ハイエナC 形態と行動 |
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2019年6月15日 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 前回Bでは系統分類の論文を紹介しましたが、今回最終回では、再び英語版 Wikipedia のhyena https://en.wikipedia.org/wiki/Hyena の項に戻り、形態並びに行動的特性の項を採り上げます。 以下、本コラム執筆の参考サイトhttps://ja.wikipedia.org/wiki/ネコ亜目https://en.wikipedia.org/wiki/Hyenahttps://en.wikipedia.org/wiki/Banded_palm_civethttp://skullbase.info/skulls/mammals/spotted_hyena.phpハイエナの頭蓋骨を自由に回転させて見る事が出来ます。外挿 Extrapolationhttps://en.wikipedia.org/wiki/Extrapolation から以下引用Extrapolation may also mean extension of a method, assuming similarmethods will be applicable. Extrapolation may also apply to human experience toproject, extend, or expand known experience into an area not known orpreviously experienced so as to arrive at a (usually conjectural) knowledge ofthe unknown [1] (e.g. a driver extrapolates road conditions beyond his sightwhile driving). The extrapolation method can be applied in the interiorreconstruction problem.外挿とは似た様な方法が適用可能だろうと仮定して他に当てはめることを言う。過去の経験や知識を未知や未経験の事に当てはめ拡大し、知られていなかった知識に到達する。(部分訳)Wikipedia contributors. "Extrapolation." Wikipedia, The Free Encyclopedia.Wikipedia, The Free Encyclopedia, 14 Feb. 2019. Web. 26 Apr. 2019.*例えば医学の分野では、人間を実験台に使う事は出来ませんので、他の動物で医薬品の安全性をテストし、どうも人間にも安全そうだと考えてから製薬化しますが、これが外挿です。外挿が誤りだった場合、薬害事件が起きることになります。 |
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身体のつくりハイエナの胴体長は比率的に短く、体付きは可なりがっちりとしたオオカミ様の造りだが、身体の後ろ1/4は高さが低く、肩甲骨の高まり(キ甲 きこう)から臀部に向かい、背中が斜めに下がっていくのが明瞭に見て取れる。前肢は高さがあり、一方、後肢は大変短く、足首は肉厚で短い。頭蓋骨は表面的には大型のイヌ科動物に類似するが、ずっと大きくて重く、顔面部が短い。ハイエナは指行性で手足の平はおのおの4本指を備え、膨らんだ明瞭な肉球を持つ。イヌ科動物に似て、ハイエナは短く強靱で引っ込められない鉤爪を持つ。毛皮は毛の密度が薄く、ざらついていて、下毛は僅かか或いは欠いている。大方の種は豊かな鬣(たてがみ)を備え、それは肩甲骨の高まり或いは頭に始まる。ブチハイエナを例外として、ハイエナは縞模様の毛皮を備えるが、彼らのジャコウネコの祖先からそれを受け継いでいる様に見える。耳は大きく、基部(付け根)が単純に隆起し、耳介の縁には滑液嚢を備えない。頸部を含め脊柱は、可動性に制限を持つ。ハイエナは陰茎骨を持たない。ハイエナの肋骨はイヌ科のそれより一対多く、舌はネコ或いはジャコウネコの様にザラついている。大方の種で雄は雌より大型であるが、ブチハイエナは例外であり、雌が体重で雄を凌駕し優勢に立つのである。また、他のハイエナとは異なり、ブチハイエナの雌の外性器は雄のそれに大変良く似ている。cf.キ甲のキは、馬のたてがみの意味の漢字で、JIS第4水準 Unicode U+9B10 です。本ホームページでは表示不可能ですが、https://kanji.jitenon.jp/kanjin/6846.htmlを参照して下さい。髪かんむり+老+日を縦に並べて構成されます。馨甲の文字を当てているサイトも散見されますが、馨は「かおる」で良い匂いがするの意ですから完全な誤りです。読みに関しても「キ」の音ではなく、キョウかケイです。ご注意ください。歯牙はイヌ科のものに非常に類似するが、粗雑な食物を消費し、骨を砕く為に更に特殊化が進んでいる。裂肉歯は−特に上顎のものが−非常に力強く、また顎に最大の圧力が掛かる方へとずっと後ろ側に移動している。残りの歯は、発達していない上顎の臼歯を除き、強大であり、基部は幅広く、鋭い縁を備える。