Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック  院長コラム

カモの水中ロコモーション

                             


























https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ


https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae







https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidae

https://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus

https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara















羽ばたきロコモーション 海鳥15




2021年9月1日

 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。

 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。カモの仲間の続きですが、ぼちぼちロコモーションの話に入りましょう。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://en.wikipedia.org/wiki/Duck

https://ja.wikipedia.org/wiki/カモ


https://en.wikipedia.org/wiki/Mallard

https://ja.wikipedia.org/wiki/マガモ


https://en.wikipedia.org/wiki/Domestic_duck

https://ja.wikipedia.org/wiki/アヒル


https://en.wikipedia.org/wiki/Tufted_duck

https://ja.wikipedia.org/wiki/キンクロハジロ


https://en.wikipedia.org/wiki/Swan

https://ja.wikipedia.org/wiki/ハクチョウ属


https://en.wikipedia.org/wiki/Little_grebe

https://ja.wikipedia.org/wiki/カイツブリ







Ducks Diving for Mussels | Planet Earth | BBC Earth 2012/05/20 BBC Earth

In the Arctic circle, ducks take advantage of permanent holes in the sea ice,fighting

the fierce ocean currents to dive 10 metres down and reach the rich layer ofmussels

that populate the sea floor. Beautiful underwater filming from BBC naturalhistory

masterpiece, Planet Earth. https://youtu.be/f7wY4Cnuk-s


海氷の穴から北極圏の海に潜水しムール貝を獲るカモの仲間。烈しい海流と戦い 10m

の深さに潜り、海底にカーペットの様にびっしりと固着するムール貝を狙います。下降時には

翼で懸命に羽ばたきますが、この時に反動としての体幹の背腹方向への揺れが大きく、エネ

ルギー効率は今一に見えます。浮上時には翼も脚も動作する事無く、浮力のみで上昇してい

ますね。海女が海底のアワビやサザエを捕獲するのと同様に、基本的に固着タイプの餌を求

めての垂直潜水、垂直浮上型の遊泳と言えそうです。





平成29年10月16日〜31日放送 志摩の国チャンネル特別番組 「志摩の海女」 2017/11/13 

志摩市 国の重要無形民俗文化財に指定された「鳥羽・志摩の海女漁の技術」をご紹介します。


海底を目指す垂直降下、垂直上昇の潜水形態と言えます。素潜り潜水して水平位に遊泳移動

するのはヤスで魚を仕留める、魚を定置網に追いやる、或いはカメなどを生け捕りするぐらい

でしょうか?




Tufted Duck, Mallard & Swan Underwater 2016/03/01 Jack Perks Wildlife Media

Tufted ducks dive for the food at the bottom while mallard dabble at the surfacetrying to

reach the riverbed and swans use there long necks. https://youtu.be/M_teOciEnio


水面下のキンクロハジロ、マガモ、ハクチョウ。キンクロハジロ (いずれもカモ科)は潜水して水底

の餌を求めますが、マガモは川床の餌に届こうと水面をバシャバシャし、ハクチョウは長い首を

利用します。


キンクロハジロが完全に潜水し、後肢を体幹の真後ろに位置させて巧みにパドリングするの

に対し、マガモは体幹は水没させることなく、首を下方に伸ばしての採餌となります。これでは

浅い水深環境のみにしか棲息出来ませんね。白鳥も基本的にマガモと同様に体幹部は水没

させませんが首が長い分だけ有利です。キンクロハジロは潜水時の羽ばたきは行いません。

オナガガモが尖った尾羽を上に突き出す様にして体幹を鉛直に立てて水面下に首を突っ込む

シーンは普通に見られますが、マガモにもその程度が限界なのでしょう。





Grebe. A look at it under water. 2019/09/29 Pang Quong

Grebes seem to be  secretive birds  that are seldom seen under water. This onedidn't  

seem to care about the diver observing it. https://youtu.be/QqOjjVANpTc


カイツブリの潜水動作ですが、後肢を体幹の真後ろに位置させ足を大きく開いて推進力を得

ていますが、キンクロハジロの動作に似ています。余談ですが英語が得意ではない様に見

えます。逆に言えばこの程度の英語でも youtube では通用し他人に役立てる事になります。

口上では無く、動画の中身、コンテンツがモノを言います。実際大いに参考になりました。






カモの水中ロコモーション



 冬期に上野の不忍池−古江戸湾のどん詰まりの生き残り−に飛来する各種のカモを観察していると、オナガガモが体幹を直立させて身体の前半分を水没させて餌を採るシーンが普通に観察されます。尖った尾羽を上に突き立てて<垂直半分潜水>を行う訳ですが、マガモはどうかと言うと、そこまでの明確な<垂直半分潜水>は行わない様に見えます。いずれにしても、この様な方法で川底或いは湖底にクチバシが届く、水深の浅い場所で無いと採餌は困難になりそうです。ハクチョウは長い首を利用可能な分だけより水深の深い場所でも餌が採れますが、ハクチョウの首が長いのも無用に長い訳では無く理由があることが改めて理解出来ます。jまぁ、いずれも潜水は出来ませんので、小魚を捕獲して食べるのも得意では無いでしょう。浅場で植物を食べるのがメインと考えて良さそうです。院長の小学校ではアヒルが飼育されていましたが、近くの溝で玉網で捕獲した鮒−当時は農薬の大量消費時代以前であり、都区内でも<その辺>の用水路や溝を掬うと鮒ややドジョウ、ヤゴなどがわんさか捕獲出来る良い時代でした−を与えると喜んで食べました。アヒル自身では俊敏な動きをする魚を水面から首を突っ込んで捕獲するのは得意そうには見えませんでした。

