のものであるかの様にさっと公開する例が残念ながら世の中には存在し、その様な者に対しての警告の文言となります。

 剽窃 ひょうせつ plagiarism プレイジャリズム とは、「他人の著作から,部分的に文章,語句,筋,思想などを盗み,自作の中に自分のものとして用いること」(ブリタニカ国際大百科事典)ですが、ひと頃、専門性を持たないライターが医学系サイトから記事内容を断り無く抜き取り、無断で加工の上、まとめサイトに大量に投稿し、サイト管理人が多額の広告収入を手にしていたことがあり社会問題化しました。そのようなライター側も自覚が低いと残念に感じますが、安い労働単価の元で不安定な売文稼業を送り、生活が苦しい側面もあるのでしょう。それでもおなかが空いたからと言ってコンビニでパンを万引きするのと同様、遣って良いことではありません。

 この様な行為は欧米では大変恥ずべき行為とされ、発覚時には厳しい社会的制裁 (大学を即座に退学処分、学会、マスコミ界からの永久追放など) を受けます。他人の記事を出典を明記して引用し (credit  を与えると言う)、その上でこの考えは素晴らしい、ここが疑問と思うなど、正々堂々と、自分のオリジナルな考えを追加して文章を作成する習慣を身に付ける様、教育機関は年齢の低い段階から力を入れるべきと院長は考えます。ここまでは誰々の考えだ、かくかくしかじかと言っている、しかしここからは僕、私の考えだ、と思考の系譜を明確にする訓練ですね。それで初めて文章に価値が出ると思います。


 残念ながら、院長の個人的な経験に過ぎませんが、小学校時代の国語の時間に、文章を書く事の1つの本質−自分の考えを明確に組み立てて開陳する為の作法−について教えを受けたことはありませんでした。只、訳も分からず、夏休みの間に作文を書いてこいと課題を出されるだけでした。エッセー風な内容を書けば、教員側も、小学生らしいと褒めあげた、いや、教員自体が文学の出来損ないみたいな文章が文章であると思い込んでいたのかもしれません。そこには他人の考えと自分の考えを峻別する隙はありません。人間の心情は基本、他人と同じだからです。この様な、文章書きに於ける同調的な習性の習得或いは 「刷り込み」 が剽窃に繋がる土台となっている様にも思います。かと言って理系出の国語教師など望むのは無理とも言えましょうが。1つの意味に於いて、「綴り方教室」の類いは抜本的に見直すべきではと院長は考えます。

 この様な非教育的背景のもと、ブログやSNS等にて、誰でも気軽に自分の書いた文章を公開出来る社会システムが整えられたことで、その波間に浮かぶ藻屑の様に、上述のライターが大量に現れたのでしょう。社会病理などと言う大仰な言葉は全く使う必要は無く、只の道具の誤使用ですね。

 研究者 (の卵) が、形だけの業績を取り敢えず得ようと、データをでっち上げて論文を書き、投稿後にそれが発覚して問題になる例も散見するところです。こちらは捏造(ねつぞう)   academic hoax と呼称します。皆様もご存知の様に、数年前に国内でも自殺者までを出す大問題が発覚し、世界に於ける日本の自然科学界への信頼性が落とされる事態を招きました。研究成果が上がらずに焦りを抱いている若手院生などが都合の良い架空のデータを差し込んで論文化し、指導教官と連名で投稿したはいいが、バレで失脚するとのパターンが多いように感じます。指導教官側もそりゃ良い結果が出たと、吟味することなく連名にし、発覚後に指導責任を取らされることになります。この事件の関係者の中に、院長の出身研究室に外部から来て一時席を置いていた者がおり、大変驚きました。その当人とは何かの折に同席して酒を呑んだ記憶もあります。身を引き締めねばと院長は思いを新たにした次第です。 

 今回はちょっと重い内容になってしまいましたが、次回からはまた、動物よもやま話に戻しますね。どうぞお楽しみください。








性格を激変させる病気- 甲状腺の話


2019年3月25日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今まで飼い主と穏やかに social  に過ごして来たペットが、急激に性格を(悪い方へ)変えることがあります。躾けも出来ていたはずが荒れ狂い手に負えなくなってしまった、或いは奇妙な行動を示す、反応に無関心になったなど、飼い主がどうしたものかと困惑する例ですね。行動が変化すると言う事は詰まりは行動の中枢である脳に何らかの影響が出ていることを示します。問題行動の発現時には、新たに躾け直す、行動学的な療法を行えば改善されるとの次元を超えた、何か医学的な原因が存在するのではないかと疑ってみる必要があります。病気の場合は、行動学的な解決策をいくら試みようとも根本的には改善を見ません。例えば院長の高血圧傾向に対して、心穏やかに過ごしなさいと言っても多少は影響するものの、その様な迂遠な方途に拠らず、減塩食にして降圧剤を服用すれば一発で低下する例です。まぁ、ここら辺を鋭い嗅覚で嗅ぎ分けるか否かが、おそらく凡庸な獣医師と名獣医との違いでしょうね。



 米国 webmed (医学情報を掲載し、広告収入を収益とするサイト) に、人間に関してですが、 「パーソナリティ 人格を変容させる医学的状態」 とのタイトルの分かり易い記事が掲載されていましたので紹介します。大変優しい英文ですので是非お目通し下さい。

https://www.webmd.com/mental-health/ss/slideshow-conditions-change-personality

Conditions That Can Change Your Personality


「パーソナリティとは

 あなたが考え、感じ、行動する全ての遣り方で 「あなた」 を形作るものがパーソナリティです。それは習慣であり癖であり、あなたを取り巻く世界にあなたがどう反応するかです。あなたの気分が変動しようとも、また何年に亘り物事を習い成長しようとも、確かに「あなた」であり続けるのです。しかしながら健康状態によっては、パーソナリティが影響され、本来のあなたの性格とは違う遣り方であなたを行動させてしまうものがあります。」


 この冒頭の文言に続き、アルツハイマー病、レビー小体痴呆、パーキンソン病、ハンチントン舞踏症、多発性硬化症、甲状腺疾患、脳腫瘍、ある種のタイプの癌、脳卒中、脳の外傷、鬱病、強迫性神経症、双極性障害、統合失調症と、性格に変化を与える疾患についての手短な解説が続くのですが、要は、脳内部での問題、或いはホルモンの異常で、脳が妙な動作を惹き起こす、この2つが原因です。ここでは、薬物中毒並びにウイルス脳症に起因する行動異常などは含められていません。飽くまで、身体内部に原因が存在するケースが扱われています。

 この様な全ての疾患は、等しく人間以外の哺乳動物でも起こりえる筈ですが、厳しい自然環境下で生活する野生獣にあっては、異常行動を示す個体は自ずと淘汰されます。飼育動物、特に愛玩動物は、人間の庇護下にあるので、病態が発現しても生存する可能性はあります。実際のところ、獣医療上で問題となるのは、これらの内の甲状腺疾患がほとんどを占めるだろうと思います。これは高齢のネコの約1割程度に発症する疾患であり大きな臨床的意義を持ちます。


  脳の視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン TRH が放出され、それが下垂体前葉に作用して甲状腺刺激ホルモン TSH を放出させ、更に今度はそれが標的器官である甲状腺に働いて甲状腺ホルモン Thyroid hormone TH を放出させると言う、玉突きの仕組みですが、高校の生物学ではこの程度のことは学習する筈です。視床下部、下垂体前葉、甲状腺のいずれかに問題が生じると、血中の甲状腺ホルモン値が正常な値から逸脱して問題が発生します。甲状腺ホルモンは1分子中にヨウ素を 3個 或いは 4個 抱えた構造ですが、全身のほぼ全ての細胞に作用してエネルギー産生を高めます。平たく言えば、ガスコンロのダイヤルを右に回す作用ですね。平常よりホルモン量が多ければ、火の勢いが強くなってカッカカッカ来て煮こぼれますし、量が少なければ、とろ火になり、いつまで経っても煮え切りません。前者の状態を甲状腺機能亢進症 hypertthyroidism ハイパーサイロイディズムと呼び、一方後者の状態を甲状腺機能低下症 hypothyroidism ハイポサイロイディズムと呼びます (hyper-,hypo- は各ギリシャ語由来の、上、超、下、未満の意味の接頭語)。

 大変興味深いことに、特に精神性の高度に発達する人間に於いては、甲状腺ホルモンの血中濃度の逸脱が、当人の性格に多大な影響を及ぼします。

 これに関しては、熊本の甲状腺専門病院である田尻クリニックのホームページに掲載された The Thyroid Solution の和訳が分かり易く、また参考になる筈です。院長もこの書籍を持っているのですが、こちらの和訳には大変助かっています。是非、お目通し下さい。結婚生活を送っている内に、配偶者が理不尽なことで相手を攻撃し始め、それに反論すれば更に火に油を注ぐようになって収拾が付かなくなる例が掲載されています。院長は人間の精神医学には素人ですが、ひょっとするとパラノイアと診断される者の一部、或いは現在問題になっている DV (児童虐待等を含めた家庭内暴力)の原因の一定程度は、甲状腺機能の異常が関与する様に思います。甲状腺ホルモンの過剰で、もちろん人に拠ってですが、重症化すると、ハイド氏化する事もあると言って良いのかもしれません。

 ネコの場合は烈しい暴力ネコに変貌するまでには至りませんが、治療前には大変苦しそうで、また毛づやもなくなり被毛はガサガサだったネコが、治療後は打って変わって落ち着きも取り戻し、別のネコの様になります。

 ペットのネコ (特に10歳以上の高齢ネコ) が食欲増進の割には痩せてきた、そわそわして何か落ち着かない、多飲多尿、毛づやが悪くなってきた、、性格がキツくなった、吐き気がある、などが見られましたら是非早めに近医を受診して下さい。放射性ヨード剤 (甲状腺内のホルモンを作る細胞自体を破壊します、一度で治療完了) を利用するには、専用の施設が必要となり、専門病院以外では他の治療薬 (甲状腺ホルモンの合成経路を阻害します、終生服薬する必要あり) を使用する筈です。発生率が高い疾患ですので知識として頭に入れておくことをお奨めします。








破傷風の話


2019年3月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。


  『ミツバチは家畜か?』 の項でボツリヌス菌について触れましたが、この菌に近い仲間で、同じく無酸素状態の土壌や池の泥の中で存在する破傷風菌があり、こちらは傷口内部で芽胞が 「芽を出し」 、増殖した菌が神経毒を産生し、それが脳神経を冒し、ボツリヌス毒素とは真逆の症状、即ち筋肉の烈しい痙攣を引き起こします。

  院長が子供の頃は土にトンネルを掘って遊ぶのが好きでしたので、それを見た母親からは、破傷風になっちゃうよと良く注意されました。現在でも一度発症するとその後の治療はけして楽には進まない様です。30年以上前に、松竹映画の 『震える舌』 を見た事がありますが、破傷風の病状がリアルに描写されていました。烈しい筋の強縮がちょっとした刺激で発作的に起き、患者はのたうち回ります (正しくはのたうち回ることすらできません)。狂犬病は咬傷からウイルスが神経路を遡上して脳に達し、烈しい症状を引き起こしますが、破傷風も中枢神経系を冒す点に於いては類似し、これほど恐ろしい感染症も稀かと思わされます。

