ウミスズメ科の潜水羽ばたき

相談専門 動物クリニック

Ken's Veterinary Clinic Tokyo

                               


























https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ


https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae







https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidae

https://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus

https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara















羽ばたきロコモーション 海鳥D




2021年7月10日

 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第45回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。

 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://en.wikipedia.org/wiki/Auk

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミスズメ科


https://en.wikipedia.org/wiki/Ancient_murrelet

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミスズメ


https://en.wikipedia.org/wiki/Crested_auklet

https://ja.wikipedia.org/wiki/エトロフウミスズメ


ttps://en.wikipedia.org/wiki/Common_murre

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミガラス


https://en.wikipedia.org/wiki/Pigeon_guillemot

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミバト


https://en.wikipedia.org/wiki/Parakeet_auklet

https://ja.wikipedia.org/wiki/ウミオウム


https://en.wikipedia.org/wiki/Tufted_puffin

https://ja.wikipedia.org/wiki/エトピリカ


https://en.wikipedia.org/wiki/Horned_puffin

https://ja.wikipedia.org/wiki/ツノメドリ







Rhinoceros Auklet Feeding 2016/03/19 PAWS TV

This juvenile Rhinoceros Auklet patient was found in the road, thought to have been struck by a car.

https://youtu.be/WJiMbNAEzaM

道の上で交通事故に遭ったと思われるウトウの幼鳥を見つけました。


ウトウのダイビングシーンの動画は検索を掛けましたがこれがほぼ唯一のものでした。天売島の陸上

或いは渡船上から観光客が撮影したウトウの動画はごまんと存在しますが、野生状態での水中

遊泳シーンは冷水中の撮影でもあり、プロダイバーを雇うには資金も必要です。




Marbled murrelet and common merganser 2018/07/31 Meghan Hatch

https://youtu.be/e7FAMOtpb6I


小さい方がマダラウミスズメですが、空中を飛翔しているかの様に高速で潜水飛翔します。その姿に

は忍者を連想し、ウミスズメをいじめているカワアイサ(カモの仲間)が凡庸なトリに見えてしまいます。




What Birds Diving Underwater Look Like 2016/01/17 corydorascatfish

Guillemots, puffins, and auklets at an exhibit in the Aquarium of the Pacific dive. The video shows

mostly guillemots, with a few other species shown in. https://youtu.be/hFxJLWuKanI


これも水族館での撮影シーンですが、小型で背面が黒いのがウミスズメの仲間だと思われます。

小回りの利く俊敏な、キレの良い潜水遊泳を行う様に見えます。素人が撮影した動画ゆえ視点が

定まらず泳法が分かり難いのですが、定点でじっくり撮影するのが動物の撮影の基本で、95% は

ゴミ画像となると腹を括って撮影すると<たまに>良いシーンが撮影できるでしょう。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a9/Pigeon_Guillemot%2C_Newport

_OR%2C_16_July_2013.jpg Caleb Putnam, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org

/licenses/by-sa/2.0>, via Wikimedia Commons Pigeon Guillemot, Newport OR, 16 July 2013


海面すれすれに飛翔するウミバト。ドバトと大差無い飛翔に見えます。




https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/95/Pigeon_Guillemot_underwater_in

_Living_Coasts.jpg Nilfanion, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>,

via Wikimedia CommonsA Pigeon Guillemot (Cepphus columba) underwater in a tank

at Living Coasts, in Torquay, UK


ウミバトが水中遊泳中に翼を折りたたんだところ。頭と胸部との段差が大きく、流線型の

身体とは言えません。





 

ウミスズメ科のロコモーション



 これまでのコラムで折々触れて来ましたが、ウミスズメ科のトリはいずれも北太平洋やアラスカ、北大西洋に亘る寒冷な海域に棲息し、基本的に繁殖期のみ孤島や断崖絶壁にコロニーを作り繁殖し、繁殖期の前後に換羽して模様替えをすると同時に一部のトリではクチバシの様相が変化するとの共通性を示します。開いた時の翼の左右幅はやや小さめで、単位時間当たりの羽ばたき回数を増やして飛翔し滑空型の飛翔は行いません。一方、海中にあってはいずれの種も巧みな潜水能を示し、主に翼で羽ばたく事で推進力を得、水深数十メートルにまで海中遊泳しますが、小魚を求めて巧みに三次元的な移動、方向転換を可能とします。