 これらのトリに対し、北極圏には氷の穴から寒冷な海中に羽ばたいて潜り、10m 下の海底にびっしりと固着するムール貝を捕食するカモが存在します。この様な氷に閉ざされた場所では餌は海面下にしか有りませんのでダイビングする以外の生存の道は無く、推進力を得るために羽ばたき動作を行うものと考えられます。帰路に海面に向かって浮上する際には羽ばたきも脚でのパドリングも行わず、大きな浮力が作用していることが分かります。身体の中に空気が多く詰まっているのでしょう。これ故に水底に達するためには翼を利用して懸命に羽ばたく必要があるとも言えそうです。但し、この羽ばたき動作自体が稚拙に見え、また羽ばたきの反動としての体幹の背腹方向へのブレも大きく、エネルギー効率からみると習熟した潜水羽ばたきには見えません。水底にある餌を採る点で、マガモなどの採食法の延長線上に位置する様に見え、基本的に潜水して水平方向に移動して小魚などを追い求める潜水動作ではない様に見受けられます。これは海女がターゲットとする海底のアワビやサザエ−移動性に乏しい−を捕獲するのと同様に、基本的に垂直潜水。垂直浮上型の遊泳と言えそうです。水中を横方向に移動して逃げる魚を追い求める巧緻性の高い潜水ではなさそうな訳ですが、尤も、この先に進化してウミスズメ科のトリやカツオドリなどの様に潜水を巧緻化させ、水平移動も巧みとする可能性はあるでしょう。

 ここに来て思い出しましたが、40年程前にTVのドキュメンタリー番組で見たのですが、沖縄の或る離島出身で本土でサラリーマンをしている男性が故郷の海で素潜りしてカメを捕獲するシーンが放映されました。離島の掟で、素潜りしてカメを捕獲する事が一人前の男であると認められる通過儀礼であり、男性はこれに挑んだ訳です。海面下を水中移動しタイマイの様なカメの捕獲に成功したところで番組は終わりましたが、この様な潜水・水平遊泳での漁法は沖縄の猟師には極く一般的な事なのかもしれませんね。ヤスで魚を突く、魚群を網に追い立てるなどの際に水平型の潜水が行われそうです。まぁ、海女のスポット的な垂直往復漁法とは性格を異にする漁法です。トリの潜水動作を考える過程で、海女の潜水漁法の特徴が明確に<浮上>しましたね。







 Male (above) and female (below)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/eb/Tufted-Duck-male-female.jpg

Andreas Trepte, CC BY-SA 2.5 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5>,

via Wikimedia Commons


キンクロハジロの雄(上)と雌(下)。やや小振りのカモになります。院長も研究用の冷凍標本を

保持していますが、クチバシの青灰色の部分が実際にチョークを塗ったように粉っぽい感触です。






 話を元に戻しますが、小型のカモであるキンクロハジロ Tufted duck,  Aythya fuligula は、完全に体幹を水没させての潜水が巧みであり、体幹の真後ろに後肢を配置したまま、足ゆびを大きく開いて大方左右同時のパドリングを行い、水中を上下左右自在にスイスイと進む事が出来ます。この時に翼は利用せずに畳んだままです。俊敏な各方向への動きが出来ますので、ウなどと同様に小魚などを追い求めて捕獲する事も可能な筈です。因みに、キンクロハジロよりもずっとサイズの小さいカイツブリ (これはカモの仲間ではありません)の潜水動作中も、似た様な後肢の利用を行います。この後肢の利用法は、カツオドリが後肢を腹の下側に屈してから後方へと伸展して後方に水を押しやる方法(後肢屈伸動作型、向きは異なるがカエルの脚の動作に似ている)と異なり、船が船尾に取り付けたプロペラで推進力を得る方法(後肢伸展維持型、ヒトのクロール泳法の後肢動作もこの一種)にも似ていて、不要な水の抵抗を産まない点でより効率的な遣り方でしょう。アザラシの後肢も体幹の真後ろに配置して足の平を叩く様にして、前肢のパドリングに拠る推進力産生の助けとしますが、この動作に類似しています。

 この様に同じカモの仲間とは言っても、潜水能力の差異が大きく、水面に浮かんで首を水面下に突っ込む程度のものから。垂直型潜水、更には巧みに水平型潜水遊泳するものまで多様性に富んでいることが分かります。余談ですが、院長は、と或る動物商から輸入中に死亡したキンクロハジロの冷凍標本を数体譲渡され、冷凍庫に入ったままになっているのですが、折りを見て肉眼解剖的な観察を行おうと考えて居ます。