 尚、国立感染症研究所の web サイトに拠ると、現在でも依然として致死率は 20〜50% の水準にあるとのことです。

  個人的な話となりますが、院長の通学していた高校は、千葉の、とあるところに合宿場を持っており、時々そこでレクリエーションなどを行っていました。その場所の土壌が破傷風菌に汚染されていた模様で、私の何年か前の生徒が破傷風を発症し不幸にして亡くなったとのことで、入学後は全員が破傷風トキソイドの接種を 2度受けさせられました。大学の微生物学の講義で、家畜の中でも特に馬が破傷風に感受性が高く、つまりは感染し易い、それゆえ、馬の集積していた土地、即ち、牧場や軍隊の練兵場だった土地は破傷風菌に汚染されている可能性がある、と習いました。千葉には有名な観光牧場もありますが、その様な場所で、ガラスで指を切る、ナイフの刃が刺さった、釘が刺さった、鉄条網の針が刺さったなどの深度のある傷を負った場合、破傷風の危険性を思い浮かべた方が良いでしょう。破傷風は酸素があると増殖出来ませんので、傷が深く大気に暴露されない環境で増殖を開始します。深さのある傷が危ないと言う訳です。尤も、上記サイトに拠ると、本邦で年間に 100名程度発症する患者の内、3割程度は感染部位が不明であり、ちょっとした小さな傷であっても内部に芽胞が残留すると危険である可能性も捨てられません。


  汚染地区と判明している、していないに関わらず、(深い) 傷に対しては、その場で血液を何度も絞り出して、土壌や汚れを体外に押し流す応急処置を行う事をお奨めします。破傷風への警戒に限らず、動物の歯牙に拠る咬傷、爪に拠る引っ掻き傷の場合も−動脈から烈しく出血している場合は勿論別ですが−この方法を取り敢えずは即座に取って下さい。院長は、ヘルペスBウイルス(脳炎を起こす!)陽性のサルに咬まれたことがありますが、この時はぬるま湯の流水下で30分程度傷を圧搾して血液を絞る処置を続けましたが、それが効いたのかその後発症もせずに胸をなで下ろした経験があります。ヘルペスBを抑える抗ウイルス薬のアシクロビル製剤は、まさかの時に備えて職場の感染症科の I 先生に相談して事前に受け取っていたのですが、副作用に精神疾患を来す虞があり、飲むに飲めません・・・。まぁ、これまで何度も書いていますが、獣医師なる職業は、単に動物が好き程度ではとても勤まりません。

  東京近辺の話をすると、原宿の竹下通りにもすぐ近く、明治神宮横の代々木公園ですが、ここは昔は代々木練兵場として使用されていた土地ですので、軍馬が行き来したこともあるでしょう。現況では刺し傷を負うような環境にはなく安全に整備されていると思いますが、一応は破傷風の事を頭の片隅に置いておくと良いかと思います。

  因みに、家畜伝染病予防法施行規則第二条では牛、水牛、鹿、馬に対して破傷風が届け出伝染病として規定されています。法定伝染病ほどでは無いが、一応は危ない感染症だ、との位置づけでしょう。

  ペットを含め動物と接するときは、必ず感染症について思い浮かべるようにして下さい。それを取り除いたクリーンな動物となって初めて、愛玩するに値する対象となることを忘れないで戴きたいと思います。

 上でチラと触れましたが、狂犬病については後日 expand  して記事にしたいと思います。








ミツバチは家畜か?


2019年3月15日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。


 ミツバチは家畜か?、といきなり何を言い出すのか、とビックリされた方もおられるに違いなかろうと思います。春も間近となり院長の脳裏にはふとレンゲの花のピンク色が浮かびました。レンゲと言えばハチミツですので今回はミツバチを採り上げます。

 家畜伝染病予防法 (昭和二十六年法律第百六十六号) 第二条は、家畜伝染病の定義を規定しています。この条文は家畜の種類とその指定伝染性疾患とを羅列する内容ですが、例えば、豚に対しては、豚コレラ、アフリカ豚コレラ、豚水胞病と、3種類が定められています。そしてその最後の28番目に、なんと <蜜蜂 腐蛆病 ふそびょう> と記されています。つまり、ミツバチは正真正銘の家畜の扱いと言う次第です。

 因みに、家畜伝染病予防法施行規則 (昭和二十六年農林省令第三十五号) では、更にミツバチに対して、バロア病、チョーク病、アカリンダニ症、ノゼマ病の4つが届け出伝染病として指定されています。正直、いずれも院長には見当も付かない感染症です。

 勿論、ミツバチは獣医師法が規定する飼育動物には該当せず、業としてミツバチに対して医療行為を施しても誰にもお咎めはありません。但し、家畜伝染病予防法が規定する法定伝染病ですので、感染が疑われる際には管轄の家畜保健所に届けを出さねばなりません。おそらく届けるのは養蜂業者本人でしょう。実際の消毒や予防薬の散布等については、ノウハウも持っている獣医師の指導の下に行われるのではと思いますが、ひょっとすると予防薬  (これは動物用医薬品扱い) の販売元の社員が直接現場に乗り出すシーンもあるのかしれませんね。原則治療は行わず、全て焼却処分し、感染の拡大を防止する策に出ます。まぁ、法定伝染病に指定されるぐらいですから感染力も強く、治療の対象とせずに殺処分のみなのでしょう。

 院長は子供の時分にアシナガバチに刺された記憶はありますが、ミツバチを含めてハチを飼育した経験無く (皆さんもそうだと思いますけれど)、勿論、腐蛆病の実態を観察したこともありません。全く異なる菌に拠る、アメリカ腐蛆病とヨーロッパ腐蛆病の2種類がある事も知りませんでした。

 余談ですが、昔はカイコも家畜の列に加わっていた記憶があるのですが、現行の法律の条文に見つけることが出来ませんでした。


 昆虫と言えども、哺乳動物と同様に、細菌、ウイルス、寄生虫などには冒されますし、細菌自身もウイルスに冒されます (バクテリオファージと総称します)。この世の中、生きとし生けるものは組んずほぐれつの八百八病合戦ですね。

 2017年の4月に、ハチミツを食べた幼児が乳児ボツリヌス症に罹患し亡くなるとの痛ましい事例が報道されました。1歳未満の乳幼児では腸内細菌叢が整っておらず、大人では腸内細菌により制圧されるボツリヌス菌が増殖し、それが産生するボツリヌス毒素(菌外毒素)の影響を受けるとの機序です。ボツリヌス菌は加熱に強く、またハチミツは風味や成分を保つため特に加熱もせずに容器に詰められて市販されるゆえ、ボツリヌス菌が生きた状態で (正確には休眠状態の芽胞として) 存在していることになります。厚生労働省がホームページで注意を喚起していますので検索してご覧下さい。

 ヒトと同様、幼弱な哺乳動物に対してもハチミツの投与は控えるべきでしょう。

 ボツリヌス毒素は、神経からの指令を筋肉に伝達する中継点 (神経筋接合部) の機能を阻害しますので、その先の筋肉が弛緩した状態となり機能しなくなります。これが呼吸に関与する筋であれば息が出来なくなる訳です。

 ハチミツは働き蜂が口から吸い込んで採取し、巣に戻って吐き出し、巣の壁に塗り延ばします。この過程で蜜中のショ糖 (砂糖のこと) が酵素により分解され、ブドウ糖+果糖の混合物となります。巣を遠心分離して得られたハチミツ中には、これら糖類の他、巣の破片、ミツバチの唾液、花粉などが混入した状態です。植物が蜜腺から分泌する蜜自体は菌に汚染されていませんが、花びら、花粉などにボツリヌス菌の芽胞が付着しており、ハチミツに菌が混じるものと思われます。ハチミツ中では芽胞は休眠したままでパック化された状態であり、ミツバチに対しては作用しないと思われます。

 中国は10年ほど前から世界一位のハチミツ生産国となっていますが、腐蛆病の予防の為に、一部で大量のテトラサイクリン (抗生物質の一種) が利用されているとの話も聞きます。これが仮にハチミツ中に残留していれば健康被害をもたらす可能性があります。健康食品として摂る意味が無くなってしまいますね。腐蛆病とハチミツの話がここに至ってやっと結びつきましたが、皆さんもどうぞ信用ある出どころのハチミツをお求め下さい。そして乳幼児の口に入らぬよう徹底して下さい。








働き者のナマケモノ


2019年3月10日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。


 当クリニックのシンボルマークは枝からぶら下がるナマケモノのイラストです。これは何も院長自身を諧謔の精神でシンボライズした訳では無く、院長が現在、動物のぶら下がり動作について研究を続けている事に関係しています・・・。

 ぶら下がるとは言っても、ナマケモノは大きくカーブした強大な爪をフックの様に引っかけてぶら下がりを行いますので、テナガザルなどが指を曲げて枝にぶら下がる (親指は利用せず、残りの4指をフック状に曲げそれでぶら下がる、筋収縮に拠る) のとは大きく異なり、エネルギー消費は大変少ない筈です。ぶら下がりながらも時々水平方向に移動しますが、その際に前後肢 (ぜんこうし、手足のこと) をどの様に動かし、また体幹 (たいかん、手足を除いた胴体のこと) の揺れはどうなるのか記録すべく、数カ所の動物園でビデオ撮影を行いましたが、数時間掛けても動いている姿を全く撮影できませんでした。樹上の、枝が三つ叉になった様な場所に挟まって丸まり、微動だにしません。動物園に協力を頼んでビデオ機材を設置し、夜間等に高感度撮影すれば録れるとは思いますが、そこまで行く前に気持が萎えてしまったのです。これもナマケモノの影響かもしれませんけれど。

 系統 (=血の濃さの近縁関係) 的にはアリクイなどに近いとされます。オオアリクイを観察すると、手の爪が巨大なフック状を呈し、地上を歩く際には、ゲンコを握るようにして歩きますので  (ナックルウォーキングの一種ですが類人猿のものとは異なります)、それを木に引っかければぶら下がり動物の誕生と相成ります。実際コアリクイは爪のサイズは小振りですが盛んに木登りをします。数千年前まではオオナマケモノと言う巨大な地上性の仲間が居て、復元された化石から考えると、手の方はオオアリクイ型のゲンコ型、一方足は開いたペタンコ型に見えます。いずれも近縁の動物は手の形が同じ様に変わり、ガリガリと物を削るに適した道具になっています。その形質を保ったまま、地上を歩き回るご先祖様 (但し手が道具化しているゆえ四足歩行はヨタヨタの傾向) から分かれ、今度は究極のぶら下がり省エネ動物と化して現在に生き延びて来たのがナマケモノでしょう (上記内容は5年ほど前に学会発表しています)。


 海外の動物園ではナマケモノに働いて貰い、観客の目の前でぶら下がり移動をさせたりするところもあります。動物虐待と非難される可能性もなきにしもあらずですが、完全なる平和主義者のナマケモノ君は愛嬌ある、にこやかな顔付きのまま、のそりと動きます。国内の動物園でも、少しぐらいなら寝ているだけのナマケモノに働いて貰い、動物園の経営安定の為に協力して貰うのも悪くはないのではと院長は思いますが如何でしょうか?人気も出そうに思います。まぁ、研究面でもヒントが得やすくなり大変有り難いのですが。但し、ナマケモノが慣れない運動でヘタってしまったら、楽屋で専用にあつらえたドリンク剤でも飲ませた方がいいかもしれません。ここら辺は獣医の腕の見せ所ですね。

 一度、研究費からナマケモノを購入し、動物業者に依頼して個人輸入しようかと考えたことがありました。環境省 (当時はまだ環境庁でした) に電話して相談したところ、ミユビナマケモノは輸入できそうだとの返答を貰ったのですが、結局輸入は断念してしまいました。指導教官だったM先生は、ある動物を一生懸命研究していると次第に顔がその動物に似てくる、との持論でしたが、お前、近頃顔がサルに似てきたぞ、と褒められた事がありました。ナマケモノを輸入して飼育していたら顔が似てきたかもしれませんが、動きものろくなっていたのかも?!

