Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               
















































































































































































































































































































































































院長のコラム 2019年9月15日

『キツネの話D 本家キツネ 概論U』







キツネの話D 本家キツネ 概論U




2019年9月15日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 引き続き、本家キツネ、即ちキツネ属についての概論となります。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://en.wikipedia.org/wiki/Fox


https://en.wikipedia.org/wiki/Red_fox


https://ja.wikipedia.org/wiki/キツネ属

https://en.wikipedia.org/wiki/Vulpes


https://en.wikipedia.org/wiki/Canidae


Nature. 2005 Dec 8;438(7069):803-19 Lindblad-Toh K et al.

Genome sequence, comparative analysis and haplotype structure of the domestic dog.

https://www.nature.com/articles/nature04338/

 (無料で全文にアクセス出来ます)









歴史



 キツネ属の最古の化石は 700万年前のものですが、これは旧世界(アフリカ)で発見された最古のイヌ科動物となります。イヌ科動物の中ではオオカミなどよりも早期に出現した動物となる訳ですが、これは 1997年f発表の系統樹を支持します。2005年の論文ではタヌキが派生したのがキツネ属より早いとの考えですが、これを裏付けるキツネより古いタヌキの化石は見付かっていないようです。更新世 (約 258万年前から約 1万年前までの期間)になるとヨーロッパで最初のキツネ属の化石が出、また北米からも化石が出る事から、キツネ属が南米とオセアニア、南極を除く地域に大きく拡散したことが分かります。






オグロスナギツネ(アフリカ北部に棲息)の頭蓋骨

http://skullbase.info/skulls/mammals/pale_fox.php


下記タヌキの頭蓋骨と比較すると、上下顎の歯列弓の真ん中を通る平面を考えた場合、耳の

穴の膨らみ(鼓室包)がその平面に接近しています。詰まり脳頭蓋(頭蓋骨の後ろ半分)が

顔面頭蓋(前半分)に対して確かに高さを下げ、頭蓋骨が全体として<扁平化>している様

に見えます。犬歯が長く鋭いですね。




タヌキの頭蓋骨

http://skullbase.info/skulls/mammals/raccoon_dog/raccoon_dog1.jpg





 

形態



 真のキツネ、即ちキツネ属に属する動物の一般的な外形ですが、サイズ的には小〜中型の動物で、オオカミやジャッカルよりは小さく、タヌキよりは大きい種も存在する程度です。最大種のアカギツネでは雄で 4.1〜8.7kg、一方、最小種の フェンネックギツネでは 0.7〜1.6kg しかありません。典型的なキツネの特徴は、三角形の顔、尖った耳、突き出た吻、そしてぼうぼうに毛の生えた尻尾です。趾行性(かかとを浮かせてつま先立ちで歩行する)であり、また他の殆どのイヌ科動物と異なり、爪を幾らか引っ込めることが出来ます。ヒゲは黒く、鼻づらの上の触毛、つまり洞毛は平均して10〜11cm、その他の頭部にある触毛はそれよりは短く、また前肢にある触毛(手根触毛)は長さ4cm程度で下後方へ伸びています(ネコなどにも同様の毛があります)。

 被毛は、色調、長さ、密度に違いが有り、例えば フェンネックでは、長い耳に短い被毛ですが体熱を下げるのに役立ちます。アカギツネはこれとは対照的に、典型的な赤茶色の毛皮で、尻尾の先端は白く目印しされます(キツネ属は一般的に尻尾の先端は他の部位とは別色となります。)。毛色と線維の状態は季節により変動し、寒い季節には毛量豊かで密度の濃い毛皮となり、暖かい季節にはより軽くなります。冬の重い被毛を取り除くため、キツネは年に一度、4月頃に脱皮します。これは足先から始まり、次いで脚、そして背中に沿って始まります。被毛の色は個体の年齢に拠っても変化します。

 歯式は I 3/3, C 1/1, PM 4/4, M 3/2 = 42で、他のイヌ科と同じです。キツネははっきりした裂肉歯(上顎第4前臼歯と下顎第一後臼歯の組み合わせで肉を噛みきる為の鋏の様に機能する)を持ち、また犬歯も明瞭で、獲物を保持するのに役立ちます。

 イヌの四肢が平地を素早く走り獲物を捕獲するのに適応しているのに対し、キツネでは疾走したり追跡されることは避け、跳躍して獲物を把握する方向に特殊化して来ています。この為に前肢長に対し後肢長が伸び、また全体的に四肢が細くなりました。筋肉も張り出さずに四肢の軸に沿って配列します。

