Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               


































































































































































































































院長のコラム 2019年3月20日


『破傷風の話』







破傷風の話




2019年3月20日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

  『ミツバチは家畜か?』 の項でボツリヌス菌について触れましたが、この菌に近い仲間で、同じく無酸素状態の土壌や池の泥の中で存在する破傷風菌があり、こちらは傷口内部で芽胞が 「芽を出し」 、増殖した菌が神経毒を産生し、それが脳神経を冒し、ボツリヌス毒素とは真逆の症状、即ち筋肉の烈しい痙攣を引き起こします。

  院長が子供の頃は土にトンネルを掘って遊ぶのが好きでしたので、それを見た母親からは、破傷風になっちゃうよと良く注意されました。現在でも一度発症するとその後の治療はけして楽には進まない様です。30年以上前に、松竹映画の『震える舌』 を見た事がありますが、破傷風の病状がリアルに描写されていました。烈しい筋の強縮がちょっとした刺激で発作的に起き、患者はのたうち回ります (正しくはのたうち回ることすらできません)。狂犬病は咬傷からウイルスが神経路を遡上して脳に達し、烈しい症状を引き起こしますが、破傷風も中枢神経系を冒す点に於いては類似し、これほど恐ろしい感染症も稀かと思わされます。

 尚、国立感染症研究所の web サイトに拠ると、現在でも依然として致死率は 20〜50%の水準にあるとのことです。

以下参考サイト:

破傷風とは 国立感染症研究所


https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html








映画『震える舌』  松竹チャンネル https://youtu.be/zaqEN6JjFa4






  個人的な話となりますが、院長の通学していた高校は、千葉の、とあるところに合宿場を持っており、時々そこで レクリエーションなどを行っていました。その場所の土壌が破傷風菌に汚染されていた模様で、私の何年か前の生徒が破傷風を発症し不幸にして亡くなったとのことで、入学後は全員が破傷風トキソイドの接種を2度受けさせられました。大学の微生物学の講義で、家畜の中でも特に馬が破傷風に感受性が高く、つまりは感染し易い、それゆえ、馬の集積していた土地、即ち、牧場や軍隊の練兵場だった土地は破傷風菌に汚染されている可能性がある、と習いました。千葉には有名な観光牧場もありますが、その様な場所で、ガラスで指を切る、ナイフの刃が刺さった、釘が刺さった、鉄条網の針が刺さったなどの深度のある傷を負った場合、破傷風の危険性を思い浮かべた方が良いでしょう。破傷風は酸素があると増殖出来ませんので、傷が深く大気に暴露されない環境で増殖を開始します。つまり深さのある傷が危ないと言う訳です。尤も、上記サイトに拠ると、本邦で年間に 100名程度発症する患者の内、3割程度は感染部位が不明であり、ちょっとした小さな傷であっても内部に芽胞が残留すると危険である可能性も捨てられません。

  汚染地区と判明している、していないに関わらず、釘を刺した様な (深い) 傷に対しては、その場で血液を何度も絞り出して、土壌や汚れを体外に押し流す応急処置を行う事をお奨めします。破傷風への警戒に限らず、動物の歯牙に拠る咬傷、爪に拠る引っ掻き傷の場合も−動脈から烈しく出血している場合は勿論別ですが−この方法を取り敢えずは即座に取って下さい。院長は、ヘルペスBウイルス(脳炎を起こす!)陽性のサルに咬まれたことがありますが、この時はぬるま湯の流水下で30分程度傷を圧搾して血液を絞る処置を続けましたが、それが効いたのかその後発症もせずに胸をなで下ろした経験があります。ヘルペスBを抑える抗ウイルス薬のアシクロビル製剤は、まさかの時に備えて職場の感染症科の  I先生に相談して事前に受け取っていたのですが、副作用に精神疾患を来す虞があると記述され、飲むに飲めません・・・。まぁ、これまで何度も書いていますが、獣医師なる職業は、単に動物が好き程度ではとても勤まりません。






Beethoven 5th Symphony, Mvts III-IV (Timpani Excerpts)

https://youtu.be/J1VQF0xoCSA

破傷風菌の形状はティンパニーのドラムスティックに似ています。北里柴三郎は破傷風菌の純粋

培養に成功した2人の内の1人ですが、北里大学の校章にはその偉業を讃え、太鼓の撥がクロ

スするデザインが取り入れられています。これは破傷風菌の特徴的な姿を図案化したものです。






   東京近辺の話をすると、原宿の竹下通りにもすぐ近く、明治神宮横の代々木公園ですが、ここは昔は代々木練兵場として使用されていた土地ですので、軍馬が行き来したこともあるでしょう。現況では刺し傷を負うような環境にはなく安全に整備されていると思いますが、一応は破傷風の事を頭の片隅に置いておくと良いかと思います。

  因みに、家畜伝染病予防法施行規則第二条では牛、水牛、鹿、馬に対して破傷風が届け出伝染病として規定されています。法定伝染病ほどでは無いが、一応は危ない感染症だ、との位置づけでしょう。

 ペットを含め動物と接するときは、必ず感染症について思い浮かべるようにして下さい。それを取り除いたクリーンな動物となって初めて、愛玩するに値する対象となることを忘れないで戴きたいと思います。

 上でチラと触れましたが、狂犬病については後日 expand  して記事にしたいと思います。