Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               







































































































































































































































院長のコラム 2019年4月15日


『イヌは噛み付いて当たり前』







イヌは噛み付いて当たり前




2019年4月15日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 狂犬病の項で、狂犬病はイヌ以外に広く哺乳動物に感染し発症する感染症であると書きました。それ故、狂犬病に感染し潜伏期間中にあるイヌ以外の動物が本邦に輸入される可能性はゼロではありません。問題はその動物が牙を持っていて噛み付く習性のある動物であるかどうかです。それが無ければ他に感染させる虞は格段に低くなり、感染した動物が発症して脳炎症状を起こし死亡するだけでしょう。例えば人間が感染し発症した場合も最後は狂騒状態から昏睡に至りますが、人間は噛み付く習性が無く、他の者に襲いかかって感染させる伝搬様式はありません。発症者が亡くなればそれで終わりとなります。詰まりは、牙で噛み付く動物と言えば食肉目の肉食性の動物が殆どですから、それら動物に対し重点的に目を光らせれば狂犬病流行の危険性を格段に抑えることができるだろう、との考えに立って施策を講じているものと思われます。

 実際には国内ではニホンザル等 (「等」と表記したのは、動物園等から逃げ出して野生化したマカク (旧世界のサルは全てオナガザル科一科に属しますが、マカクとはその中の一大勢力であるマカク属のサルの総称で、ニホンザル、カニクイザル、アカゲザル、タイワンザル、ブタオザルなど東〜東南アジアに掛けて広く分布します)或いはこれらとニホンザルとの混血集団が野山に棲息するゆえ、可能性を考慮してのことです) による咬傷事例が散発もしていますので、万一国内野生猿に狂犬病が入った場合には、それが人間への被害に繋がる危険性も高まり、大変厄介な事になりそうです。しかしサルは賢くまた敏捷ですので、異常な個体が居ればそれからさっと遠ざかり、ウイルスがサル集団内でプールされ維持される蓋然性は非常に低いとも考えられます。



以下参考文系:


The evaluation of operating Animal Bite Treatment Centers in the Philippines from a health providerperspective

PLoS One. 2018; 13(7): e0199186. Published online 2018 Jul12.

doi: 10.1371/journal.pone.0199186 PMCID: PMC6042697PMID: 30001378

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6042697/

 フィリピンの動物咬傷治療センターの概況について主に医療コストから評価した論文。






 



  


https://www.louisdonald.com/theheadofthegermanshepherd.html

上がイヌの祖先に最も近いとされるハイイロオオカミ、下がジャーマンシェパードの

頭蓋骨です。家畜化 (飼育動物化) されたイヌに於いても基本的に犬歯のサイズ

と鋭さにオオカミとの違いはほとんどありません。




ジャーマンシェパードが開口したところ。

https://www.louisdonald.com/theheadofthegermanshepherd.html

鋭い上下の犬歯で獲物を掴み放さず、息絶えた後は上下の奥歯の鋏の様な歯(裂肉歯

れつにくし)で切り裂きながら呑み込みます。この様な歯牙で襲われたら深手を負うのは

間違いありません。人間の「平和的」な歯列とは丸で違っていますね。






 考えてみると、強大な牙を持つ食肉獣でハンターでもあるイヌを手許に置いたこと、即ち  domesticate した事は、人間にとっては利便性に加え、咬傷受傷と狂犬病感染の危険性を併せ持つ諸刃の剣を得たことになります。


 フィリピン国内に513施設を擁する動物咬傷治療センターには年間 で国民の1%に相当する100万人もの咬傷被害者が押し寄せますが、大半は浮浪イヌや半ば野生化したイヌに拠る被害と思われます。1日当たり3000件の咬傷事故発生の計算です。これはイヌの咬傷受傷後に狂犬病ワクチンを投与する為の機関ですが、そのお蔭と思いますが、フィリピンの年間の狂犬病死者数は250名程度に留まっており、例えばインド国内での年間2万人の死者数とは大差が付いています。野犬狩りを進める一方、咬傷受傷者に対してきめ細かく、<暴露後ワクチン投与>を開始するシステムには院長は感心させられました。

