Ken's Veterinary Clinic Tokyo
相談専門 動物クリニック

                               
























本コラム執筆の参考サイト

https://en.wikipedia.org/wiki/African_wild_dog

https://en.wikipedia.org/wiki/Carnassial

https://ja.wikipedia.org/wiki/タテガミオオカミ


































紹介した英文抄録の表記の問題点:

*North American invasion of South America

北米犬が南米に侵入したとも、南米犬が北米に侵入したとも両義に読めます。本文を見ると前者の意味となります。

*an important chapter in the evolution of modern  canids remains to be discovered in the fossil record

 この文も、今後に新たな化石が発見されイヌ科の進化に重要な1節が加えられるだろう、とも、化石を再分析したら新たな発見があるだろう、の両義に解釈できて曖昧な表現ですね。ここではどうやら前者の意味です。

 内容は意欲的で優れていると思いますが、英語話者の書く学術論文の英語が必ずしも明快な意味表現の、優れた文章である訳ではありません。「理系頭」の可能性もありますね。抄録を目通ししても英文表記に明確性が無く、また個々の英文が何を意味しているのか分かり難い箇所があるとと感じました。すでにこの分野の話題に知識を持っている者ならば判る筈ですが。論理語としては英語が不足している訳です。

 非専門家でも本文中身を目通しすると言いたいことは分かりますが、こうなると、字数制限があるのは理解しつつも、抄録と言うよりは謎めかした文章で本文への誘い込みを図っている様にも感じます。文字数の制約で英語表現を圧縮すると、途端に意味が曖昧になるとの、言語としての英語の欠点が明瞭になるのかなどとも考えます。







 院長は最晩年の今西錦司先生を霊長類学会の懇親会の場で見かけたことがあります。小柄な方で、杖を突きながら和装でゆっくりと歩いてられました。京都大学霊長類研究所の生みの親ですが、研究面でのスタートはカゲロウの仕事でした。























trenchant heel
https://retrieverman.net/tag/trenchant-heel-dentition/
この語に対する日本語の訳語が見付かりません。「切れ味良いヒール」(ハイヒールの鋭いかかとに喩えた言葉か?)


裂肉歯
https://en.wikipedia.org/wiki/Carnassial#/media/File:Comparison_of_Carnivoran_and_Creodont_Carnassials.png

イヌ成体の歯式 dental formula

3 1 4 2/3 1 4 3
切歯(前歯) 犬歯(糸切り歯) 前臼歯 後臼歯
の順に、片側の 上顎の歯の本数/下顎の歯の本数を表します。合計で42本ですね。

因みにネコ成体では
3 1 3 1/3 1 2 1 の合計30本です。







http://www.digimorph.org/specimens/Speothos_venaticus/





ヤブイヌの頭蓋骨。ちょっと分かり難いですが、犬歯に続く後ろの歯がギザギザしています。リカオンほどの鋭さは持たず、程度はマイルドに見えます。

















抄録の抄録


*南米にはイヌ科の動物が豊富だが起源が不明だった。
*trenchant heel の起源も不明だった。

*従来から論争のある分類も含め、これら2つの問題を遺伝的手法と先人の形態データを併せ解析した。

*遺伝子解析と形態解析の結果は一致を見ないところもあるが、2つを併せると南米のイヌ科動物が単一祖先から派生したことを示す。

*種同士がいつ分岐したのかの年代推定と、パナマ地峡の成立の年代推定から、3,4回の祖先系の北米から南米への進出が起きたことが分かった。北米ではその仲間達は死に絶えて遺っていない。これに関する化石資料が今後発掘されれば解明が進むだろう。

*trenchant heel の起源については、「共通祖先では全て有していたものが種分化の過程で消失し、今では数種のものにしか見られなくなった」、との説を強く主張するまでには至らず、不明のままである。

































院長のコラム 2019年5月20日 『イヌ科の系統分類B 分類の実際T』








イヌ科の系統分類B 分類の実際T


2019年5月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 今回と次回の2回では、形態解析並びにミトコンドリアDNAによる解析を併行して用いた、イヌ科系統分類の実際例に触れます。@Aと長かったと思いますが、ここに紹介する論文を理解するための基本的知識を学んで戴く為でもありました。


 さて、かれこれ20年以上前の少し古めの論文ですが、カリフォルニア大学の Wayne らに拠る30頁を超える力作を紹介しましょう。内容的に高度な学術論文ですが、皆さんがお飼いのイヌには、世界中にいろいろな仲間、親戚達が居ることを知っておくのも楽しいのではと思います。いわゆる研究者は自分の興味の対象に突き進み、大学や研究所に於いてこの様な論文作成の仕事に従事する訳ですが、一般の方々には想像も出来ないかもしれませんね。この論文は特に南米に棲息するイヌ科動物の起源にスポットを当てています。

Molecular Systematics of the Canidae  

イヌ科の分子系統分類

R.K.Wayne et al.