 尚、英名 sloth (スロース)は、中世英語 slowth に由来しますが、見ての通りで slow だからです。

 他の四足獣とは重力方向に関して正反対の過ごし方をしますので、筋骨格系の形態&機能について興味を抱いています (研究をお考えの方は院長宛ご連絡ください)。ちなみにナマケモノが地上に降りると四肢で体幹をまともに支えることが出来ず、潰れたような姿になって這い進みます。水の中では浮力に助けられ、院長には巧みには見えませんが、泳ぐ事は可能です。泳法は<犬かき>ですね。

 ナマケモノに近縁とされるオオアリクイとコアリクイについては別項で触れたいと思います。








オンライン医療について


2019年3月5日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。


 当クリニックホームページの<よくある質問>のページにて、動物用医薬品、漢方薬の処方はしてもらえますか?の問いに対し、お薬に関しては、獣医師として最初の1回は動物を直接診断の上、処方・投薬することが強く望まれます(獣医師法第18条の規定)と院長は答えています。

これについて話を expand  しましょう。


獣医師法

(昭和二十四年法律第百八十六号)

第十八条 獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。


 との条文があります。冒頭の、「自ら診察しないで」の下りが今後明確化される可能性はあるでしょう。

 人の医療の場合ですが、高齢者ばかりの孤立集落が増加し、患者と医者の側が物理的に接触するのがほぼ不可能なケースが生じ、社会問題化もしつつある現況ですが、これにどう対処すべきかの議論が始まっています。一度オペを受け心臓ペースメーカを埋め込んだ患者が電話回線で時々波形を送り医師の診察を受ける例は開始されて既に40年ほど経過すると思いますが、問題は初診の患者をどう扱うかに尽きると思います。


 獣医療のケースでは(人間の医療でも然りですが)、重篤な、或いは緊急を要する疾病、疾患等に対しては、動物を直接目の当たりにしての検査並びに確定診断、そして治療に取り掛かるべきは当然ですが、既に他医にて確定診断を得、その後に慢性的な状態が継続し、飼い主様側で 血圧、脈拍数、呼吸数、体温の推移などを記録したデータを準備し、これまでの疾病・疾患の経過、他医での獣医療受診状況を問診し、これらを遠隔で遣り取りする場合は、その医療行為も「自ら診察する」と規定される様に法律が改定される可能性はあるでしょう。

 近年はいわゆるスマートウォッチの類いが手頃な金額で入手出来る様になり、身体に取り付ける小型の装置と併用することによって、睡眠時の状態や一日の運動状況、運動の質、消費カロリーまでもが分かるものが出ています。これらの機材(動物用)の精度が公的機関等のテストをパスするなどし、得られたデータの信用性が高いものとなれば、飼い主様側に対して十分な注意を与えた上で、緩い作用の動物用医薬等に限定し、処方して良い様にも院長は考えます。緩い作用の医薬品とは、人間の医療で言う降圧剤や東洋医学の薬剤等ですね。初診以降、時々遠隔診察し、必要であれば服用量の増減等について飼い主様側に細やかな指示を行えばよいでしょう。

 慢性疾患或いは高齢のため、起立不能、或いはそれに近い状態の飼育動物は、近医に受診する自体が困難ですが、獣医師側が車で往診してその場で採血、採尿、触診、聴診、超音波診断等の軽度な検査を行ったにせよ(CTやMRI機材を搭載した大型トラックを利用しての往診は考えられませんね)、診断の主たる材料は結局過去の治療歴の問診となるでしょう。往診に出かけたところで獣医師側には出来ることに限界があると言うことです。寧ろ、自分の住むところに第三者が入り込んで身体をいじられる事は動物側には大きなストレスとなり、診療後に病状が不安定化する弊害が発生する可能性はゼロではなく、これを避ける事ができます。この様なことを鑑みると、遣り取りする情報並びにその記録の正確性が担保される限りに於いて、一部に於いて初診の遠隔診断を可とすべき合理性はあると考えます。

 往診に気軽に応じてくれる開業医が近くに見付かれば最善ですが、そうではない場合には、遠隔で診療してくれる獣医師を探し出して対応を図る、との流れです。

 現状でも「劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品若しくは農林水産省令で定める再生医療等製品」以外のものは、獣医師の「自らの診断無し」で投与などは可能ですが、サプリメント類などがこれに該当するでしょう。漢方薬(の一部)もこれに含めて良い可能性もありますが、実施に当たっては事前に必ず農林水産省の担当官と相談すべきでしょうね。

 当クリニック院長は、遠隔診療、診断に基づく医薬品等の処方、投与は現況では考えていません。様子見しているところですがご了解ください。また、個人輸入等を通じて駆虫薬、その他の治療薬を購入したが使い方を教えて欲しい等のご相談は一切お断りしています。獣医師として責任を持って対応することが不可能だからです。

 飼い主様側、獣医師側双方に利益のある方向に、法律が改定されて行くことを望んでいます。








奥多摩のオオカミ信仰


2019年3月1日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。


 カワネズミの項で北大の大館先生について触れましたが、院長と大館先生とのコンタクトを取り持ってくれたのは、高校生の時から動物についてのホームページを立ち上げていたN君であり、北大の大学院に在籍していた彼の仲立ちでした。それより以前の話ですが、そのN君とある時、カエルの採集にでも行こうかとなり、JR五日市線の終点、武蔵五日市駅前で待ち合わせました(それまでN君とは何度も会っています)。小山や川を超えるとあまり大きくはない池があり、結構な数の子供たち、また家族連れで賑わっていました。途中、モリアオガエルが産卵した泡状の卵塊が木の葉から下がっているところもありました。そこそこの数のカエルをcatch & release してから帰途に着きましたが、その折りに、人家の表札の横に縦長の白い紙(護符)が貼られているのが目に入ったのです。

 それには線画のオオカミが描かれていましたので、本当にオオカミ信仰がまだ息づいているんだぁ、と大変驚きました。

 調べてみると有名な三峯神社、武蔵御嶽神社を始め、奥多摩近辺の社ではオオカミが神の使い、御眷族(ごけんぞく)とされ、それら社の力の及ぶ地域では、敬われ、そして同時に怖れられても居る様です。超自然的な力、魔力を持つ存在ですね。

 院長の書庫から出てきた 『幻のニホンオオカミ』 柳井賢治著、さきたま出版会、1993年には三峯神社にまつわる逸話が掲載されていますのでご紹介しましょう。


*赤工(あかだくみ)村(現在の飯能市の一部)に分限者(大金持ち)が居たが、ある時大金が盗まれてしまった。分限者は誰が盗んだのか心当たりも無く、悩んでいる内に精神的に弱ってしまった。それを見かねた者が三峯神社から御眷族様を借りて来ればこれ以上の災厄も起きずに安心だろうと忠言してくれたので、末弟を使いに出して御眷族様を借りに行かせた。神社の神職が「表」にするか「裏」にするのかと謎めいた事を言う。表とは目に見えるオイヌサマをお借りすることだと神職は教えてくれたが、末弟もそれ以上知らぬそぶりを見せるのも恥と考え、良くは分からないが思い切って「表」の御眷族様を借りる事にした。奉納金を支払っての帰途、チラとオオカミの姿が見えた。屋敷に戻り兄の分限者に御眷族様を借りて来た旨を伝えると、裏の方ですさまじい叫び声が聞こえた。皆で駆けつけてみると物置小屋の中で分限者の息子が血だらけになって息絶えており、辺りには盗まれた小判が散らばっていた。分限者は、末弟と二人きりとなると、あの時お前に御眷族様を借りに行かせなければ息子もこうはならなかったのだが、とこぼしたとのことである(院長抄)。


 お金は取り戻せたのですが、犯人だった息子がかみ殺されてしまった訳ですね。


 院長は小学校高学年の頃、父親に連れられて三峯神社と武蔵御嶽神社には詣でた事があります。とは言っても正月では無く、夏休みの間でした。軽いハイキングがてらですね。当時は子供心の脳天気の物見遊山気分であり、オオカミ信仰など全く知りませんでした。仮に知っていたら恐ろしくて出掛けられなかったかもしれません。父親も<奥多摩系>の出なのですが、オオカミについて院長に語ったことは一度もありません。只、それから30年ほど経過した或る日、奥多摩の、とある神社に自分の一族の家系について記された絵馬が奉納してある、それを書き写して巻物に仕立てたからお前に渡すと言われ、それには信憑性はともかくも室町時代に遡る由来が書かれていました。と言う次第で自分のご先祖様もオオカミ信仰に生きていた時代があったのはどうも確実そうです。その巻物は今この文章を打っているPCのすぐ横の戸棚に放り込んであります・・・。ニホンオオカミについて書かれた記事は多いですが、オオカミ信仰の「当事者」(の末裔)が書いたものは珍しいのではと思います。オレってオオカミ系なんだぁ、と今改めて思っています。その割には糸切り歯も小さくどちらかと言うとおとなしめの顔なのですが。

 山道でうしろからオオカミが着いてくる足音が聞こえたらけして振り向いたり転んだりしてはならぬ、そうするとかみ殺されてしまうとの伝承があったと柳井氏の記述にありますが、一人で寂しい山道を歩く時の恐怖心が嫌が上にも掻き立てられます。院長も単独の山行の経験が何度かありますが、夕闇迫る中で道に迷った時ほどの恐怖感と半ば絶望に満ちた焦りの気持は他にはありません。神の使いとなった御眷族様を自分の守りとして、山中のオオカミからの危難を避けたいとの痛いほどの気持は十分に理解できます。

 武蔵御嶽神社のホームページを見ると、「近年はおいぬ様にちなみ、愛犬の健康を祈願する人たちで賑わうに至り、社頭で愛犬祈願を執り行う」、とあります。時代は変わったなぁと実感しますが、神の使いとなった御眷族様が自分たちの子孫でもあるイヌを守るのは納得が出来ることです。開業獣医師やスタッフも、イヌがいつも大変お世話になっています、と参拝するのも良いかもしれませんね。

 ニホンオオカミがどうして絶滅してしまったのかについてはweb を参照すると(毎度のごとくの)幾つかの説が出てきますが、その他のニホンオオカミにまつわる話を含め、項目を改めて後日書ければと思います。








幻の動物 カワネズミ


2019年2月25日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 獣医師が取り扱うべき飼育動物の話がしばらく続きましたが、本邦棲息の野生動物種を話題として採り上げるのも気分転換には良いでしょう。候補を幾つか絞ったのですが、初回としてカワネズミを採り上げます。研究者は「幻の動物」扱いするとはケシカラん、と立腹されるかもしれませんが、特に動物学的な興味を持たない一般の方々には今回初めて名前を聞いた、なにそれ?と思われる方がほとんどでしょう。−と、エラそうな事を言ってますが実は院長もまだカワネズミの生きている現物は見た経験がありません。

 普段は土中生活のモグラさえ、いざと言う時は藻掻くような泳法ながら泳ぎも可能です(院長が飼育していたモグラで確認済みです)。水恐怖症の類人猿などを除き、大方の陸生哺乳類はこの様に泳げなくはありません。ところが山中に生息するカワネズミは時々泳ぐの域を超え、メインの生活環境が水辺(渓流域)であり且つ素潜りの達人でもあります。一体どうなっているの?!と想像も付かないのではないでしょうか。

 ネズミの名前が付きますが、家の天井裏で運動会を行うネズミとは全く異なり、トガリネズミと言う、顔の先がとんがった小動物の一群が居るのですが、その仲間の動物です。wikipedia 掲載の写真を見る限り、カワネズミは他のトガリネズミとは外見的特徴に大きく異なるところは感じられません。東京近辺に在住の方ならご存じの高尾山ですが、その登山道の脇に、トガリネズミの死体が転がっているのを割と頻繁に目撃もしますが、灰色〜黒めの色調の、か細い毛が密生した、尻尾の長くてカリカリにやせ細った、顔の尖った得体の知れない小さな生き物を見て、うわぁ〜となるのがオチでしょう。

