Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               












































































































































































































































































































院長のコラム 2019年9月5日 『キツネの話B 南米のキツネU』







キツネの話B 南米のキツネU




2019年9月5日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回に続き、地球の裏側南米に棲息するキツネもどきの話を開陳します。今回扱う仲間は、全て同じクルペオキツネ属に属します。いずれも真のキツネによく似ていますが、これは進化の収斂現象と考えられています。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://en.wikipedia.org/wiki/Fox


https://en.wikipedia.org/wiki/South_American_fox



南米キツネ:


カニクイイヌ

https://en.wikipedia.org/wiki/Crab-eating_fox

https://ja.wikipedia.org/wiki/カニクイイヌ

http://animaldiversity.org/accounts/Cerdocyon_thous/


コミミイヌ

https://en.wikipedia.org/wiki/Short-eared_dog

https://ja.wikipedia.org/wiki/コミミイヌ

https://bioweb.bio/faunaweb/mammaliaweb/FichaEspecie/Atelocynus%20microtis

https://web.archive.org/web/20120216235441/http://www.canids.org/species/Short-eared_dog.pdf


クルペオギツネ

https://en.wikipedia.org/wiki/Culpeo

https://ja.wikipedia.org/wiki/クルペオギツネ

https://it.wikipedia.org/wiki/Lycalopex_culpaeus


フエゴイヌ

https://en.wikipedia.org/wiki/Fuegian_dog

https://ja.wikipedia.org/wiki/フィージアン・ドッグ


https://en.wikipedia.org/wiki/Yaghan_people

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤーガン族


スジオイヌ

https://en.wikipedia.org/wiki/Hoary_fox

https://ja.wikipedia.org/wiki/スジオイヌ

https://animaldiversity.org/site/accounts/information/Lycalopex_vetulus.html


MAMMALIAN SPECIES 847:1-7, 2008

Lycalopex vetulus (Carnivora: Canidae) JULIOC. DALPONTE

https://pdfs.semanticscholar.org/024d/1bb79a1f90be73122394bf89250765d3c556.pdf

 (誰でも無料で全文にアクセス出来ます)



セチュラギツネ

https://en.wikipedia.org/wiki/Sechuran_fox

https://ja.wikipedia.org/wiki/セチュラギツネ

http://www.petworlds.net/sechuran-fox/


ダーウィンギツネ

https://en.wikipedia.org/wiki/Darwin's_fox

https://www.prajati.com/darwins-fox/





Fig.7fromMolecular Systematics of the Canidae  

R.K.Wayne et al. Systematic Biology, 46, Issue 4, 1997,622-653


遺伝子解析並びに形態的特徴に基づくイヌ科の系統分類の1つですが、今回は南米の

キツネもどきの内、 図の最下段の 3種をメインに採り上げます。






クルペオギツネ  Culpeo fox Lycalopex culpaeus 



 南米大陸に棲息するイヌ科動物の中では、タテガミオオカミに次いで大型の動物です。雄成獣で11.4kg、雌成獣で8.4kg程度あり、真のキツネとコヨーテの中間のサイズです。赤っぽい色調もあり、外見的には真のキツネの仲間に大変よく似ています。Andean  Fox アンデス山脈のキツネの別名どおり、南米大陸の西に走るアンデス山脈沿いに棲息します。生息域はチリ共和国の国土に大方オーバーラップしますね。

 嘗ては、南米大陸南端に接するフエゴ島周辺に居住するヤーガン族が、本種を家畜フエゴ犬としてとして飼育していましたが今は途絶えています。標本はフエゴ島とチリ本土の博物館に1個体ずつあるのみで資料としてもほとんど遺っていません。どうも家畜化(馴化)の程度が低く、人間に対しても牙を剥くなど危険な面もあり、絶滅したのはそれが主たる理由の1つでしょうね。戦略的な意欲を持って、人間に不都合な遺伝子+その表現形質を厳しく淘汰し、「育種」することが家畜化には必須ですが、ヤーガン族の人々はそこまでは徹せなかったのかもしれません。或いは、十分な馴化に至らしめる基本的性質をクルペオギツネ自体が欠いていたことも考えられます。これが現在まで生き延びていれば、ハイイロオオカミから作出された飼いイヌとは異なる素性の、別の飼いイヌが地球上に存在することになり、大変面白ろかったのですが。クルペオギツネは時に駆除されることもありますが、南米に移入された害獣であるアナウサギを駆除してくれる益獣とも見なされれ、全般的には個体数が減ることも無く推移しています。







https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f9/Culpeo_area.png

IUCN Red List of Threatened Species, species assessors and the authors of thespatial data.,

CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, viaWikimedia Commons

クルペオギツネの生息域 生息域はチリ共和国の国土に大方オーバーラップします。






https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d9/Culpeo_MC.jpg

Christian Mehlfuhrer, User:Chmehl, CC BY-SA 3.0

<https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons  

クルペオギツネ、ボリビアとチリの国境にて。




https://youtu.be/EuLXpsLCrXk

Zorro Culpeo - The Trackers 2017/01/08 Documental del Zorro Culpeo enChile.

Agustin Iriarte, Biologo y Gerente General de Flora y Fauna Ltda. y BarbaraZentilli,

Medico Veterinario y Encargada del CRFS de Codeff, nos ensenan acerca delZorro

Culpeo: como es, como vive, las amenazas que enfrenta, su estado deconservacion

y su importante rol controlador dentro de los ecosistemas naturales chilenos.


ゾロとはスペイン語でキツネのことです。確かに真のキツネそっくりですね。目つきも似ている様

な気が。系統的にはこの2つは離れていますので、イヌ科内部での他人のそら似(ゾロ似?)

現象でしょう。




https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/62/Fuegian_dog_%281863%29.jpg

Glover M. Allen, Public domain, via Wikimedia Commons


フエゴ犬。クルペオギツネからヤーガン族により家畜化された、我々が飼育するイヌとは別系統の

飼いイヌです。毛色に斑文が出、また尻尾が幾らか巻き尾化しています。これが生き残ってい

れば面白ろかったのですが。


上記イラストはGlover Morrill Allen (February 8, 1879 - February 14, 1942) の作とされますが、

作成年が彼が生まれる以前となっています。記述の誤りがあるのでしょう。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/3/38/Mujeres_Yamanas.jpg

https://www.flickr.com/people/macv/, CC BY 2.0

<https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons


ヤーガン族の人々、衣類は身につけていません。撮影年月日不明。






スジオイヌ Hoary fox Lycalopex vetulus 



 本種は上記のクルペオギツネと同じ属に分類される近い仲間ですが、サイズはだいぶ小さく、約2.7 - 4kg (平均体重は3.33kg)となります。英名 Hoary fox とは、白髪の交じるキツネの意味です。毛皮がごま塩様だと言う事ですね。繁殖シーズン以外は単独性の夜行性で、昆虫(主にシロアリ)が主食ですが、小型脊椎動物も捕食します。この食性への適応か、歯のサイズも小型化しています。日中はアルマジロが掘った穴を巣穴に利用して休みます。臆病な性格ですが、子供を守るときには攻撃的になります。一度生体を是非自分の目で確認したいのですが、大枚はたいて南米の動物園にでも馳せ参じるしかないかもしれませんね。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/22/Hoary_Fox_area.png

Chermundy, Public domain, via Wikimedia Commons

スジオイヌの生息域

熱帯雨林域を除くブラジル共和国内に棲息します。




https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5a

/Lycalopex_vetulus_Carlos_Henrique_2.jpeg

Carlos Henrique Luz Nunes de Almeida, CC BY 3.0

<https://creativecommons.org/licenses/by/3.0>, via Wikimedia Commons

スジオイヌ



Fig.2

from MAMMALIAN SPECIES 847:1-7, 2008

Lycalopex vetulus (Carnivora: Canidae) JULIOC. DALPONTE から転載

https://pdfs.semanticscholar.org/024d/1bb79a1f90be73122394bf89250765d3c556.pdf

 (誰でも無料で全文にアクセス出来ます)


