Ken's Veterinary Clinic Tokyo
相談専門 動物クリニック

                               

























本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/抗NMDA受容体抗体脳炎

https://en.wikipedia.org/wiki/Anti-NMDA_receptor_encephalitis

https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/049110774.pdf
抗NMDA受容体抗体脳炎の臨床と病態
飯塚  高浩
臨床神経,49:774―778, 2009

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2430743/
Ann Neurol. 2007 Jan; 61(1): 25?36.
doi: 10.1002/ana.21050
Paraneoplastic Anti?N-methyl-D-aspartate Receptor Encephalitis Associated with Ovarian Teratoma
Josep Dalmau, et al.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4409922/
Schizophr Res. 2016 Sep; 176(1): 36?40.
doi: 10.1016/j.schres.2014.10.007
Anti-NMDA receptor encephalitis, autoimmunity, and psychosis
Matthew S. Kayser  and Josep Dalmau

https://www.hospital.japanpost.jp/tokyo/gan/gan_fujin/gan_fujin02.html
卵巣がん

http://www.jsps.gr.jp/general/disease/mlg/n413bn
日本小児外科学会
胚細胞性腫瘍・奇形腫群腫瘍


都立松沢病院 統合失調症
http://www.byouin.metro.tokyo.jp/matsuzawa/dictionary/tougousittyousyou.html


https://ja.wikipedia.org/wiki/統合失調症
但しwikipedia のこの項目は抗NMDA受容体抗体脳炎への言及も無く、中身が古く教科書レベルに留まる記述が見られ、真の意味でinformative ではありません。


https://bsd.neuroinf.jp/wiki/ドーパミン仮説(統合失調症)
2014年に最終更新の記事であり、やや内容的には古くなりつつありますね。








































































































































































































 院長のコラム 2019年11月5日 『キツネの話N 俗信と精神医学U』








キツネの話N 俗信と精神医学U


2019年11月5日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 引き続き、俗信即ち狐憑きと精神医学との関連についてお話を進めます。どうぞ楽しみつつ、また精神医学にも興味をお持ち戴けたらと思います。





1973 - The Exorcist

DeathScreenCinema 2010/11/27 に公開

https://youtu.be/CIoZFbzFLSk


悪魔払いの聖職者と少女の対決シーンです。

主演のリンダ・ブレアは当時14歳ですが、撮影時には

13歳だったのかもしれません。






 リンダ・ブレアが主演した映画 『エクソシスト』 が1973年に大ヒットし、院長は当時の米国ニュースで、映画を見終わった女性が恐怖の余り映画館の出口で崩れるように失神するシーンも見た覚えがあります。突然に人格が変容し荒れ狂った若き女性に対し、キリスト教の聖職者が悪魔の仕業と解釈しそれを払うとの筋書きです。医学的には何らかの脳炎症状が発症し急激に脳機能の破壊・低下が起きていると誰でも考えるだろうと考えますが、この様な症例に対する病態への理解が最近まで進んでいませんでした。

 以前から若い女性に発生する、エクソシストの「臨床像」にも似た、重篤で多彩な神経学的症状を示す原因不明の脳炎が報告されてきていました。同じく、卵巣奇形腫を切除したところ改善が見られたとの報告もありました。2007年になり、Dalmau らが、卵巣奇形腫に関連する傍腫瘍性抗NMDA受容体脳炎の論文を発表し、ここにその疾患概念が明確となりました。その間の経緯及びこの病態の詳細については以下の報告に簡潔に纏められていて大変参考になります。

https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/049110774.pdf

抗NMDA受容体抗体脳炎の臨床と病態 

飯塚  高浩 臨床神経,49:774―778, 2009

 (無料で全文にアクセスできます)


 因みに、生殖細胞(卵子や精子)の元になる原始生殖細胞は、様々な部位に分化し得る能力(多分化能)を有し、これが腫瘍化するとその中にヒトのなりかけの組織を含む時が有り、奇形腫と呼称します。この原始生殖細胞は、受精卵が分裂し発生が進む過程で、生殖腺以外の身体の別の場所へと迷入してしまい、これが腫瘍化する場合もありますが、基本的には卵巣、精巣内で腫瘍化します(いずれも多くは良性)。免疫系は何かをきっかけに(感染症を受け免疫能が亢進したあとなどに)奇形腫の中の、例えば脳成分がある場合にそれに対する抗体を産生しこれをやっつけようとしますが、この抗体が今度は本人の脳組織を攻撃し始めると脳炎症状が惹き起こされるとの作用機序です。自己免疫性の脳炎ですね。





Figure 1 Typical clinical course of illness in anti-NMDAR encephalitis

from  Anti-NMDA receptor encephalitis, autoimmunity, and psychosis

Matthew S. Kayser  and Josep Dalmau, Schizophr Res. 2016 Sep; 176(1): 36-40.

doi: 10.1016/j.schres.2014.10.007


Following a viral prodrome, patients experience prominent psychiatric

symptoms in the early weeks of the disorder. This is followed by progressive

neurological involvement, often requiring ICU-level care. Prolonged behavioral

and cognitive and behavioral symptoms are common, though most patients

make a near complete recovery with early and aggressive treatment.