 頭蓋骨は幾らか扁平化した形状です。詳しく言えば、脳頭蓋(頭蓋骨の後ろ半分)が顔面頭蓋(前半分)に対して高さを下げ、頭蓋骨が全体として<扁平化>している訳ですが、これが下顎骨の高さの小ささと相俟って、キツネ固有のほっそりと尖った顔貌をもたらしているのは間違いないでしょう。狭い穴に頭を突っ込んで小動物などの獲物を捕食する場合、この様な頭蓋骨形態は有利に見えますが、キツネ属が大いに繁栄している鍵が実はここにあるのかもしれません。大きな獲物を長時間掛けて追い詰めるのではなく、手近な小さな餌をせっせと探すこまめな食性が1つの繁栄の鍵と言う訳です。この様な頭蓋骨の後ろ半分の形態変化は、モノを咬む力を出す咬筋(こうきん)の発達具合とも密接に関与しますが、大きな獲物の肉を切り裂くパワーを出すには不利となり、小さめの動物を咬むには間に合う様に見えます。イヌ科またその周辺の動物で「噛む力」に関しての詳細な biomechanical な解析をしたら面白ろそうですね。







Fox Dives Headfirst Into Snow | North America

Discovery 2013/07/05  https://youtu.be/D2SoGHFM18I


A red fox pinpoints field mice buried deep beneath the snow, using his sensitive

hearing and the magnetic field of the North Pole to plot his trajectory.


アカギツネが雪の下に深く埋もれている野ネズミをピンポイントで捕まえます。これには

敏感な聴力を使い、また北極の磁場を用いて自分の軌跡を捉えて行います。


疾走して狩りをするシーンと違い、カメラで静止画を得易いことから動物写真家はこの

キツネの跳躍猟法シーンを好んで撮影します。しかしながらもの凄い聴力ですね。また、

長い尻尾はこの様な態勢を取る時に確かにバランサーとして機能していそうです。






行動



 野生下ではキツネの寿命は 2〜4年が普通ですが 10歳まで生き延びる個体もあります。他のイヌ科動物とは異なり、キツネは必ずしも群れを作る動物では無く、普通は3〜4頭程度の小さな群れで生活します。順位の決まった集団行動をしますが、順位は生後すぐに決定され、優勢な子供は餌を多く貰え、身体が大きくなります。順位の争いが起きた場合闘争となりますが、敗れた個体は怪我を負うと同時に集団からは排除されます。ホッキョクギツネは単独生活します。

 キツネは雑食性で、昆虫などの無脊椎動物、トカゲや鳥などの小型脊椎動物が大半ですが、卵や植物も含み得ます。多くの種は何でも屋の捕食者で、殆どの種で1日当たり 1kgを採食します。余分な餌を後で消費するべく、落ち葉や雪、土の下に埋めます。夜行性ですが、日中に狩りをしたり腐肉をあさる場合もあります。

 キツネは急襲方式の狩りの技を使う傾向に有り、自身を地形に合わせてカモフラージュするべくうずくまり、次いで大きな力で後肢で跳躍し、標的とする獲物の真上に降り立ちます。明瞭な犬歯で獲物の首根っこを掴み、死ぬまで或いは内臓を抜き出すことが可能になるまで振り続けます。






BABYMETAL - メギツネ - MEGITSUNE (OFFICIAL)

BABYMETAL 2013/06/04 https://youtu.be/cK3NMZAUKGw


再生回数5800万回の動画です。疲れた頭をほぐしてください!






性的な特徴



 雄のキツネの陰嚢は精巣が降下した後も精巣を中に入れたまま腹壁の近くに保持されます。イヌノフグリ或いはタヌキの八畳敷き状態にはならない訳ですね。他のイヌ科動物の様に、陰茎骨を持ちます。アカギツネの精巣は ホッキョクギツネよりも小さく、精子形成は 8〜9月に開始され、12月〜2月に最大重量に達します。雌キツネは 1〜6日間発情し、性周期は1年サイクルで(詰まり一年一産)、他のイヌ科動物と同様に、交尾刺激無しで発情中に排卵します。受精後の妊娠期間は 52〜53日、受胎成功率 80%で、平均産仔数は 4,5頭です。産仔数は種及び環境に拠り大きく変動し、例えばホッキョクギツネでは最大で 11頭生まれることもあります。雌ギツネは 4対の乳頭を持ち、各乳頭には 8〜20個の乳管が繋り、乳腺から分泌されたミルクを乳首へと運びます。








 キツネは、<イヌ+南米イヌ>の集団とは早くに分離した、ちょっと異質なイヌ仲間の動物の様に感じられます。或る意味、他のイヌとは異なる pararell world の中で生き、繁栄している一群とも言えそうです。生理、形態面などを含め、イヌと比較対照すると面白い結果がぞくぞくと得られそうに見えます。国内にも棲息していますので、上手く研究対象にしたらと思います。

 次回からはキツネ属の代表的な種について個別に解説を加えていきます。