犬歯は短いが、厚く頑丈である。舌や唇に関しては、イヌ科に比べると、犬歯部位の下顎はずっと強く、それはイヌ科とは異なりハイエナが前方の歯と前臼歯を用いて骨を砕く事実を反映している。イヌ科は、裂肉臼歯の後方でそれを行うのである。ハイエナの顎の力は、シマハイエナとブチハイエナ共に、皮膚を破ること無く只の一度の首への噛み付きでイヌを殺したと記録されて来ているほどの強さである。ブチハイエナは、身体のサイズに比例した強力な噛む力でよく知られているが、実は(タスマニアデビルを含む)他の数多くの動物の方が身体のサイズの割には噛む力はより強力である。アードウルフは頬歯(=臼歯)のサイズを大きく縮めており、成体では時に欠損していることもある。それ以外は他の3種と変わらず、全てのハイエナの歯式は、3.1.4.1/3.1.3.1 である。ハイエナは会陰部の臭腺を欠くが、肛門開口部に無毛の皮膚の大きな袋を持っている。肛門の上の、大肛門腺はこの袋に口を開く。肛門腺の複数の開口部の間並びに開口部の上には、幾つかの皮脂腺が存在する。これらの腺は、白い、クリーム状の分泌物を作り、ハイエナはそれを草の茎に練り着ける。この分泌物の匂いは大変強烈で、安物の石鹸を沸騰させた様な、或いは焦がしたような匂いで、風下数メートルでもヒトには感知できる。分泌物は第一に縄張りをマーキングするのに用いられるが、アードウルフとシマハイエナ共に、敵から攻撃されたときにはそれを噴射する。 |
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行動ハイエナはネコやジャコウネコの様にしばしば自身で毛繕いし、また生殖器を舐める遣り方はネコに大変似ている(後方の背中を付けて座り、両足を開いて片方の足を空中にピンと垂直に上げる)。しかしながら、他のネコ亜目とは異なり、顔は「洗わない」。他の食肉目と全く同じ遣り方で排便するが、排尿時にはイヌ科とは異なり足を上げる事は全く無い。と言うのは、排尿は彼らの縄張り機能には全く役立たないからである。その代わりに、ハイエナは肛門腺を用いて縄張りをマーキングするが、これは、ジャコウネコ科及びイタチ科で見られ、イヌ科とネコ科では見られない習性である。ライオンやイヌに襲撃された時は、シマハイエナとチャイロハイエナは、死んだ振りをするだろう。尤もブチハイエナは猛烈に防戦する。ブチハイエナは非常に音声的で、吠えたり、フゥーと唸ったり、呻いたり、低い声でウーと言ったり、クスクス笑ったり、大声で叫んだり、唸ったり、笑ったり、また鼻をクークー鳴らしたりと言った数多くの異なる音声を発する。シマハイエナはこれに比べると静かで、その発声は、短い音から成る笑い声及び吠え声に限定される。ハイエナの交尾は、短い間隔を置いた頻回の短時間の交接から成り、通常1回の、長引く交接を行うイヌ科とは異なっている。ブチハイエナの子供は、ほぼ十分に発達した状態で生まれ、成体の模様は無いものの、目が開き、切歯と犬歯は萌芽している。対照的に、シマハイエナの子供は、成体の模様で生まれるが、目は閉じ、耳は小さい。ハイエナは幼な子の為に食物を吐き出すことは無く、シマハイエナの雄を除き、雄は子供の成育には全く役割を果たさない。シマハイエナは第一義的に腐肉食者であるが、偶発的には、どの様な動物であれ防御力の無いものには、攻撃し殺すことがあるし、果物で食事を補うこともある。ブチハイエナは、偶発的には腐肉食者だが、中〜大型サイズの有蹄類に対して社会的な狩りを行う。イヌの様な遣り方で長距離の追跡で疲弊させ、仲間から寸断させて捕獲する。アードウルフは第一義的に昆虫食であり、Trinervitermes 並びに Hodotermes 属のシロアリを採食するのに特化している。その長い、幅広の舌で舐め上げ食べ尽くすのである。アードウルフは一度の外出で30万匹の Trinervitermes を食べることが出来る。 |
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ブチハイエナの雌の外性器が雄のものと区別が困難であることはよく知られています。これについて触れない訳にはいきません。 https://hyena-project.com/research-topics/who-females-prefer/Female spotted hyenas have the power to choose their mates. First, females spotted hyenas are socially dominant over most males (mostly immigrant males)and can thereby reject any male they do not want to mate with. Second, themasculinisation of the females’ external sexual organs into a ‘pseudopenis’forces males to mate in a very instable position; a successful mating requiresthe full cooperation of the female. Unlike most other mammals, female spottedhyenas cannot be forced to mate and have complete control over copulation.Having a pseudopenis therefore provides substantial benefits to females byallowing them to choose the father of their offspring. And female spottedhyenas have clear ideas about who they want to mate with.