 トガリネズミの仲間は、多くは森林の落ち葉の中をごそごそと進み、昆虫やミミズなどを採食していますが、幾らか土中生活性を強めたり(北海道に生息するオオアシトガリネズミ)、と生活圏を拡大するものが混じります。カワネズミは祖先が水辺で餌を採る方向に活路を見いだし、「敵もいないし食べものも豊富でこりゃええ」と水中生活性にも特化して行ったものと思われますが(我ながらお粗末なレベルの進化学説)、トガリネズミの仲間とは随分と柔軟な適応性を持つもつ動物群である、とその地味な外見とのギャップに驚かされます。

 かれこれ10年ほど前になるかと思いますが、院長がモグラの手の進化について調べていた時に、北海道大学の大館先生にお願いして、北海道ではモグラ扱いされるオオアシトガリネズミ並びに世界最小の哺乳類とされるチビトガリネズミ(院長の親指をやや太くした程度のサイズでした)の標本を学術用研究資料としてお譲り戴きました。津軽海峡を越えた先の北海道の大地には真のモグラが生息せず、その隙間を埋めるかの様に、オオアシトガリネズミがそこそこの土中生活性を強めていると知り、手の形態 & 機能をモグラと比較する目的での入手でした。結論を言うと、オオアシトガリネズミは哺乳類の基本動作のままの<犬かき型>の前肢運動で土を掘削しているものと考えられ、モグラの様な高度な特殊化した形態変化は観察されませんでした。大館先生からはオオアシトガリネズミが爪の部分を強大化し伸張させているのとのご指摘を戴きました。また40cmぐらいの深さまで穴を掘ると併せて聞きましたが、掘削の力は格段に強いものでは無いと推定され、基本的に柔らかいフワフワした土壌を掘り進むのものと考えました。前肢形態が他のトガリネズミに比較して強大化しているとの文献が出ている様ですが院長は怠慢で入手していません。モグラの様な土中生活性の傾斜は見られるものの掘削生活に適応した形態変化はまだ弱いレベルにあるものと考えています。

 カワネズミに関してですが、実物を前にしていませんので単なる推測に過ぎませんが、写真の外見を見る限りでは、水中生活性に向けた特殊化の程度は弱く、文字通りの「毛が生えた」(wikipedia の記述に、指趾の側面に扁平な剛毛があり、水かきの役割をする、とあります)程度の改変 modification に留まっているのかなぁとの感想です。

 院長宅の書庫の奥から 『カワネズミの谷』 北垣憲仁著、フレーベル館発行、1996年が見つかりましたので久しぶりにページをめくってみました。子供向けの図書の位置づけではありますが、水中遊泳時の貴重な写真が数カット収録され、記述も  informative  であり、学術的にも大変価値ある出版物と感じます。ゆびの剛毛の写真も掲載され、各指趾(しし、指は手ゆび、趾は足ゆびの意)の側面と言うよりは、甲では無い腹側の方に、硬そうな毛がびっしりと配列し(服の埃を払うブラシの様に見えます)、これは確かに遊泳時にはすぼんだり開いたりして水かきの際の抵抗値を増減・調節するのに役立ちそうです。また、あまり鮮明では無いのですが、手を身体の側方に突き出してオール漕ぎをしている様に見える写真がありました。腕の動きが単なる犬かき型ではない可能性がありますが、軽度であれ前肢の関節構造が変化しているのかもしれません。院長の様な、ロコモーション(動物の移動運動性のこと)の研究者サイドからすると、運動性に関する記述がもう少し欲しいところですが、分類、生態をメインとする研究者にはその関心は薄く、自分で生体を観察する以外にはありませんね。

 本書の中程のコラムで今泉吉晴氏が、水中生活性のミズトガリネズミ並びに水生のモグラ、デスマンについて記事を書かれていますが、カワネズミに限らず水の世界に進出した仲間はそこそこ居る模様です。デスマンの写真が掲載されていますが他のモグラと違って手のサイズが小さく、形態と機能の関連を調べると面白ろそうに思います(wikipedia でロシアデスマンの鮮明な写真を見る事が出来ます)。日本近辺には生息しませんので、ロシアやヨーロッパに出かけて(勿論許可を得た上で)自分で捕獲するしか無さそうです。現地の研究者から譲渡を受ける手もありますが、そもそも研究している者が居なさそうに見えます。

 トガリネズミの仲間の、顔が尖っていてほっそりした体型は、堆積した落ち葉の中や水の中を進んでいくには好都合な造りとも言えますが、まぁ、形態的な変化が少ない中で新たな生活環境に乗り出している生き物と言う点で面白いと感じています。共通点は落ち葉の中にせよ、土の中にせよ、水の中にせよ、「もぐり」がキーワードの動物群と言えましょうか。未来のことは分かりませんが、後から形態進化が追いついていく実例となるかもしれません。ボデイサイズではトガリネズミよりカワネズミの方が大きい(水性モグラのデスマンも大きい)ですが、これは水中での体温保持には有利でしょう。

 カワネズミを始め、トガリネズミ、ジネズミなどの一群の動物に関してはO先生を含めた北大の研究者が主に分類や生態面で鋭意研究を続けています。この先も面白い話が聴けることを期待しています。








動物好きは獣医に向くのか?


2019年2月23日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 web の相談コーナーで、「自分は動物が好きなので将来獣医師になって動物たちを助けたいが、XX大学への進学を考えている、助言が欲しい」旨の進路相談を求める中高校生が散見されます。今回はこの様な希望や展望はどうなのかについて院長の考えを述べたいと思います。

 最初に、この問い掛けの<動物>の語を<人間>に置き換えたらどうでしょうか。自分は人間が好きだから将来医師になって人間を助けたい、となりますね。

 日本の医者の卵たちは、実際のところ、人間が好きだから医者になりたいと強く意識して医学部に入った訳ではないでしょう。高度な学力を基盤とした上で、将来の社会的地位、経済的余裕を得たい、或いは医学への強い興味がある、が第一だろうと思います。元々頭脳の優れた人間であれば、医学教育或いは実際の臨床経験を通じて人間性も涵養され向上し、優れた医療の出来る臨床医或いは研究学徒となり、結果として人間を助ける事が可能になる筈です。

 院長が獣医の道に進んだのは、<動物が好き>なのではなく、<動物のことを知りたい>、<動物の本質を理解したい>とのいわば知的好奇心が後押ししたからだろうと思います。個人的には飼育していたペットにまつわる悲しい経験も幾つかあったのですが、病気の動物を進んで助けたいとの気持はほとんど全く持ち合わせていなかったのが正直なところです。実は院長の指導教官のM先生−当時農学部長の要職にありましたが定年退官後は日大獣医の教授に就かれました−が、動物が好きだと言って獣医学科に進学してくる奴が良く居るけどありゃ駄目だね、と酒を呑むと仰っていました。動物の好き嫌いなど関係ない、対象をscientist として冷徹な視点で一度突き放して見ることが出来る、それが大切だ、と言う事です。それでこそ優れた科学的発見、或いは獣医療の道に進むことが出来、結果として動物更にはその飼い主を救うことに繋がる、ですね。

 イヌやネコなどの動物が好き、ペットとして可愛がっていた、乗馬教室に通っているが馬が可愛いくてしかたがない(これらは獣医師から見ると「お客さん」側の視点です)と言うのでは無く、動物園に居る様な動物、或いはそのほかの脊椎動物のことが面白くて堪らない、もっともっと学びたい、知りたいと言う意味での「動物好き」であれば進学する適性は大いにあるだろうと思います。院長側からすれば「こちら側」の人間です。心情的な好き嫌いのレベルでは無く、どうして?なぜ?の、動物の科学についての知的好奇心や探究心が沸き上がってくる者であれば、タフさが要求される6年間の教育課程を遣り過ごす事が出来るでしょう。まぁ、基本的に生物学徒の気(け)の持ち主であれば宜しいだろうと思います。

 飼い主様向けの営業トークとして、「自分は子供の頃から動物が好きでした、獣医という仕事があることを知り中学生の頃に獣医師になろうと志しました、XX大学卒業後は10年他院で修行し、開業を果たしました、動物の気持に寄り添う獣医として診療を行っています、ワクチンの注射はXX円、避妊手術はXX円で・・・」と優しい語り口で集患を行う開業医も見受けられます。まさか本心でこの程度の事を語っているとしたら院長はM先生同様、こりゃ駄目だと思わず口にしそうです。飼い主様やペットに優しく配慮するのは当然ですが(これもより良き診療のため)、中身は如何にして治療を行い、相手側を幸福にできるのかの冷徹な判断を行う厳しさが無ければいけませんね。何しろ命を扱う仕事なのですから。向こう側とこちら側の峻別が出来ているかが大切ではと思います。獣医師自身が「お客さん」側でしたら自覚の低い獣医師と言わざるを得ません。−ほとんどの開業獣医師はここら辺はわきまえている筈ですが。

 獣医学を通して哺乳動物に関してのトップクラスの深い教養を身に付けたい、卒後は別に開業する気は無いと言うのもアリと思います。動物に関しての、解剖、生理、行動、育種、繁殖、病理、薬理、感染症、寄生虫、内科、外科(他にも多々あります)とイヤになるほどの濃厚な教育(座学と実習)を受けることが出来ますので。

 もっとも、国家資格法制化への動きが始まった動物看護師については、ペットや飼い主様側の視点に立ち、scientist としての獣医師と飼い主様との間を仲立ちする重要な存在として、<動物が好き>であることが逆に大切だろうと思います。人間の医療に関してはしばしば訴訟が起こされますが、原告側の主張を見ると何を頓珍漢な非難をしているのかと感じる時も正直あります。医者の側は多忙で只でさえクタクタの中、治療に全力を尽くして無愛想になる時だってあるでしょう。それを患者或いは患者の家族側が非道い対応をされたと訴えるのですが、それでは医者の側ももう遣ってられないとなってしまいます。本当に非道い医者も極くたまには混じっているとは思いますが、医者が逃げ出せば不利益は患者側に当然波及します。同じ様に獣医に関しても飼い主様との間で行き違いが生じることがあるものと思いますが、動物に関する知識の裏打ちの元に、動物看護師には両者を取り持つ存在で居て貰えればと期待したく思います。

 当クリニックの院長は、あくまで獣医師側の視点に立ちながらですが(獣医師の味方をすると言う意味ではありません、公平な第三者の立場からものを言います)、飼い主様の疑問や悩みにお答えするとのスタンスです。scientific な観点から疑問や悩みを解決・解消したいとご希望の方にはふさわしいと考えます。「知る、識る」は心を軽快にして呉れます。思而不学則殆、思うて学ばざれば即ち危うし(あれこれ考えているばかりで知識を得なければ賢明な、正しい判断が出来なくなるよ)、です。是非当クリニックをご活用ください。








動物看護師の国家資格化


2019年2月22日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 ヤマサキ動物看護大学のホームページを眺めていましたら、昨日2月21日付けのニュースとして、「2月20日に、超党派 「愛がん動物を対象とした動物看護師の国家資格化を目指す議員連盟」の 設立総会が発足しました」の内容で記事が掲載されていました。関係者紹介のあと、「動物看護師の法整備・国家資格創設に関する要請を行いました。また、日本獣医師連盟、環境省、農林水産省、衆議院法制局より、法制化にむけた取り組みについてコメントが寄せられました。」とありますので、動物の為の看護師が国家資格化される方向に一歩進んだと言うところかと思います。