抗NMDA受容体抗体脳炎の典型的な臨床過程

ウイルス性感冒の様な前駆症状に続き、患者は最初の数週、烈しい

精神医学的症状を経験する。進行性の神経学的問題がそれに続き、

しばしばICUレベルのケアが必要となる。長引く行動面での及び

認知面での症状が普通に見られるが、尤も殆どの患者は初期の積

極的な治療でほぼ完全な回復を来す。


院長は以前TV番組で、インフルエンザ脳症に罹患した男児が

最初は喃語しか発せなかった状態からぐんぐんと回復する姿を

目の当たりにし、子供の脳の可塑性、回復力に驚いた事があ

ります。仮に脳細胞が一部死滅しても、別の部位が代償的に

働き、別ルートのバイパス経由で機能を回復させる事もある

のでしょう。






 ちょっと分かり難い用語と思いますが、NMDA受容体とは脳の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体の1つです。神経細胞同士が伸ばした枝の末端同士を連絡して神経の信号を遣り取りする際に、末端間は電気信号ではなく各種の化学物質で伝達するのですが、例えば一方がグルタミン酸を出すともう一方がそれを受容体でキャッチして興奮が伝わる仕組みになっています。この受容体部分が免疫系が作り出す抗体で機能的にブロックされてしまう訳ですね。実際には破壊が起こると考えて良いと思います。抗体による受容体のブロック、破壊が進行する過程で神経伝達物質の遣り取りの変動が起き(グルタミン酸に拠る連絡は低下に向かいます)、精神、神経学的症状が発現すると考えれば良いでしょう。 

 抗NMDA受容体脳炎は、臨床的jには、まずは非特異的な、感冒様の前駆症状から始まり、次いで無気力、抑欝、不安等の感情表現が現れ、日常の単純な動作が出来なくなるなどの症状が出、これはおかしいと自ら精神科クリニックを受診する者も少なくはありません。その後、興奮、幻覚、妄想などの統合失調症に類似した症状が強く出現し、痙攣発作が出る例も見られます。数日〜3週の内に、無反応状態に陥ります。自発呼吸も低下し、不随意運動或いは自律神経機能の異常も発現します。まぁ、要するに、脳機能が急激に低下し、いわゆる植物性機能を司る脳の「芯」の部分までもが冒されてしまう訳ですね。当然ながら人工呼吸管理を要し、この備えの無かった時代にはこの時点で死亡していました。数週から数ヶ月に亘る無反応期ののち、月或いは年単位で、脱抑制(感情や行動が抑えられず衝動的になる)、睡眠障害、高次脳機能障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害)などから徐々に回復に向かいます。

 脳細胞は再生しませんので、回復に向かうと言う事は、<脳細胞本体は破壊されず、脳細胞同士を繋ぐ連絡網が障害され、次いで障害された連絡網が徐々に再生して回復する>だろうことを推測させます。

 実は、統合失調症に於いては、NDMA 受容体が抗体によりブロックされ、グルタミン酸作動性ニューロンやドーパミン作動性ニューロンに対する抑制が効かなくなる事がその原因であるとの仮説が提唱されています(この仮説の基本理論であるドーパミン仮説を院長は40年程前に聞いた記憶がありますが当時既に広く知られていました)。受容体が徐々にブロックされて行く過程で、これら神経伝達物質が過剰に蓄積され、それがまだ正常である受容体に押し寄せて妄想や幻聴を起こすのかもしれません。詰まりは正常状態では知覚されないものが情報信号の誤った増強、増幅で聞こえたり見えたりしてしまう訳ですね。受容体がほぼブロックされると脳細胞間の連絡が途絶え植物機能すらも危うくなるとの図式です。

 抗NMDA受容体脳炎で統合失調症様の症状が現れることは、この仮説を裏打ちする事になります。全ての統合失調症がこの機序で発現するとは限りませんが、自己免疫疾患或いは自己免疫疾患と同様の発症機序に拠る統合失調症(のタイプ)であれば、NDMA 受容体に対する抗体を作らせない、或いはそれをブロックする様な治療法で治癒する可能性も出て来ます。実際のところ、統合失調症の1つの類型としての、前駆期、急性期(陽性症状としての不眠・幻聴・妄想)、消耗期(陰性症状としての脳がほとんど機能しない状態)、回復期の経過は抗NMDA受容体脳炎の1つの型(劇症型では無く中程度、軽症型〜慢性型)として考えることも出来そうな気もします。