犬歯が細長く、その後ろの前臼歯がサイズを縮め、また更に後ろの後臼歯が高さを

低くすると同時に横幅を広げています。基本構造は飼いイヌの頭蓋骨によく似てい

ますが、華奢にした感じですね。骨質が薄く半ば透けている様子です。上顎の切歯

(前歯)から後頭骨の後端まで 108mmですので、イヌ科にしてはかなり小さい頭蓋

骨です。雌成体。昆虫食(シロアリが主)に加え小動物も食べますが、歯はやや小振

りですね。余談ですが骨標本の輪郭を鮮明に出して撮影していますが手慣れたもの

で見事です。素人が撮影すると輪郭を潰してしまい、雰囲気だけの頭蓋骨写真と

なりがちです。






セチュラギツネ  Sechuran fox Lycalopex sechurae



 本種もクルペオギツネ、スジオイヌと同じクルペオギツネ属に属します。体重は約 2.6−4.2kg と、上記スジオイヌ同様に小型ですね。夜行性で昆虫や小動物、乾いた植物、腐肉を食べます。この様な食生活を反映してか、歯は小さくなっています。生息域は極く狭い範囲に限定され、標高 1000m以上の乾いた山地(セチュラ砂漠)です。

 セチュラギツネはエクアドルでは特に棲息地が失われ、またこの動物がニワトリ小屋を襲うことから駆除の対象とされ、身体のパーツを使った土産物、薬、呪術用の為にも利用されます。準絶滅危惧種とされています。この先、数が増えていくと良いですね。動物のコラムを書いていて、その動物が危機的状況にあるなどとしたためるのが正直本当につらく感じます。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/04/Sechuran_Fox_area.png

Chermundy, Public domain, via Wikimedia Commons

セチュラギツネの生息域

エクアドルのセチュラ砂漠に棲息します。




http://www.petworlds.net/wp-content/uploads/2018/06/Sechuran-fox-female-850x550.jpg

セチュラギツネ


こちらも小型のキツネもどきできが、独特の精悍さ、目ぢからが感じられます。いつまでも

生き残って欲しいものです。




https://www.prajati.com/wp-content/uploads/2017/11/darwin_fox_front.png

ダーウィンギツネLycalopex fulvipes


この写真を見るとダーウィンギツネに「新世界臭さ」は微塵も感じません。その辺を歩いている

只のキツネにしか見えないでしょう。霊長類の場合は旧世界と新世界ではだいぶ趣が違いま

すが、これは2500万年もの間分かれていた為かもしれません。






ダーウィンギツネ  Darwin's fox Lycalopex fulvipes 



 セチュラギツネに系統的に一番近いとされる仲間は、同じ属のダーウィンギツネLycalopex fulvipes  ですが、こちらはチリのスポット的な極く狭い範囲に 2016年時点で成体の推定個体数 659頭−2499頭とされ絶滅危惧種です。種の起源を書いたダーウィンが、キツネによく似た動物を目撃し、観察を行いましたが、チコハイイロギツネの仲間だろうと考えていました。1990年にチリの国立公園内で小集団が発見され、独立種として認定されました。 <ダーウィンのキツネ>の名が付いたのはその様な経緯があったからです。体重は 2 〜 3 kg の小型種です。個体数が非常に少ないので、人間が飼いイヌ経由で持ち込むジステンパーなどの感染症から守ってやることが肝要です。

 他に、Lycalopex属の動物には、South American gray fox チコハイイロギツネと Pampas fox パンパスギツネ(普通に見られる種)が居ますが、どちらも灰色掛かった毛色で耳が大きく尖っているのが特徴です。





https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/ff/Darwin's_Fox_area.png

Chermundy, Public domain, via Wikimedia Commons

ダーウィンギツネの生息域

チリの国立公園内の極く狭い範囲に棲息しています。



Renard de Darwin / Zorro Chilote  Jean-Luc Dauvergne

2012/04/04  https://youtu.be/OrgM8GQhoVs

ダーウィンギツネ


だいぶ人間に馴れている様です。この様な個体が人間や飼いイヌとの接触を通じてジステンパー等

の重篤な感染症を持ち帰り、それが集団に拡大すると短期間の間に種としての絶滅への道を辿る

でしょう。院長としてはこの個体は直ちに捕獲して麻酔下でワクチンを投与してから解放しますね。





 次回以降は旧世界で繁栄著しい本家キツネの仲間達(日本にもいます!)についてお話します。南米のイヌ科動物の内、ヤブイヌとタテガミオオカミについては後日別項にて詳しく取り扱いたいと思います。