 同じ国家資格を与えるならば、諸外国の状況を照らし、ある程度の軽度の獣医療行為(注射、投薬等)は直接の獣医師の管理監督下になくとも任せられるぐらいの責任を負って貰う、のも良いのかなと思っています。但し、動物看護師2級、1級などの区別を設け、2級看護師資格を得て3年の実務経験の後に1級看護師資格の受験資格が出来、一級看護師は上記のように、注射、投薬なども出来るとすると良いかもしれません。国家資格の建築士に2級、1級の区別がある様なものです。

 問題はそれに準ずる待遇を与える余裕が動物病院側にあるのか、です。開業獣医師の平均年収がさほど高くなく、一般的なサラリーマンのそれと大きな差が無いことを鑑みると、スタッフを増やすのは厳しい現状にあると言えるでしょう。もっとも、これは経営側院長の資質や経営センスに拠り幅が出ることとは思いますが。

 加えるに、開業獣医の増加に伴い、専門性で差別化を図るべく、高度医療センター、中医学治療(漢方などの東洋医学)動物病院、特定臓器疾患専門病院、往診専門、はたまた院長のクリニックのような動物・医学情報提供専門クリニックなどが存在しますが、中には24時間診療受付を行う病院も近年その数を増しています。その様な病院で、夜間等に不足する獣医師の代役を看護師が事実上任され、労働時間の超過、獣医師法第17条に抵触する医療行為などが黙認される事態等に陥ることの無きよう、法律の制定に当たってはその辺りの規定もしっかり設けて貰いたいですね。

 国家資格となり、動物看護師が将来的に立派な職業として世の中から広く認知され、誇りを持って溌剌と仕事が出来る様になることを院長は願っています。高度な技術レベルと動物の医学全般についての見識を持つ動物看護師が居れば、獣医師側は欠くことの出来ない良き相棒として手放そうとはしないでしょう。


院長注:

獣医師法第17条

(飼育動物診療業務の制限)


第十七条 獣医師でなければ、飼育動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。







「飼いならすapprivoiser」 考 ー 星の王子さまを巡る解釈


2019年2月21日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 法律の硬い話が続きましたので今回は文学の話題としましょう。とは言っても動物絡みではありますが。

 ロシアの科学アカデミーが40年掛けて social  (人に対して牙を剥いたり威嚇したり暴れたりせずに、穏当な様子で近くに居られるとの意、社交的になったとの和訳はどうもしっくり来ません)なキツネの系統を樹立し得た、とイヌの家畜化 domestication  の項で触れました。そう言えばサン=テグジュペリの『星の王子さま』(原題 Le petitprince 小さな王子)では<キツネ+飼いならし>のキーワードがストーリー展開上の重要な要素とされていたことを思い出し、何か論考を深める手掛かりは得られないかものかと早速 web で検索を掛けてみました。

 院長は大学の教養課程では第2外国語にフランス語を選択していましたが、実はその時のテキストとして Le petit prince  を1冊買わされた記憶があります。初学者の入門編として使い易いレベルと言う事かと思います。余談ですが、その後フランス語への興味を深め、近場の青山学院大学の仏文から講師として来られている先生のクラスを受講するなどして、モーパッサンのオルラ、ボードレールのパリの憂鬱などに挑んだことが懐かしく思い起こされます。

 ー 話を元に戻しますが、<飼いならす apprivoiser アプリヴォワゼ> の語で web を検索すると、面白いことに星の王子さま関連の記事がざくざくと出てきます。皆さんも大変関心をお持ちの様です。その中で綿密な考究を行っているものを採り上げ、それに対して院長の考えを述べたいと思います。これは人と動物との関係に於ける最重要キーワードの1つである <domestication 飼育動物化、家畜化>、を巡る話の1つとご理解ください。

 神戸松蔭女子学院大学の木谷吉克氏が、「飼いならす」から読み解く『小さな王子さま』(1)(2)(3)、とのタイトルで論文を発表されています。google で検索すれば最上位に出ますので中身を目通しすることは容易でしょう。本作品を<飼いならす>の解釈に焦点を当てつつ深い文学的解釈で読み解いたものと、大変面白く通読した次第です。

 その内の(1)の内容をここで触れます。氏は和訳者である内藤 濯(ないとうあろう)が本作品にて<飼いならす>の訳語をストーリーの途中で頻繁に変えており、それが原作者の真意を正しく伝えるのを変容させているとの批判、また内藤が本作品を子供の読者を想定して和訳したが為に斯様な訳語の変化を行ったとの指摘が展開されます。

 これに対する院長の感想を述べます。

 木谷氏自身もまず指摘されていますが、日本語の「飼いならす」の語感が良くありません。「飼い殺し」にするなどの語もある様に、「飼いならす」には、対象を自分の都合の良い様に、半ば奴隷状態にするとのイメージを拭うことができないのではと院長は感じてしまいます。対象への蔑視の念、手なずけて、いいように利用して遣るんだとの打算的な暗い感情が背景に見て取れる様に思います。

 <飼いならす apprivoiser>を web  上の仏英辞典で探れば、英語の tame  がそのまま割り当てられ、これは野生のワイルドな動物を躾けて大人しく、social にすると言う意味です。これには和訳の<飼いならす>を割り当てるのが確かに妥当でしょう。しかしながら、原義を探るべく、 apprivoiser + etymologie  (先頭の e の文字の上にアクセント記号が付きます、語源の意)のキーワードで検索すると、apprivoiser  は元はラテン語の形容詞 privus に発し後期ラテン語(3〜7世紀)の privensis が語源だろうと推測される、とあります。privus とは private ですから、対象を to make private 自分のものにするとの原義です。private beach などの言葉がありますが、自分だけのものにする、所有するとの意味ですね。荒くれた野生動物に対してこの言葉を用いる場合、相手が自分の手の内に収まるように仕向ける訳ですから、飼い主に対して牙を剥かず、優しい、social  な存在となり、共に過ごすことが出来る様に躾る、の意となります。そうしている内に心の交流(所有者側からの一方的な思い込み?)も始まらない訳ではありません。相手が何も凶暴な猛獣ではなくてもですが。映画マイ・フェア・レディで、ヒギンズ教授が、粗野で下品な言葉遣いの花売り娘イライザをレディに仕立て上げる過程も実は apprivoiser と言っても良いのかもしれません。

 院長としては、<飼いならす>ではなく、原義に近い、<君の持ち物にして>或いは<僕の飼い主になってよ>と軽い和訳にする方が良いのではないかと感じています。翻訳者の内藤 濯はこれを理解した上で、子供にも分かり易く表現する意味合いも確かにあったろうとは思いますが、最初の<僕を飼いならしてよ>との表現を、巧みに別の言葉での言い換えを試みただけであって、木谷氏の、<飼いならす apprivoiser>の真の意味合いを逸脱させる行為であるとの批判は、的が外れているのではないかと考えます。 <飼いならす>と言う和訳の言葉が一人歩きを始めてしまっている、囚われ過ぎの論考ではないかとの気がしますが如何でしょうか?

 中島敦の 『悟浄出世』 (青空文庫で読めます)では、三蔵法師に出会う前の、沙悟浄が人生(妖怪生?)に迷い、あちらこちらを逡巡する姿が描かれます。星の王子さまの逡巡の様子にそれが重ねられる様に院長は感じます。沙悟浄は真理を求めるべく、一種の求道者としてあちこち逡巡する訳ですが、尋ね先とは距離を置いてその支配下に入る事はありません。傍観者のままうろうろする訳です。悩める星の王子さまの前に現れるキツネ(木谷氏はキツネが サン=テグジュペリ そのものと主張しますが優れた解釈だと思います)は、何度も王子さまに対して、僕を  apprivoiser したらどうかと誘いますが、外から眺めているだけではなく、相手とがっぷり四つに組むことで先の次元の何かが得られるよ、と忠言する道化廻しとして登場させたのではないでしょうか?星の王子さまもサン=テグジュペリ自身が投影された姿の様にも思います。中島の沙悟浄の様に。

 apprivoiser した結果、飼い主側と飼われる側との間に繋り linkage は確かに成立しますが、真の意味での心の交流や理解までもが生ずる(web ではこの見解に立つ方はそこそこ居られます)とはサン=テグジュペリ は言ってはいない様に見えます。これは男女の恋愛、或いは飼い主とペットの間でもそうなのでしょうが、自分は相手のことを理解している、分かっているんだとの一方的な思い込み、信じ込みに過ぎない、そしてその様な幻影を得るだけかもしれないが、それでも相手を手の内に収めてみなさい、との主張がある様に感じます。

 当初、院長は「日本人にとっては野生の動物−キツネやタヌキ−は戯画化される対象でもあるが、一方、ヨーロッパに於いては動物は基本は人間に敵対する存在として捉えられ、例えばオオカミへの恐怖心が絶大であり、言う事を聴かない動物に対しては容赦なく鞭を呉れてやり、人に歯向かわないように従順にさせる、服従させるのが<飼いならす>の第一義であり、apprivoiser の意味はそれ以上でもそれ以下でもない。だから<飼いならす>の和訳のままで通せばそれで良かろう。」と単純に考えていたのですが、語源を探る過程で結論はだいぶ違って来てしまいました。この当初の院長の考えもどうやら<飼いならす>の和訳に踊らされていた模様です。

 この項はこれで終わります。







野良ネコは拾う勿れ


2019年2月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 子ネコの拾い方の記事を執筆している時に、そういえば少し前に野良ネコ由来で亡くなった女性が居たなぁと頭を掠めていました。web を検索したところ、幾つかのマスコミがそれについての記事を掲載しているのが見つかりました。

 その中でも、2017年8月31日付けの読売新聞のオンライン記事『野良猫に触るのは危険!「死に至る病」感染の恐れも』が分かり易く質も高い記事と思い、概略をご紹介します。著者はペットジャーナリストの阪根 美果( さかね・みか )氏です。記事は無料で読めますのて是非お目通し下さい。

*2016年夏、関西在住の50代女性が連れて帰ろうとした野良ネコに 噛 まれ「重症熱性血小板減少症候群 (SFTS)」を発症し、10日後に死亡しました。マダニに直接咬まれての感染例が通常ですが、このケースではマダニに咬まれていた野良猫から間接的にウイルス感染した初のケースと見られています(厚生省発表)。

*これに対して、阪根氏は、近年「殺処分ゼロ」を目指して多くの団体活動するに至っており、一般人が野良猫を見つけて保護するケースも多く見られるが「野良猫に触るのは実はとても危険ということを認識してほしい」と警鐘を鳴らしています。 一例として、会社の敷地内に野良ネコの親子が暮らしており、子ネコが大人しそうなので捕獲しようとしたところ、子ネコが豹変して咬傷を負ってしまった、その後、指先から肩まで真っ赤に腫れ上がり、しばらく休職して治療しなければならなかったが、パスツレラ症との診断を受けた、との事例を挙げています。野良猫を保護する時は、専門家に依頼するのが一番である、との主張です。

 院長の考えとしては、人間に容易に捕獲されんとした段階で、当該ネコは既に病気に罹患している可能性がある事をまず指摘したいと思います。野良ネコは基本、半野生獣と心得て迂闊に手を出さないことが肝要と思います。阪根氏とはほぼ同意見ですね。阪根氏自身の考えは明確には示されていない様に見えますが、野良ネコを保護の名の下に捕獲する行為にはそれが手慣れた者に拠るものとしても院長は賛成出来ません。捕獲したネコを人畜共通感染からフリーにした状態に持って行くまでには多大の手間と医療費が必要とされますが、保護団体がどの程度までそれを実現出来ているかに疑問が残るからです。仮に、何らかの感染症や寄生虫症を潜在的に抱えているネコを第三者に譲渡し、その後相手側が何らかの疾病を罹患した場合、製造物責任法ではありませんが、民事上の係争を招来する虞も捨てきれません。

 一定レベル以上に<綺麗>に仕上げて譲渡する事が出来ないのであれば、捕獲者が自身らで捕獲ネコを終生飼育し続けるだけの覚悟が必要ではと院長は考えます。浮浪ネコの殺処分を減らしたいとの気持は大変立派なものですが、感染症や寄生虫まみれのネコを相手にするには公衆衛生上の問題を引き起こし、捕獲者サイド、また同様に提供者サイドに、人としての幸福度を低下させる危険性があると言う事です。

 将来的に厚生省が乗り出して、動物を譲渡する際の感染症レベルの規定を設けるかもしれませんね。「検疫」をパスした証明書がある個体に限り譲渡が許可されると言う仕組みです。

 この様な事を考えると、現状では信用有るブリーダーからネコを入手する、或いは獣医による検診をパスした室内繁殖ネコの譲渡を受けるのが矢張り最善ですね。以上、子ネコの拾い方で記述したものとは多少矛盾する様な内容ですが、公衆衛生面から考えても、基本、「野良ネコは拾う勿れ」、との結論です。ところで、この件に関して環境省側は何かコメントしているのでしょうか?