Systematic Biology, 46, Issue 4, 1997,622-653

https://www.researchgate.net/publication/11394220_Molecular_Systematics_of_the_Canidae/download


 上から無料で全文がダウンロード出来ます。各頁が図として収録されていますので、文字としてのコピーが出来ません。適当なOCR ソフトを用いて文字部分を電子化すると便利でしょう。638−643頁の考察並びに結論部分を先に読むと全体の理解が進むと思います。





 


南米のイヌ科動物タテガミオオカミ(左)とヤブイヌ(右)

従来は系統関係が不明でしたが、遺伝子解析の結果系統的には近いと分かりました。

しかし、姿形が丸で違っていますね。環境への適応がこうも外見を変えてしまうのか

の好例です。今西錦司先生の、「変わるべくして変わる」の言葉がふと頭を掠めました。





抄録


  Despite numerous systematic studies, the relationships among manyspecies  within the dog family, Canidae, remain unresolved. Two problems ofbroad   evolutionary significance are the origins of the taxonomically richcanid fauna of  South America and the development in three species of thetrenchant heel, a  unique meat-cutting blade on the first molar. The firstproblem is of interest  because the fossil record provides little evidence forthe origins of divergent  South American species such as the maned wolf andthe bush dog. The second  issue is problematic becaude the trenchant heel,although complex in form, may  have evolved independently to assist in theprocessing of meat. We attempted  to  resolve these two issues and fiveother specific taxonomic controversies by  phylogenetic analysis of  2,001base pairs of mitochondrial DNA (mtDNA)  sequence  data from 23 canidspecies. The mtDNA tree topology, coupled with  data from   fossil record, andestimates of rates of South America sequential  divergence  suggest at leastthree and possibly four North American invasions  of  South  America. Thisresult implies that an important chapter in the evolution  of modern  canidsremains to be discovered in the fossil record and  that the South American  canid endemism is as much the result of extinction  outside of South Americaas  it  is due to speciation within South America. The  origin of  thetrenchant heel is   not well resolved by our data, although the  maximumparsimony tree is weakly  consistent with a single origin followed by  multiplelosses of character  in several  extant species. A combined analysis of  the  mtDNA data and published  morphological data provides unexpected support  for a monophyletic South  American canid clade. However, the homogeneity  partition tests indicate  significant heterogeneity between the two data sets.


 







‘trenchant heel dentition’ Teeth of the Lycaon african wild dog dentition

リカオンの前臼歯の trenchant heel

These are the teeth of an African wild dog or painted wolf that has been tranquilized.

One thing you might notice is all the extra cutting edges around the carnassial

teeth.  These extra blades make it easier for them to bite into the meat of

their kills and bolt down the food quickly before lions and hyenas show up to rob

them. Dholes, the closest living relative of the African wild dog, also have similar

carnassials, as does the bush dog. This feature evolved in parallel in bush dogs,  

but for a while, they were often classified with the dhole and African wild dog.

We now know that the bush dog is within the “South American clade” of

wild dogs. Its closest relative is the maned wolf.

https://retrieverman.net/tag/trenchant-heel-dentition/


「麻酔下のリカオンの歯牙を示す。裂肉歯に余分な切っ先の刃が備わって

いるのが分かるだろう。ライオンやハイエナが獲物を横取りに来る前に、殺

した獲物に噛み付いて素早く大量に呑み込むのがこの歯で容易になる。リ

カオンの最も近い仲間であるドールもまた似たような裂肉歯を持っているし

ヤブイヌも同様だ。ヤブイヌのこの特徴は平行進化として獲得されたものだが、

従来はしばしばドールやリカオンの仲間だと分類されてもいた。現在我々は

ヤブイヌは南米群の内にあり、最も近い親類はタテガミオオカミであることを

知っている。」


歯(犬歯のすぐ後ろの数本の歯ですから前臼歯に相当します)の先が2つ

或いは3つの峰からギザギザに構成されており、肉切りには最適に見えま

す。「ヤブイヌは系統的に離れているがこの歯の構造を持っている、どうして

なのか」、この疑問を解明するがこの論文の1つの課題です。





抄録和訳


 これまで系統分類の研究が数多くあったが、それにも関わらずイヌ科内の多くの種間の関係は未解明のままだった。大きな意義を持つ進化上の2つの解決すべき問題は、分類学的に豊かな動物群を構成する南米のイヌ科の起源についての問題、並びに、3種のイヌに於ける trenchant  heel (鋭いヒールの意)−第一大臼歯の独特な裂肉縁−の発達の問題である。最初の問いは興味深い、と言うのは例えば タテガミオオカミ や ヤブイヌと言った南米種の分岐に関する証拠を化石記録は殆ど全く遺していない為である。形は複雑化しているが trenchant  heel が肉の処理の為に互いに独立的に進化した可能性があるが故に、2番目の問いは疑問の種となっている。我々はこの2つの問題に加え、論争のある他の5つの特異的な分類学上の問題を解明する為、イヌ科 23種のミトコンドアDNA (mtDNA)遺伝子配列の2001組の塩基対のデータを用い系統発生学的解析を試みた。化石記録のデータと併せて作られた mtDNA 樹の枝分かれの様子、並びに、南米イヌに関する遺伝子の分岐の年代の算定から、少なくとも3回、可能性としては4回の、北米イヌ科動物の南米への侵入があったことが示唆される。この結果は、現生イヌ科の進化に於ける重要な1節が今後化石記録の中に発見されるだろう事、また、(現生の)南米固有のイヌ−南米内での種分化に由来する−が南米以外の地域では正に絶滅したことを意味する。trenchant heel の起源は、我々のデータでは十分には解明出来なかった。尤も、最大節約法に基づく系統樹は、単一起源のものが後に(系統内で)複数回に亘りその特徴を消失した結果だろうとの推論、に対しては、幾つかの現生種に関しては、弱い整合性しか示さない。mtDNA と文献上の形態学データを併せた解析は、南米イヌの予想もしなかった単系統説を支持する。しかしながら、分割均一性テストは、これら2つのデータセットの間で不均一なところが有意に存在する事を示している。


 (次回に続く)