 フィリピンは日本同様に島国ですので、街中をうろうろする様な管理されないイヌの淘汰を鋭意進めれば更に咬傷受傷並びに狂犬病の死者数を減少させる事が出来るのではと思います。これにはイヌの飼い方に対する啓蒙活動も役立つことでしょう。

 浮浪犬の存在を許容しない社会にすれば狂犬病の方は解決に至る筈ですが、しかしながら咬傷の方はゼロには出来ませんね。何となればイヌは咬む本能の元に進化してきたのですから。それでハンティングを行い、武器として使用して来た動物と言う訳です。人間の奥歯は臼の様な形をしていますが、これは食べ物をすり潰すのに役立ちます。木の実や穀類を或いは根菜や野菜をすり潰しながら飲み込むには向いています。しかしイヌの歯にはその様な奥歯は無く、肉を切り裂いて小片にする目的の歯しかありません。獲物を噛み付いて捕獲し、細切れにして呑み込む方向に完璧にまで適応した歯列構成です。まぁ、イヌは噛み付いて当たり前、噛み付くのが彼らの生きる術(すべ)だったのですから。その様な武器を持つ動物を我々人間は仲間として飼育する様になりました。






How to Survive a Dog Attack イヌの攻撃からどうやって生き延びるか? BRIGHTSIDE

How to defend a dog attack? What should you do if you're attacked by a dog?

Should you run or fight? There is the only one way to survive.

https://youtu.be/vX-OOfbnD9w


  野獣のようなイヌに襲われた場合にパニックになりがちですが、まず落ち着き、逃げずにじっと

している、目を合わせない、低い声であっちに行けと命ずる、何かを投げる、或いは地面から何か

を拾って投げるふりをする、指を食いちぎられないように拳を握る、いざと言う時はイヌの鼻先、

喉、後頭部を打つ、自分の首から上の部分とイヌとの間に何かを介在させるなど、覚えておくと役

に立ちますね。


 何か腕に厚めに巻き付けてそれに敢えて噛みつかせ、他の手に鍵などを握り、イヌの顔面 (鼻

先と目) に突き刺すのも自分の命を守るのに有効と院長は思います。まぁ、只では噛み付かせん

ぞ、との気概を持つことです。聞き分けのないイヌは人間に不幸をもたらす危険な野獣でしかない

ことを忘れないで下さい。野山でクマに襲撃された際にも鼻先や目を拳で殴る、鍵の様なもので突

くのも良さそうです。反撃しなければ、特にヒグマの場合はその場で食べられてしまい、まともな遺

体も残らぬ様になりますので。





Education for a Rabies-free Ilocos Norte, Philippines Global Alliance for Rabies Control

(GARC)  To spread awareness of rabies and knowledge of what to do when bitten it’s

crucial to educate the community, especially the children, and that’s what we’re doing

in Ilocos Norte, Philippines, through the CARE project  https://youtu.be/EN1_8oEmzLM


狂犬病発生ゼロを目指すフィリピンの取り組み。小学生をメインに一般人に対しても狂犬病の予

防、噛まれた時の対処法について啓蒙しています。子供達の命を守る為には小学校の内から

教育しようとの取り組みです。






 脳炎に罹患して噛む本能が凶暴化したイヌは別としても、健康なイヌに於いても、イヌの躾の鍵は持って生まれた習性・本能である、「咬む」「噛む」をどう制御するかに掛かっていることがあらためて良く理解戴けると思います。具体的には咬んでも良い対象と咬んではいけない対象を理解させることになります。

 このイヌの躾け、特に咬むことの制御に関しては別項で改めて採り上げたいと思います。