Ken's Veterinary Clinic Tokyo
相談専門 動物クリニック

                               




























本コラム作成のための参考サイト

https://ja.wikipedia.org/wiki/アポトーシス

https://ja.wikipedia.org/wiki/ミトコンドリア






抄録原文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30110634

Abstract
Large-bodied organisms have more cells that can potentially turn cancerous than small-bodied organisms, imposing an increased risk of developing cancer. This expectation predicts a positive correlation between body size and cancer risk; however, there is no correlation between body size and cancer risk across species ("Peto's paradox"). Here, we show that elephants and their extinct relatives (proboscideans) may have resolved Peto's paradox in part through refunctionalizing a leukemia inhibitory factor pseudogene (LIF6) with pro-apoptotic functions. LIF6 is transcriptionally upregulated by TP53 in response to DNA damage and translocates to the mitochondria where it induces apoptosis. Phylogenetic analyses of living and extinct proboscidean LIF6 genes indicates that its TP53 response element evolved coincident with the evolution of large body sizes in the proboscidean stem lineage. These results suggest that refunctionalizing of a pro-apoptotic LIF pseudogene may have been permissive (although not sufficient) for the evolution of large body sizes in proboscideans.


Copyright 2018 The Author(s). Published by Elsevier Inc. All rights reserved.
KEYWORDS:

LIF; Peto's paradox; apoptosis; cancer; elephant; refunctionalized pseudogene

PMID: 30110634
DOI: 10.1016/j.celrep.2018.07.042
Free full text







https://ja.wikipedia.org/wiki/アポトーシス
以下引用:

「DNA損傷など ⇒ p53 ⇒ ミトコンドリア上のBax、Bakなどのタンパク質からなるシグナル系による制御(またはミトコンドリア自体の異常) ⇒ ミトコンドリアからシトクロムcの漏出 ⇒ カスパーゼ-9 ⇒ カスパーゼ-3 
(途中略)
カスパーゼ-3がその他のタンパク質を分解するなどしてアポトーシスを決行させる。」
Wikipedia contributors. "アポトーシス." Wikipedia. Wikipedia, 22 Feb. 2019. Web. 22 Feb. 2019.

p53遺伝子が活性化し、それがミトコンドリアを不安定化させてシトクロウムCを漏出させ、それが更にカスパーゼ系を亢進させてタンパクからなる細胞構造の屋台骨そのものを破壊する仕組みですね。

*ミトコンドリアが関与しないルートのアポトーシスもあります。
























































































































































































































 院長のコラム 2019年8月1日 『ゾウは癌になりにくい? ゾンビ遺伝子LIFの働きA』








ゾウは癌になりにくい? ゾンビ遺伝子LIFの働きA


2019年8月1日

皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回に続き以下の論文の紹介です。

 Cell Rep. 2018 Aug 14; 24(7): 1765-1776

A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to InduceApoptosis in Response to DNA Damage.

「ゾウのゾンビ遺伝子 LIF は TP53 により亢進され、DNA 損傷に反応しアポトーシスを誘導する」

Vazquez JM,  Sulak M,  Chigurupati S,  Lynch VJ .

(無料で全文を見ることができます)








 さて、今回紹介しました論文の共著者に、以前のコラム、なぜゾウは癌にならなのか、の中で紹介した Lynch 氏が加わっていますので、彼の研究グループが続報を出したと言う訳です。原著は機関銃の弾丸を打つかのように、これでもかこれまでかと烈しく主張する論文で、構造的にも読みやすい英文とはとても言えないと思いますが、丹念に読み進めると、言いたいことが次第に鮮明に理解できる様になります。

 偽遺伝子 (ぎいでんし) はジャンクの遺伝子で、本来、遺伝子はまともに機能するとタンパク質を合成し、そのタンパク質が様々な生体調整に関与して身体を健康に保つのですが、偽遺伝子とはそのタンパク質合成能を失い、居候を決め込んで居る様な存在です。いわば半分死んでいるみたいな存在だったのですが、それがその遺伝子の一部分を変えることで LIF (白血病阻止因子と呼ばれるが様々な機能を持ち、細胞の破壊機能もその1つ) の6番 (LIF6) を産生可能な遺伝子として復活を遂げ、LIF6が DNAが損傷した細胞を自己破壊に導く機能を持つゆえ、それを前提としてそれ以降ゾウの大型化が許された、との内容です。LIF を産生可能な遺伝子は 5900万年前 から眠れる偽遺伝子としてゾウの祖先が持っていたのですが、現在の大型のゾウに連なる進化の幹が出現したのは 2900万年前 ゆえ、その頃にLIF6 を産生可能な遺伝子として復活を遂げたのだろうと著者等は推論します。まぁ、差し引き3000万年眠っていた訳ですね。

 DNA の中に無駄な配列部位があるなどと言われますが、現在は昼行灯状態でも、三年(三千万年?)寝太郎ではありませんが、見事復活して役立つことも実際あるとの話です。役に立っていないからとゾウの遺伝子が仮に削ぎ落とされて居たのなら、ゾウは小さいままに留まり、バクみたいな生き物のままだったかもしれません。歩いは他との競争に敗れ絶滅していたか。