獣医師が取り扱う動物とは


2019年2月19日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です


 近頃はエキゾチックアニマルを積極的に或いはもっぱらに,更には爬虫類を診療する開業獣医も存在します。では法律が規定する獣医師の診療動物とは何かをここで再確認しましょう。


獣医師法第十七条 獣医師でなければ、飼育動物 (牛、馬、めん羊、山羊、豚、犬、猫、鶏、うずらその他獣医師が診療を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る。)の診療を業務としてはならない。


更に


平成四年政令第二百七十三号 獣医師法施行令(飼育動物の種類)

第二条 法第十七条の政令で定める飼育動物は、次のとおりとする。

一 オウム科全種

二 カエデチョウ科全種

三 アトリ科全種


との規定があります。

 このリストに載らない、ヒトを除く哺乳動物やトリに関しては、別段獣医師の資格がなくとも、業として診療に当たってもそれ自体は何ら法的な違法性も罰則規定もありません。動物園の鳥獣も大方がこのリストには入りませんね。ウサギも該当しません。院長は仕事に入って最初の15年程度は霊長類を相手にあれこれ仕事をして来ましたが、これも獣医師としての資格は必要なかった訳です。

 とは言うものの、実際の診療行為を行うには、薬剤、医療機器、(注射針、注射筒など含めた)医療関連消耗品等が欠かせませんが、免許が無いと業者側が何も卸しては呉れないでしょう。また薬剤に関しては処方箋が書けませんので飼い主側が外部の薬局等で薬を受け取ることも不可能です。この様な訳で、法律が規定する飼育動物以外に関しても免許無き者がこれを業とする事は事実上困難でしょう。

 但し、ブラック・ジャックの様な、無免許ではあるが腕に覚えのある者(何らかの事情により過去に免許を失った者など)が、他の獣医師の協力の元に、規定動物以外の動物に対して<動物医>として業を営むことはおそらく可能ですね。もしかすると凄腕の獣医師版ブラック・ジャックが世界各地の動物園を渡り歩いているのかもしれません。

 相談専門であり診療行為は行わない立場の院長の仕事も、実は獣医師免許は特に必要は無いのですが、これも獣医師としての経験が無いとちょっと苦しいだろうと思います。また動物一般の質問についても獣医学の深い観点からの対応が可能になると思います。外から鳥獣を見ているだけであれこれ発言する人たちと獣医師とは次元が違いますよ、と正直言わざるを得ません。勿論免許が無いとクリニックとしての正式な届けは受理されません。

 リスト掲載の動物を拡大して業務独占のワクを拡大するにしても、獣医学の教育課程で取り扱う種が増え対応できないことに加え、事実上獣医師が鳥獣を診ることになっていますので、敢えてリストアップしない面もあるのでしょう。







愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律


2019年2月18日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 今回は法律面での話題です。

 愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(平成二十年法律第八十三号)

 には以下の条文が含まれます:

第一条 この法律は、愛がん動物用飼料の製造等に関する規制を行うことにより、愛がん動物用飼料の安全性の確保を図り、もって愛がん動物の健康を保護し、動物の愛護に寄与することを目的とする。

第二条 この法律において「愛がん動物」とは、愛がんすることを目的として飼養される動物であって政令で定めるものをいう。

(中略)

第七条 農林水産大臣及び環境大臣は、次に掲げる愛がん動物用飼料の使用が原因となって、愛がん動物の健康が害されることを防止するため必要があると認めるときは、農業資材審議会及び中央環境審議会の意見を聴いて、製造業者、輸入業者又は販売業者に対し、当該愛がん動物用飼料の製造、輸入又は販売を禁止することができる。

第八条 製造業者、輸入業者又は販売業者が次に掲げる愛がん動物用飼料を販売した場合又は販売の用に供するために保管している場合において、当該愛がん動物用飼料の使用が原因となって、愛がん動物の健康が害されることを防止するため特に必要があると認めるときは、必要な限度において、農林水産大臣及び環境大臣は、当該製造業者、輸入業者又は販売業者に対し、当該愛がん動物用飼料の廃棄又は回収を図ることその他必要な措置をとるべきことを命ずることができる。 (第7条と8条は抜粋)

 これら条文は eGOV  (電子政府の総合窓口)から自由に閲覧出来ます。


 第二条の定める愛がん動物とはイヌ、ネコの2種類です。ペットとして飼育される頭数ですが、一般社団法人ペットフード協会が2018年12月25日付けで発表した、平成30年(2018年)全国犬猫飼育実態調査結果に拠れば、推計でイヌが890万3千頭、ネコが964万9千頭と他のペットに比して圧倒的大多数と思われ、飼料の経済規模も非常に大きい筈です。療養食などを除けば基本は大量生産品ゆえ、仮に毒成分等の混入があれば被害も多大なものになると想像できます。

 ヒルズの過剰ビタミンD混入缶詰も迅速に回収されるに至りましたが、この様な法律の規定もあるゆえでしょう。もっとも、現今では不都合な情報を開陳しないでいると、それが明るみに出た際には企業は消費者から不誠実との誹りを受け大打撃を受けますので、迅速且つ公明正大な対応を行うのが常識ともなっていますね。

 この法律は人間の為の食品衛生法の極く一部をイヌ、ネコにも準用したと言うところでしょうか。管轄が厚生労働省では無く、農林水産省と環境省となっている点がちょっと面白く感じました。

 製造時には問題なくとも、販売者が不適切な保管を行い、飼料が変質する可能性もあります。ペットに食べさせる前に、給餌する固形飼料を自分で囓って味見をする飼い主さんも少なくは無いと思いますが、この法律があるにしてもペットを守るのは最後は飼い主さんの愛情ですね。







ネコは飼育動物か?


2019年2月17日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 子ネコの拾い方の項でもチラと触れたことですが、野良ネコと称する自由気ままに外を徘徊するネコが相当数存在しています。院長の事務所周りもほぼ定時に特定のネコを頻繁に目撃もします。どうも決まったコースを回っているようですね。日中と深夜の2度、雑貨を押し込んだ暗緑色のプラ箱めがけ隣家との境界にある塀からどしんと飛び降りる音がします。そうっと窓から覗くと、天気の良い時にはそのプラ箱の上で寝転がり、へそ天(仰向け)にして気持ち良さそうに暫しの間くつろぐご様子です。

 明確な所有者、と言いますか、そのネコを所有していると主張する者(一応は飼い主らしい?)がいて首輪を着けているケースもありますが、大多数は首輪すらしていません。院長宅の周りをうろつくネコも首輪はしていません。しかし誰かが餌を与えているのは確実であり、真冬でも栄養状態は全く悪くはありません。休む場所も確保出来ているのでしょう。最近ではこの手のネコを地域ネコと呼称する例もあるようですね。

  環境省が配布している『猫の適正譲渡ガイドブック』(自由にダウンロード出来ます)に拠れば、外飼いし、不妊去勢手術を行わない飼い主は「不適正飼養者」との認識で、他のパンフレットなどを見ても環境省側は室内飼育、不妊去勢手術の実施を強く訴えているようです。

 本題に入りますが、英語の domesticated animals  が飼育動物に相当する言葉です。因みにいわゆる家畜 livestockは牧場などで飼養される、飼育動物の中の、産業用の動物となります。domesticated  とは(家の)囲いの中に居る、収まっている動物と言う意味です。人間の手の内にあり、何か人間に対して有益な役割を果たして貰う、その見返りに餌と寝場所はお世話します、ですね。基本的に人間に対して牙を剥いたり暴れたりすること無く(= social)、或いはその様に躾け(= tame)られることが前提になります。子孫を残していく為の繁殖も基本は人間の手の内に収められています。有用性を引き出す為に人間が交配を工夫 (= breeding育種)した結果、由来となった近い系統の野生動物とは外見も変化してしまっている例が大半です。

 ではネコに関してはどうでしょうか?品種として確立されたネコは別ですが、野良ネコは自由にうろつき、また交配は人間の管理下にはありません。かと言って独立自尊の生き物かと言えばそうでもなく、人間からしっかり餌を貰ったりもしますし、食べ物をくすねる事もあります。時には狩りをする事もありますね。また人間の生活圏を嫌って出て行くこともしません。

 この様に見ていきますと、どうも人間との関係を見る限り、完全な飼育動物 domesticated  animal とは言えませんね。各飼育動物で<家畜化>の内容やレベルは異なりますが、それらとはだいぶ離れている動物に見えます。言うなれば半飼育動物 semi-domesticated animal と言えるのかもしれません。


院長注:日本語で家畜化の用語を使うとき、それは産業動物化されたとの意味合いでは無く、広義の、飼育動物化された domesticated の意味で使われます。例えばイヌが家畜化された、ネコが家畜化された、などの用例です。ちょっと混乱させられますね。本項では<家畜化される>との表現は止めて、<飼育動物化される>としました。


  ネコ(イエネコ)の起源は13万年前のリビアヤマネコに遡れるとの説がありますが、ひょっとするとオオカミがイヌ化した時と同様の遺伝子変化が起き、social な性質が増して人間の生活圏に接近した可能性はあります。或いは単にハクビシンが人家の屋根裏に住み着くように、縁の下や穀倉に住み着いたのが始まりかもしれません。人間の方もネズミを駆除して呉れるし、見ているとなかなか可愛くて癒やされるなぁと特に排除することもなく、「馴れ合い」の長い歴史が始まったのかもしれません。ネコがこの様な、人間界とは着かず離れずの歴史を歩んできた動物であり(嘗ては完全に室内で飼育されていた過去を持つかもしれませんが)、野良ネコがその姿を伝えているのであれば、それがネコと人間との1つ出来上がった関係とも言えると思います。

 近年、野良ネコを捕獲して生殖能力を人間の判断で奪い、室内にて飼育することを推奨する組織、団体もある様です(勿論これは室内飼育の繁殖ネコや飼い切れなくなったネコの里親を探す団体とは別個のものです)。環境省の呼び掛けと後ろ盾があることも効いているのでしょう。これは確かにネコの衛生状態を改善させると同時に悲惨な状態の浮浪ネコや行き倒れになる子ネコ、また殺処分数や「ネコ害」を減らし、獣医療面では伝染病の蔓延を防止するには有益です。しかし諸手を挙げて賛成できるかと言えば院長は敢えて反対票を投じたいと思います。なんとなればネコは完全に人間の支配下にある動物ではないのですから。また地域ネコの概念は、これまた人間側がその意向の元でネコを管理下に置くとの気持が見え隠れします。

   ここにも人と動物との関係への問い掛けが成立するのですが、院長としては、<あっ、ネコが歩いているよ、何だか春になってギャーギャーうるさいねぇ>の余地を残す方がネコの幸福に繋がる様に考えています。大げさに言えばネコの生き方、尊厳を守るとでも言うのでしょうか。かと言って院長も考えが煮詰まっている訳ではありません。環境省はそれがネコの幸福に直結するのだと力説しますが、生き物の幸福は本質的に人間が判断、断定出来るのか、判断して良いのかとも感じます。大変難しいテーマですが、皆さんで野良ネコとはなんなのか、コイツらも人間もお互いが幸福になる方途はなんなのかと、是非今一度考えてみて下さい。

この項はこれで終わります。







いつ、どこでオオカミはイヌになったのか?