「雌が偽ペニスを持つ事で、交尾の安定性が無くなり、雌が優秀な雄として相手を判断しない場合、受容しないことを更に容易にする。その利点で偽ペニス化した。」との解釈ですが、これは恣意的な解釈に過ぎると感じます。相手が嫌なら雌の方が体格も優勢ゆえ、雄にケリを喰らわせれば良いだけです。仮に他の動物の様に雌の体格の方が小さいなら「なかなか交接できない」構造は気に入らない相手からの交尾を遮断する手立てとして機能はするでしょうけれど。」(院長訳)また、以下の記述もあります:https://ja.wikipedia.org/wiki/ハイエナ から以下引用:Crocuta crocuta ブチハイエナ Spotted hyena「メスには高い血中濃度のアンドロゲン(雄性ホルモン物質)ホルモンが保たれているため、哺乳類としては珍しくメスは平均してオスより一回り大きく、オスのペニスと同等以上のサイズにもなるクリトリスや、その根元にぶら下がる脂肪の塊が入った偽陰嚢を持ち、順位も攻撃性もメスの方が高い。この特徴的な外性器の様子から、科学的研究が進む前には“雌雄同体の下等な生物”と考えられていた時期もあったようである。」*残念ながら、アンドロゲン濃度が高いことに関しての引用文献がありません。 胎児期に高い濃度の男性ホルモンに晒され、雌の脳が雄性化されると共に外生殖器も雄性化の方向に向かい、(仮性)半陰陽化すると単純に考えでも良かろうと思います。生まれる子供のサイズが小さい動物であれば、この様な形の進化も許容されますが、霊長類のような頭の大きな子供を産む動物では、その様な外性器では出産時に破断されてしまい、感染症から死の転帰を取り、遺伝子を遺すのが不利になります。ブチハイエナの出産シーンの動画を見てみたいものです。 生殖器を男性化するのが進化の主たる目的では無く、付随的な現象であり、雌の行動に雄のような攻撃的性質を加味した行動が、種には有利だったため、「男勝り」の雌を生む方向、詰まりは雌の血中男性ホルモン濃度を高くする方向に進化したと考えたらどうでしょうか?胎児期に男性ホルモンに晒されると<男の脳>になるとの考えは広く受け入れられていることだろうと思います。 |
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ハイエナは外見的にはイヌにだいぶ接近しているように見えますが、頭蓋骨などはネコ的要素も濃厚に遺し、また行動面でもネコ的要素を遺すなど、面白い存在ですね。イヌ型化したネコ亜目動物として考えるのも面白ろそうです。 院長は霊長類の形態機能の進化を研究テーマにしていますが、霊長類には食肉目ほどの各科をなだらかに繋ぐ様な形態推移は見られません(そもそも旧世界ザルはオナガザル科1科のみで、全ての旧世界サルはそこに含まれます)。別の見方をすれば、各分類群で勝ち残った頂点のもののみが存在し、中間的な動物は生き残れないのが霊長目の特徴なのかもしれません。この様に、動物の系統が違えば、環境圧に対する応答性に差が出るのは寧ろ当然のことにも見え、例えば昆虫で得られた進化理論が他の生き物に当て填まる可能性、また霊長類で得られたそれが他の生き物の進化の仕方に当てはまる可能性には、色合いの濃淡が出そうだと想像しています。別の言葉で言えば、霊長類固有の進化の形−法則性−が存在する可能性も指摘できます。 難しい用語ですが1つの動物から得られた結果を他の動物でも当てはまるだろうと推定することを外挿 がいそう と呼びます。形態1つとっても、或る仲間内に於いて、系統を有効に反映しているとされる形態−例えば生存に根源的に必要ゆえ、環境圧に拠って変化し難い、一種の<中立的>保守的形態−が、別の仲間に於いて等しく系統関係の指標となるとも言い切れません。この様に、或る動物の仲間に観察された指標が、他の動物群に外挿可能なのか、今後はより慎重な見極めが必要になるだろうと院長は強く感じています。 食肉目は、目としての系統の間でなだらかな形態の推移が見て取れると同時に、系統が近くとも環境圧によってガラリと姿形を変える、或いは逆に、系統が離れていても他人のそら似を示すものもあり、「形態の持つ意義を問い直す上で有用な研究対象となるなぁ」、との感想を改めて抱きました。今西錦司先生の<変わるべくして変わる>とは、形態学的には、形態は環境或いは機能適応の結果容易に変化してしまい、系統を反映する鏡としては弱含みである、との考えとも解釈出来ます。京都大学が霊長類研究所を立ち上げましたが、イヌ、ネコを<飯のタネ>とする獣医系大学或いは学部が、食肉目動物学研究所を設立してくれたら面白いとの希望を最後にお伝えし、ハイエナの話を終わりにしたいと思います。 |
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