 潜水が出来れば、海中の豊富な魚を直接に餌とすることが可能となりますが、水面近くに浮上した魚を狙ってクチバシで捕獲する初期型から、軽度に水中に突入し餌を捕獲し、Uターンして水上に舞い戻るへと進化し、更に到達し得る水深を深めると同時に水中遊泳するトリへと改変が進んだのでしょう。ウミスズメ科の仲間はその際に翼で羽ばたく方向に進んだと言う訳です。

 Youtube にアップされたウミスズメ科の潜水ロコモーションに関しては、色彩の鮮やかでヒトからの関心を集め易いと思われるエトピリカの仲間、それと個体数が多く大型で海中を多数個体が群舞するウミガラスの動画が大半を占め、ウトウやウミスズメなどの地味で小型のトリの潜水動作の動画は非常に少なく、見るにしても水族館等にて、来館したアマチュアが偶発的に撮影した動画ばかりになります。余談ですが、動物園や水族館等で動物行動を撮影するには、視点をフラフラと変えず、カメラを定点的に固定すべきです。上からのシーンを撮りたいのか、水中動作を撮りたいのか撮影テーマを絞り込むことが肝要です。あとは適宜カメラを回しますが、撮影の95%以上は役立たずの無駄動画となると腹を括るしか有りません。院長の場合は狙った動作の撮影に計数十時間を掛けるべく通い詰めますが、行楽で訪問してby chance で撮影するアマチュアには、学術的に役立つ撮影はだいぶ厳しいかも知れませんね。

 さて、本邦の天売島はウトウの最大の繁殖地ですが、陸上或いはその島への渡船上から撮影された動画は数多く存在しますが、海中のシーンは見かけません。これには一定の予算を確保してプロのダイバーに依頼する他はありませんが、そこまで遣る者が居ないと言う事になりましょう。潜ったところで水の透明度が無ければ綺麗な絵も得られず、投資する価値が無いと判断されている可能性もありますね。まぁ、ロコモーションについて知りたいと思う本人が自分の得たい画像を自前で得る以外に無いのが実際のところでもあるのですが。






"Rush Hour" at the Farne Islands 2015/06/08 Ben Burville

"Penguins" of the North ... guillemots underwater at the Farne Islands.

https://youtu.be/H6h_JO-BRBk

正確な種の判定が出来ません。投稿者は guillemot としていますが、この語はウミバトとウミガラス

を総称した言葉です。クチバシの大きさを含めた頭部形態並びに身体の色彩からウミガラスに見えます。

急降下突入型の潜水開始動作を示さず、ウミスズメ科のトリには間違いはありません。




Guillemots Underwater 2012/06/03 SublimeScuba

This is what a guillemot shower looks like. The first part of the video is at 18m/60ft

depth, then the birds are buzzing us at the safety stop. It's a fabulous diving experience.

https://youtu.be/rm-BP0YHTmE


翼が一枚板として動作するのではなく、上腕部と前腕部との間に、しなりが発生している

のが見て取れます。水の抵抗が大きくこの様な現象が発生していると考えて良さそうですが、

これが円滑な前方推進に役立っている可能性もあります。




Hornoya Swimming with Alcids April week15 2016 c Biotope 2016/04/19 Tormod Amundsen

Biotope video blog week 15, 2016 - A visit to Hornoya bird cliff - swimming with Guillemots

https://youtu.be/cGONCRSw_8A


1:20-1:40 にウミガラスの水中群舞が見られます。Hornoya はノルウェーの北緯70度に位置する

小島ですが海鳥の宝庫となっています。しかし、シュノーケリングだけで良く寒冷水中にダイビング

するものと感心してしまいます。




Meet the Underwater Torpedo Bird | National Geographic 2013/09/19 National Geographic