 短期間での成績主義、功利主義的な現今の風潮に対し、遺伝子自身がもの申した様にも見えます。現在の社会・経済情勢に適合し、競争意識高く、もの凄い努力家であり、更には周囲の人心を掌握するに適した者が企業の社長に就き、一方、どうも自分の才能が上手く発揮できないなぁと感じる者も実際居る訳ですが、社長にしてもヒトとしての遺伝子のごく一部の部分が世情に於いて持ち味を発揮出来ているに過ぎず、他の部分の質はどうか分かりません。一面の強者に過ぎない者がお前は役に立たないと他を排除する世の中は、遺伝子資源を温存する観点からしても誤りなのでしょう。そう言う時は二本の足を使って逃げ、或いはその場に踏みとどまり、環境の仕切り直しをするのみです。他には、自身のゾンビ遺伝子(あれば)がこの先の子孫で開花する可能性もありますので、植木等の無責任シリーズのごとく、あとのことは任せたよと、与えられた環境にて人生を楽しく送るのも手ですね。







https://youtu.be/dDbRkSEOajc

ニッポン無責任野郎 1962年、Blues Harp 2012/10/01 に公開

ゾンビ遺伝子ならぬ無責任遺伝子が働いているのかも。






アポトーシスの経路(カスパーゼ依存経路) credit: 2005年 Y tambe 氏

https://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Apoptosis_scheme.png

改変無し。ライセンス情報は上記 url に含まれます。


上のイラストで、p53 遺伝子(小さな赤丸)とミトコンドリアの間に LIF6 が

介在する事が今回明らかになった訳ですね。ミトコンドリアは各細胞当たり

数百〜数千個存在しますので、発動するp53遺伝子の数が多い方が効率良く

ミトコンドアを破壊でき、結果として細胞死を導き易くなることは理解できます。





 抗腫瘍遺伝子 P53 の数が増えただけでは無く、TP35 に拠りお前働けと指令される LIF6 産生遺伝子が出現 (LIF6 は直接に細胞呼吸のカナメとなるミトコンドリアを破壊し、細胞死を起こす) したことで、DNA が損傷した細胞に対してこれを強力に自己破壊可能となった、それでゾウが特に癌が増えることも無く、目出度く大きくなれたのだ、と、更に一歩踏み込んだ解明がなされた訳です。勿論、これらの他にも、著者等が解明を進めている途中の、ゾウが身体が大きい割に癌にならない機構がまだ存在するのでしょう。

 大型獣がどうして癌にならないのか、その機序の解明を通じて得られた知見を元に、ゾウほど大きくはない動物 −ヒトもそうですが− が、癌に罹らない、或いは出来てしまった癌を抑える為の画期的な治療法の開発に繋がればと思います。但し、本論文は <異常が起きたDNAをその細胞の中にある遺伝子が関知して細胞死させる物質を作り出す> との研究内容ですので、出来てしまった癌細胞を外から選び取り破壊する話ではありません。人間の癌治療でウイルスにTP53を組み込み、癌細胞を上手い方法でそのウイルスに感染させ、TP53を導入して癌細胞を破壊する方法が模索されていますが、ゾウでの今回の研究成果を元に、ヒトのLIF6相当の遺伝子を直接組み込む方法も出て来たのかと院長は思います。この様な手法で癌細胞を選択的に破壊する elegantな治療法が確立されれば、ノーベル賞を受賞する可能性は十分ありそうだとも感じます。







https://youtu.be/-X5cD6jd914

Mbuti Pygmies of the Rainforest Michael Skinner 2017/08/29 に公開

A classic (old) documentary which looks at the traditional lifestyle of a hunter gatherer society - the Mbuti Pygmies. Deep in the Itiri Rainforest (Congo), Sangoo and his fellow villagers live a life untouched by outside influences - a life as close to the earliest humans as possible.


ザイールの熱帯雨林に孤立して暮らすムブティピグミー。

院長としては熱帯雨林に棲息するマメジカとオカピの姿を見る

ことができ、大変興味深かったです。ゾウを倒したのち皆が踊り

ながら歓喜の声を挙げますが、裏声を交えた独特の発声をしま

す。これはピグミーのポリフォニーとして知られるものですが、

院長はCD音源は持っていますが、映像で確認出来て感激

でした。しかしそれにしても狩猟採集生活は大変そうですね。






 この論文は、ではなぜゾウは大きくなる方向に進化したのか、その根源を問う仕事ではありません。発癌リスクを抑えて動物が大きくなる事を許容する前提条件について知見を与える仕事です。動物が身体のサイズを大型化させる方向に進化する意義 (大きくなるとトクをする?) については、別の項で詳しく触れたいと思います。動物のボディサイズの大型化に伴い、形態のプロポーション、生理、行動が変化する事については、コラムの逆立ちの項にてアロメトリーの概念で触れましたが、今度はサイズを変化させる進化適応そのものを考えようとの話になります。以前に大学で講義した内容をリフレッシュして執筆できればと考えています。

 この論文の冒頭で、同一種内に於いては、身体のサイズの大きい個体ほど癌に罹患しやすいとの先行研究が引用されており、イヌでも人間でもその事実が明らかにされているとの記述があり、興味深く思いました。Peto のパラドックスは別種同士を比較した場合の話ですが、これとは異なり、種内での話となります。同一種内では、身体が大きければ癌の芽の発生数も増えますが、1個1個の細胞には同じ TP53  の数しか持たない訳ですから、それを潰すのがより大変になることはまぁ理解はできますね。となるとアフリカのジャングルに住んでいるピグミーは癌自体の罹患率は低いのかもしれません。

 発癌に対する動物のボディサイズを巡る適応戦略を解明することはなかなか興味深そうですね。もしかすると我々の「癌に罹患する」ことの哲学性、そして「生きる」ことの哲学性、即ち死生観までをも深めてくれるかもしれません。