2019年2月16日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です


  米国スミソニアン博物館が昨年8月15日付けで犬の家畜化にまつわる面白い記事を出していましたので、全文の内、特にそれに関係する前半2/3の部分を2回に分けてざっと紹介します。原著は Brian Handwerk 氏に拠る How Accurate  Is  Alpha's  Theory  of  Dog  Domestication? (アルファのイヌ家畜化理論はどれほど正しいのか?)です。Alpha とは2018 年公開のハリウッド映画で、オオカミと少年が友達になるとのストーリーです(院長は見ていません)。明快で分かり易い英文ですので是非原著でお読み下さい。



いつ、どこでオオカミはイヌになったのか?


*オオカミがイヌへと繋がるのは確実で、15000〜40000年前に絶滅種のオオカミから現生のオオカミとイヌが分かれた、これが一般に受け入れられてきた説である。


*しかしそれがどこで起ったのかについては、南中国からモンゴルそしてヨーロッパに至る各地との考えがあり見解の一致を見ない。


*実はいつ分かれたのかについても、科学者の考えが一致している訳では無い。2017年の夏に出版されたNature Communications の研究報告は、それが遅くとも2万年前に、おそらくは4万年前に近い時代に起きたと主張する。これはドイツの新石器時代、7000年前と4700年前のイヌ化石のコラーゲンDNAの変異を元に算定された。これらのDNAは現在のヨーロッパで飼育されているイヌのものと非常に近く、従ってオオカミが家畜化されイヌが生じたのは1度のみであるとする。


*だがこれで話が終わり、とはいかない。家畜化が単回ではなく複数回起こったことを示唆する少なくとも1つ以上の報告があるのだ。ヨーロッパ出土の3000〜14000年前の資料59個のミトコンドリアDNA配列、並びにアイルランドのニューグランジにある先史時代の建造物の下から発掘された4800年前のイヌの全DNA配列を、現生のオオカミ並びにイヌと比較すると、イヌは遅くとも14000年前にアジアで家畜化されたのち、6000年以前までの間に東アジアのイヌと西ユーラシアのイヌに分岐、拡散したことが示される。


*しかしその年台よりも明らかに古いイヌの化石がヨーロッパで得られていることから、著者らはオオカミからは少なくとも2度イヌが分かれ出たが、その内のヨーロッバの枝は後に絶滅したと説明する。ヨーロッパとアジアでは古い時代のイヌ化石が出るものの、その間の地帯では8000年より古い化石が出ないことを根拠とする。この様に考古学と遺伝子解析を組み合わせることで、イヌが家畜化された回数は再検討されるべきだと著者ら示唆する。


*イヌとオオカミとの混血は今の時代でも起こっており、これは遺伝子解析に不透明感を与える。




院長注:

*ヨーロッパで発掘される古いイヌの化石は現代のイヌには繋がらず、絶滅したとの解釈ですね。

*絶滅後のその空白地帯に6000年前までにアジアからイヌが入り<分家>したとの主張ですが、となると同時期にアジア系人種もイヌを引き連れて同じくヨーロッパに入ったと言うことなのでしょうか?イヌだけが次々とバトンタッチされて伝播された可能性もありますが。




いかにしてイヌは人間の最良の友となったのか?


*いつあるいはどこでイヌが家畜化されたのかをキッカリと知りたい、との探究心がより強くなれば、次は、イヌはいかにして家畜化されたのか、の疑問に行き着く。


*人がオオカミの子供を捕獲し、ペットとして飼育している内に徐々に家畜化されたが、これは農業が開始されたのとほぼ同じく10000年前に起きた可能性がある、との説がある。これは最古のイヌの化石は14000年前に遡るとの見解にはあらかた合致する。しかしそれの倍以上も古い幾つかの化石は、イヌ、或いは少なくとも祖先のオオカミとは完全に異なってしまった動物の可能性があるのだが・・・。


*より最近の遺伝子解析は家畜化の年代はずっと古いことを示唆しているので、別の理論が支持を集めている。「一番人に馴れたオオカミがイヌとして生き残った理論」であるが、イヌの起源は狩猟採集民との間でオオカミが自己家畜化していったのが主な成因との説である。


オオカミは大きな肉食獣であり、狩猟民とは狩りの場で競合したが、初期には狩猟民はオオカミを手なづけて家畜にし得るとは思いもしなかったろう。だが、長い間に、自己家畜化として知られる過程を辿り、それに続き、斑模様のある毛皮、丸まった尻尾、垂れ耳と言った(現在のイヌに見られる)形態的変化が起きた。人に馴れることがその動物に得、有利となる時には動物にこの様な変化が起こるのである。人に馴れることはこれらの形質変化を駆り立て、僅か数世代の選別の内に目に見える副産物として現れ始める。


*この理論は家畜化の別の過程の事実から証拠付けられる。1つは有名なロシアのキツネ家畜化の例である。実験を通じて人と接しても機嫌良く過ごす性格の狐を作出したが、これらのキツネが同時に人の気持ちを読むのが得意でもあることに研究者は気がついた。社交的なキツネへの選別は彼らをより魅力的なものに−イヌの様に−見せるとの意図しない結果をもたらしたのである。


*殆どのオオカミは恐ろしくまた人間に対して攻撃的だったろうが、中には人間に対して親和的なものもあり、狩猟採集民の獲物に近づけただろう。それは他の個体より有利となったが、人に馴れる方向への選択圧が強く働いた結果、我々がイヌに見るような副産物の形質変化が丸ごともたらされたのである。これは自己家畜化であり、人間がイヌを家畜化したのではなくイヌが自分自身を家畜化したのだ。とこの理論の提唱者らは主張する。


*この理論を支持し得る遺伝学的研究が 2017年に提出された。高い社交的行動特性が人間とイヌ2つの種を繋いだ可能性を進化生物学者が示し、数個の遺伝子がその行動を発現させる可能性に的が絞られたのである。一般的な話ですが、イヌはより高いレベルで人との長い接触を求めようとします。人に距離を置くオオカミでは無傷に残っている遺伝子部位がイヌでは破壊されていることが示されました。興味深いことに、人間の遺伝子変異で同じDNAの伸張が起きるとウィリアムズ・ボイレン症候群−患者は並外れて他人を信じ親しみを持つ−を惹き起こすのです。ハツカネズミに於いてもこれらの遺伝子に変異が起きると人に馴れる様になることが先行研究で明らかにされています。


*我々の結果は、これらの遺伝子のランダムな変異が、他のまだ知られていない変異と共に、イヌを最初に人に近づける役割を果たした可能性を示します。行動を形作るだろう多数有る分子レベルの特徴の1つを我々は同定し得たのです。と言う。




院長注:

*家畜化に伴い毛皮に斑文がしばしば生じますが、野生動物には通常観察されず、家畜化を特徴付けるものの1つと授業では習いました。しかしその様な形態的変化が短期間に起こると強調せずとも理論は別段成立すると思うのですが、その点も含め、形態変化に対して構えすぎの様な気もします。実際のところ、ジャーマンシェパードなどはオオカミ風な外観を色濃く残しているようにも見えます。

*他に対して警戒心を抱かせる脳機能は一種の防御本能とも言えると思いますが、その敷居が低くなり、ウィリアムズ症候群同様の「人なつっこい」性格行動がオオカミからイヌへの成立の鍵であるとの学説は大変ユニークであり興味深く感じています。家畜化には動物毎の様々な姿がある筈ですが、これがイヌ型の家畜化と言えるのかもしれません。これ以前の学説は、数万年人間と過ごす内に徐々にイヌが慣れ親しんで行ったのだろう、などのイヌ(の祖先)がどうして人間に接近したのかについて、その肝心なところの説明を曖昧にしたままのものが漫然と主張され続けており、推測の域を出ませんでした。まぁ、進化絡みの学説はこの手の質、作文に終始するのものが大半でもあるのですが。

*ロシアのキツネがイヌ化したとの話は<40年の研究からペットギツネが誕生>で検索してみて下さい。

*犬の躾の項で述べましたが、オオカミが集団の統制の中で狩りをする習性の中に、人に馴化(じゅんか)していく素地がある様にも思います。ウィリアムズ症候群同様の遺伝子変化を起こしやすい下地があるからこそ統制と言う名の社会性が先に成立している様にも思うのですが如何でしょうか?

この項はこれで終わりです。他の動物の家畜化 domestication についてはまた別の機会に。







ビタミンDの話


2019年2月15日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です

 ヒルズ(日本ヒルズ・コルゲート株式会社)の公式ホームページを見ると、本年2月2日付けで、「犬用缶詰の一部の製品に、ビタミンDが過剰に含まれていることが判明いたしましたため、該当製品の使用中止をお願いすると共に弊社にて自主的に回収させていただく運びとなりました」との告知が掲載されています。その後2月8日になり、「日本へ輸出された該当製品の生産日は特定されており輸入量も極めて限定されています」と追記されており、短期間の製造品であり且つ輸入絶対量は少なかったようです。長期にわたり高濃度のビタミンDを摂取すると問題ですが、今回は特に実害はないと見て良いでしょう。

 ビタミンDの役割は簡単に表現すれば、腎臓と肝臓で活性型ビタミンDに変えられ、それが腸からのカルシウムとリンの吸収を増大させ、血中のカルシウム濃度及びリン濃度を高める役割となります。骨は一見静かな、動きのない器官に見えますが、実際には毎日壊したり(破骨)、作ったり(造骨)がバランス良く繰り返されています。骨の主成分はリン酸カルシウムですので、カルシウムの血中濃度が低くなると、血中のカルシウム濃度を高め、維持しようと副甲状腺(これは血中のカルシウム濃度を一定に維持しようと増大させる側のコントローラーです)からホルモンが放出され破骨が高まる一方、造骨時の材料が不足してしまい骨がスカスカになってしまいます。成長途中であれば体重の増大に耐えられずに骨が曲がってしまったり(骨軟化症由来の変形)、また成長後では骨折し易くなります(骨粗鬆症)。・・・どうも話は簡単ではなかったようです。

 血中のカルシウム、カリウム、ナトリウム、リンなどの濃度(水分電解質濃度)が一定の正常値に保たれる事は生命維持に必須ゆえ、これが第一に優先されると言うわけです。ご先祖様が海の中で育まれたことが関与しているのかもしれませんが、その様な<塩気>の環境の中で骨を含め各臓器が正しく機能するように造られて来ているわけですね。

 個人的な話となり恐縮ですが、院長はどうも血中のナトリウム濃度が低下しにくい遺伝的背景を抱えている模様で、降圧剤を服用したり減塩に努めたりですがなかなか低下しません・・・。ひょっとすと先祖が海から遠い山岳系で、塩が不足する環境で生き延びるためにナトリウムを抱え込む体質となったのかもしれませんね。