Murres may be clumsy in the air, but these tiny arctic birds move like torpedoes underwater.

https://youtu.be/nbnJsc-GPaA


ウミスズメ科で最大種のウミガラスは水深50mまで潜水したとの報告も為されています。同じ羽ばたき

をするにしても、空中を飛翔する時と潜水する時では動かし方が異なっています。空気と水とでは比重、

粘性が全く違いますのでそれぞれに最適な羽ばたき方法を行うのでしょう。同じプロペラでも飛行機の

それと船のそれとが大きく異なるのと似ているところもあるでしょう。羽ばたき動作時にそれの反作用とし

て体幹が背腹に揺れ動くのが見て取れます。しかしながら海水温零度以下の海中を良く泳げるものです。

羽毛が空気層を形成し断熱材として機能しているのでしょう。




Slow motion of puffins swimming underwater at living coasts torquay 2010/03/29 

steven underhill  Slow motion of puffins swimming underwater at living coasts torquay

https://youtu.be/QiSMIcaUqbY


ツノメドリ、エトピリカの仲間のトリの潜水飛翔のスローモーション動画です。翼が一枚板

では無く、柔軟な構造として撓るのが良く判ります。





 

この様な限定される状況にあり、数少ない動画をざっと見ての感触の範囲に留まりますが、ウトウやウミスズメの潜水飛翔は、ウミガラスの様な大型の種に比して、より空中飛翔を行っている動作に近い泳法を示す、即ち、薄目を開けて見れば空中を素速く飛んでいるのと大差無い飛翔形態を見せている様にも感じます。これらの小型のウミスズメ類に比べると、ウミガラスでは、翼の開く幅をより縮め、くの字に折り畳み、空中飛翔時とは明らかに異なる羽ばたき型を呈する様に見えます。より力を込めて<一挙手>毎に羽ばたく様に見える訳です。またこの時に、翼の上腕部と前腕部に撓り(しなり)、即ち、羽ばたき時の引き寄せ動作に時間差が発生しているのが明瞭です。

 どうしてこの様な違いが生ずるのか、ですが、これにもボディサイズの問題が関与していると院長は考えます。筋肉は単位断面積当たりが産生出来る張力がほぼ一定ですので、例えば或る動物のサイズが等しいプロポーションのままに2倍になるとすると、体重は8倍になりますが、筋の断面積は4倍にしかならず、同じプロポーションのままでは同じロコモーションが不可能になります。これには中身の<建築資材>の配分を替えて外見的にもデフォルメするしかありません。そしてロコモーションを行う為の媒体−足掛かり−が空気から重たい水に代われば、その形態並びにロコモーション動作に対しても、より強い改変圧力が掛かる筈です。この様な事から、ボディサイズの小さなウミスズメはまだしも空中飛翔に近い動作で水中をスイスイと飛べても、ボディサイズの大きなウミガラスなどでは、空中飛翔とは大きく変わった姿で水中飛翔を行うのだろうと考えます。サイズが小さければ、構造力学的に翼を撓らせずに剛体として水中飛翔することはまだしも可能ですが、大型化すれば、翼の特に遠位方が水の抵抗を大きく受けて動作的に一体化し得ない現象も発生するでしょう。尤も、この撓りが、円滑な遊泳動作に役立っている可能性はあります。

 水中で餌を獲ることに比重が増せば、前肢である翼をより強力に羽ばたたせる為に、近位側の上腕骨−胸筋−胸骨を強大化させると同時に遠位の筋骨格要素を縮小させる方向に改変が進みますが、これは空気中での飛翔動作に不利益を生むことになります。この様な進化の流れ、詰まりはボディサイズの大型化、翼の改変、空中飛翔からの<卒業>を経てペンギンのような動物が誕生したのでしょう。ボディサイズの大型化は、同時に寒冷に対して適応的です。また水中遊泳に適するべく、身体の流線型化も一層進んだことになります。この様な形態的並びにロコモーション上の改変についてはペンギンの項にてまた考察する予定です。