 骨の形成、維持に関しては話は単純なものではなく、カルシウム濃度調整に関与する腎臓が持つ別の機能であるリンの排泄、再吸収能も絡んで来ます。これに問題があり低リン酸血症となると骨の材料の1つが不足してしまいますので、低カルシウム血症の時と同じ骨の問題が起きてきます。この場合ビタミンDを補給しても改善は見られません。

 極めて大切なものを喩えて肝心要(かんじんかなめ)と表現しますが、肝腎要とも表記されます。体内の塩類濃度の適切な維持、それとここでは触れませんが造血機能の調整などにも腎臓が関与しており、文字通りのカナメの臓器ですね。言うなれば母なる海の環境を整える臓器とも言えるでしょうか。この臓器を専門とする腎臓内科は或る意味、内科の中の内科とも言えるのではと思います。

 ビタミンDの話(その1)でも触れましたが、副甲状腺と言う甲状腺の脇に付いている小さな豆みたいな器官がありますが、これは血中のカルシウム濃度を一定に保つ(増大する側の)コントローラーとして働きます。血中のカルシウム濃度が低くなると、カルシトニンと言うホルモンを出して、骨の破骨細胞を活性化させ、骨からカルシウムを血中に流すと同時に、腎臓に対してもカルシウム濃度を高めるように働けとハッパを掛ける役目を果たします。まぁ骨はカルシウムのプール(貯蔵庫)としての機能も持っていることになります。

 動物の身体の機能はこの様な例からもお分かりと思いますが、複雑な調整機能が絡み合って維持されています。逆に言えば、何かの特定の食品成分を摂取したからと言って身体が本質的な改善を見ると言う単純なものではありません。実は薬についても同じ事が言えるのですが、この話は漢方の話題と共にまた別の機会に。

 もうかれこれ20年ほど前の話となりますが、短期間ですが新世界ザルのマーモセットを飼育していたことがありました。これは、岩手大の獣医学科教授を務められていた大学の先輩から話があり、実験動物中央研究所のT先生がマーモセットの本を上梓するので形態学の項を分担執筆してくれないかとの依頼を受けたことに関与する話となります。

 マーモセットは専用に作られたビスケットを手に持ってガリガリ食べるのですが、不思議なことにビタミンD大量依存性があり、ビスケットにビタミンD3剤を噴霧してから給餌していました。アマゾンのジャングルの中では昆虫食の比率が高いと推測しますが、これらが高濃度のビタミンDを含むがゆえに、Dの吸収を強く抑制する仕組みが備わり、その為に通常の餌を食べさせているとD不足になってしまうのかなどと考えています。マーモセットのビタミンD依存性に関する機序については院長の勉強不足でこれ以上のことは書けませんが、もしご存知の方がおられましたら連絡を戴ければと思います。

 ところでビタミンDの一部は紫外線を浴びた皮下組織でも作られるのですが、裸のサルである人間と異なり動物は毛皮を纏っていますので、毛の色調や毛の密度などにより皮膚への紫外線到達量を調整している可能性があります。これに関しては経口からのビタミンD摂取量とも関係しますが研究は進んでいないのではと思います。また完全な地下生活性のモグラは紫外線とは無縁の生活ですが、これも昆虫食などを通じて必要なビタミンD量を確保しているのでしょう。

 動物の種特異的なビタミン依存性については、人間のビタミンC依存性を含め、後日書きたいと思います。ビタミンDにまつわる話はこれで一度終わりとします。







子ネコの拾い方


2019年2月14日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 一週間ほど前のことですが、院長の執務室でPC画面とにらめっこをしていると窓外でネコの声が聞こえてきました。こんな寒いのに早、恋の季節到来か、そう言えば暦の上では確かに春を迎えているなぁと思いました。ネコの妊娠期間は9週前後ですので東京では桜が花開く頃にはよちよちした baby を目にし始めることになる筈です。野良ネコの場合、木造家屋の縁の下などの雨露が防げる場所で出産しますが全ての子ネコが順調に育つわけではありません。不幸にして母親とはぐれてしまい、道ばたや空き地を歩いているところを拾われるケースが今春以降も多発するでしょう。

 問題なく飲食し元気そうであれば、拾い主の決心次第ですが、飼うこと自体は困難でありません。もっとも、近くの開業獣医に早めに相談し、この先の駆虫やワクチン接種の計画を立てて貰うべきでしょう。

 では問題がある場合、つまりは弱っている場合ですが、これは単刀直入に言うとなかなか厳しいかな、となります。よしっ、保護しようと決めた拾い主が取るべき手立てですが、真っ先に保温と補液を行って下さい。獣医クリニックではオペ後の体温管理の為に温度センサーを備えた保温マットや赤外線ランプを利用しますがこれが転用できます。しかしご家庭の場合は保温マットすらお持ちではない方が多いでしょう。1つの方法としては、適当な大きさの段ボール箱の内側に大きめのビニール袋を貼り合わせ、底にペットシーツ、お湯を入れた水枕、段ボール板の純に重ね、更に再度ビニール袋を内張します。ここにペットシーツでくるんだ子ネコを寝かす作戦です。段ボール箱の蓋を軽く閉じて中身が確認出来る様にします。一時も目を離さずに動きが出るかを確認して下さい。回復の兆しがあれば次に脱水症状+低血糖状態を改善すべく、ブドウ糖と食塩を薄く溶いた水をスポイトにて口から少しずつ呑ませます。吸啜反射(きゅうてつはんしゃ、乳首を添えると吸う反射)が見られる場合、薄手のタオル地を糸で縛り乳首状にして水分を吸わせる方法もあります。

 次のハードルは自力で餌を食べる様になるかですが、残念ながらそのハードルを越えてくれる子ネコは多くはありません(上の段落を書いていて途中で正直空しくもなりました)。一時は子ネコが動き始めて水分を摂り始めてもそれが続かないのです。助けを求めても開業獣医師によっては来院を断るところもありますので事前に電話して確認すると良いでしょう。

 子ネコが元気であれ弱っているのであれ注意すべき事があります。既に家庭内でネコを飼育している場合、拾いネコ経由で新たな感染症や寄生虫疾患に罹患するおそれがあります。その様な危険性を想定し、他のネコとは物理的に隔離できる空間に拾いネコを持ち込むことが重要です。拾い主側も自身が感染症の媒介者とならないよう、注意が必要です。

 たかが子ネコ一匹と世の人は思うかもしれませんが、されど命の重さはわれわれと寸分違いはありません。子供さんが子ネコを拾ってきても、お母さん、どうぞ叱らないでください。人間と動物との関係性を考える大切な機会でもあるのですから。


院長注:日本語版 wikipedia にて経口補水液の項を見ると、1つの作り方として、水1リットルに対して、ブドウ糖 20g、塩化ナトリウム(食塩)3.5g、炭酸水素ナトリウム(重曹)2.5g、塩化カリウム1.5gの割合で作るとあります。これは人間の成人用ですが、これに準じて作れば特に問題は無かろうとと思います。薬局でも各種の経口補液が売られていますので適宜希釈するなどして投与してみるのも良いでしょう。但し、子ネコが下痢を来している場合、経口からの補液は腸管に負担を掛けて症状を悪化させる危険性があります。たとい絶滅危惧種の動物の幼獣であってもこの様なケースでは治療は大変困難だろうと考えます。







イヌの躾の話


2019年2月14日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今年の年明け1月12〜14日にパシフィコ横浜にてペット博 2019が開催されました。主催者はPET博運営事務局と言う大阪に拠点を構える団体ですが、一種のイベント屋さんかもしれませんね。院長は都合が悪く行けなかったのですが、ホームページのイベント内容を確認すると数年前に覗いた時と基本的なメニューは同じ様に見えます。この種の催し物には時間が取れればですが、関係者として「偵察」と称して遊びに行く(横浜では中華街に立ち寄り美味いものを食べたりと・・・)のですが、ペット博にて開催されるイヌの躾教室は大変価値があるものと感じました。散歩時の人間との歩き方、手綱の使い方の訓練など幾つかををサークルの外から眺めていたのですが、斯界の第一人者が講師を務められ、理論に立つ、優れた、また充実した内容の躾教室であり、思わず見入ってしまいました。

 イヌはオオカミを祖先とする動物ですが、人間に対して親和性を強く持つ生き物である(学名Canis familiaris は人に慣れ親しむ犬属の動物の意)と同時に、矢張り祖先であるオオカミの習性を残しています。集団で大型動物の狩りをする訳ですが、「一匹オオカミ」が単に烏合して対象に襲い掛かるのではなく、そこには牽制を含めた互いの統制が存在します。どう言うことかと言うと、組織としての統制が必要とするゆえの、縦の強い序列ですね。つまりは接する人間を上下で見ている動物と言う訳です。この様な習性を一種の社会性と考える研究者もいます。

 この習性を鑑みて、人間がイヌを飼育する場合、特に力の強い大型犬に関しては、飼い主が絶対的なボスであるとの躾をすることが大切と考えます。序列の関係が曖昧になると咬傷事故発生等に繋がりかねません。武器である強大な犬歯 (Canine tooth) を持つ生き物であることを忘れてはなりません。

 愛玩用の小さめのわんちゃんでも躾が出来ていないと悪戯をしたり噛みついたり唸ったりもします。こうなってしまうと良い関係が築けず、イヌにとっても飼い主側の人間にとっても不幸な状態となってしまいます。イヌを躾の学校に預ける方法もありますが、それはちょっと大仰だと思う方もまだ多いでしょう。どうも自宅のわんちゃんが締まりがない、なんとかしたいとお悩みの方は、一度、この手のイベントに顔を出し、躾訓練の実際を目の当たりにするのも刺激になると思います。わんちゃんを<猫かわいがり>してはいけません、を話のオチとしましょう。

 どうしてイヌが人間に親和性を持つに至ったのかについては最近面白い学説が提示されましたので、それを踏まえてまた後日書きたいと思います。







スマートフォンでの表示について


2019年2月12日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 スマホで当ホームぺージをご覧になる方に向けて、スマホ専用サイトを作成してみました。と言っても sp ディレクトリの下に、フォントを拡大し文字枠を縮小可能に設定したものを納めたまでです。このスマホ用サイトは一応は google のモバイルフレンドリーテストをパスしています。

 横方向の画素数が700〜1000ピクセル程度のスマホ機種ではご覧戴き易いのではと思います。スマホの機種毎に搭載液晶の横方向のピクセル数及び画素サイズ(これが小さいと同じ横幅でも高精細で表示される)が異なる事に加え、搭載OSとブラウザの種類に応じて表示が揺れ動きます。お手間を掛けますが、文字サイズが小さい、或いは大きすぎて見づらいなどの場合は、スマホにてPCサイト向けの本ホームページを表示し、スマホを横向けにしてご覧戴くのも寧ろ見易いかと思います。適宜お試しください。お問い合わせ欄への記入についてはタブレット+キーボードの組み合わせ、或いはPC、ノートPCのご利用をお薦めします。






ホームページ開設のご挨拶


2019年2月9日
皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 この度ホームページを開設致しました。以後どうぞ御見知りおきください。

 本コラムの場では動物や獣医療に関するトピックスをはじめ、それらにまつわる院長の雑感を折に触れ書いて行きたいと思います。ブログサイトも設ける予定ですが、そちらでは時事ネタに触れることがやや多いかもしれません。

 他のサイトでは見られない役に立つ知識・情報も含まれることもあろうかと思います。どうぞ覗いてみてください。



*記事内容の転載をご希望の方は院長までご連絡下さい。


*本コラムに掲載される記事内容、アイデア等については、その全体もしくは一部について、改変等を含めた無断転載、剽窃、或いはそれらに類する行為を行う事を固く禁じます。