Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               






















































































































































































































































 院長のコラム 2020年1月1日 


『イヌの前十字靭帯断裂@ 概要並びに原因』







イヌの前十字靭帯断裂@ 概要




2020年1月1日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。新年明けましておめでとうございます。

 本年も当院長コラムにお付き合い戴ければ幸甚です。

 さて、クリスマスの日は過ぎてしまいましたが、十字に関する整形外科の話に入りますね。

 スポーツ観戦にご興味をお持ちの方でしたら、ラグビー選手が試合中或いは練習中に膝の前十字靱帯 ACLを断裂してしまい加療3ヶ月だ、などのスポーツ新聞の見出しを見たことがあるのではと思います。しかしながらこの前十字靱帯なる用語は聞いたことがあっても、どの様な靱帯なのか正しく思い浮かべることの出来る方は大変少ないだろうと思います。

 同じ哺乳類と言う事で、イヌもヒトも膝の関節構造は基本的に同じであり、膝から下の向こうずねの骨である脛骨(けいこつ)の膝関節面に浅い左右の前後方向の凹みがあり、そこに大腿骨側の左右の丸みを帯びた出っ張りが座布団(半月板)を介して軽く乗る構造です。運動性としては大まかには一軸性のヒンジ(蝶番)関節となります。まぁ、ドアの開け閉めの動きですね。股関節のように一方の関節の窪みに他方の丸い断端がガッチリと填まり込んでいる構造ではありませんので、脱臼したりずれたりしない様に、関節の内外に強力なバンドである靱帯を配置しています。十字靭帯と言う名前は。関節の内腔、大腿骨の関節面から脛骨関節面に向かう靱帯が2本有り、一方は前から後ろに、他方は後ろから前に向かい、横から見るとXの字型に交差しているのでこの名が付いています。大腿骨の後ろから発して脛骨の前方に向かう方を前十字靭帯  anterior crucial ligament ACLと呼称します。イヌを含め四足動物の場合は頭側(とうそく)十字靭帯 cranial crucial ligamentCCLと呼ぶのが正式ですが、一般的には ALC でも差し支えないでしょう。

 今回から3回に亘り、イヌの前十字靭帯断裂について獣医学的に解説を加えていきます。

以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://www.fitzpatrickreferrals.co.uk/orthopaedic/cranial-cruciate-ligament-injury/


順天堂大学整形外科・スポーツ診療科

https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/seikei/about/disease/sports/sports_05.html


https://ja.wikipedia.org/wiki/ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア

https://en.wikipedia.org/wiki/West_Highland_White_Terrier


http://www.tiggerpoz.com/







ACL Injury Compilation 2015/03/17

CincySportsMed and Sportsmetrics  https://youtu.be/mTN7ygT3-U8


ヒトの場合は前十字靭帯損傷は、烈しいスポーツ時に、膝関節に限界を超える外力(脱臼させ

ようとする力)が加えられ、それを抑止しようとする靱帯が引き延ばしの限度を超えた場合に

損傷します。上腿に対して下腿を背後から打撃するケースもありますが、大方は足を地面に着

けて固着して体重を掛けつつ、上腿に対して下腿を屈しながら無理に内外旋(足先を内外に

回転する運動)させる力が膝に作用する時に損傷が発生していることがビデオから窺えます。

まぁ、一軸性の膝関節が、「ヘンな方向にヒネっちゃったよぅ、ひぃ〜っ」ですね。痛々しくて見

ていられないかと思いますが、スポーツドクターの様なクールな目でご覧下さい。普段からこ

の外傷を避けるべく運動する心構えも大切と思います。皆様もこの一年怪我の無きようお過ご

しください!画像の一時停止が効かない場合はスライダーを最後に移動すると停止できます。






原因



 前十字靭帯は外傷などの無理な力が掛かったときに、一部または全部が断裂してしまうことが多いです。これが断裂すると、大腿骨関節面に対して脛骨関節面が前方に移動してしまい、正常な歩行が遣りにくくなります。安定性が悪くなり、一軸性の軸が定まらずに蝶番運動に差し支える訳です。この様な状態で無理に歩行していると、正常ではない外力が関節に加わり、関節内部のクッション構造物(半月板)が破断したり、関節軟骨が摩耗し、骨同士がコンタクトするなど状態の悪化へと繋がる可能性もあります。ここまで進むケースでは当然ながら痛みや炎症が伴い、立派な関節炎(膝関節炎)の出来上がりです。

  ヒトもイヌも解剖学的には基本的に似た様な膝の構造ですが、前十字靭帯に損傷が発生するプロセスが両者で大きく異なっています。上に「無理な力が掛かったとき」と記しましたが、この曖昧な表現の中に違いが存在します。

 関節構造が仮にヤワであれば、多少の外力で損傷してしまい、歩行が覿面に困難となります。股関節形成不全の項でも述べましたが、個体の生存には圧倒的に不利になります。特にヒトは二本しか脚がありませんので、しっかりと歩行が維持出来るよう(素速く走れなくて良い)、頑丈な下肢を持つように自然淘汰をくぐり抜けてきた動物と言えます。斯くして前十字靭帯を損傷するのは尋常ならざる大きな外力が急激に膝に作用した時のみです。スポーツ外傷(ラグビー、フットボール、柔道、ゴルフなど)が原因の大半となります。これに対しイヌでは、ロープがほぐれてボロボロになるかの様に靱帯が時間を掛けてゆっくりと劣化していき、何かのちょっとした外力が加えられたときにアレレと破断を来します。詰まり、元々丈夫だった靱帯の紐が強力な引き延ばしでプツンと断裂したか、全体が劣化していた紐がほぐれるように離断したかの違いですが、これが治療に対するアプローチ自体をヒトとイヌとで異なったものとします。イヌの場合はこの様に実は慢性的に徐々に劣化が進行する病態ですが、靱帯が断裂して跛行を示したときには、既に半月板や関節軟骨も損傷していて膝関節炎を来している例が多いのが実際のところです。

 他の四足歩行獣に於けるACL 損傷の実態について調査し、それをヒトの場合と比較することで、ヒトの二足歩行性の、また比較対照する当該四足獣の特異性が新たに浮かび上がるだろうと院長は考えています。これも、進化機能形態学の立派なテーマとなりそうです。






https://commons.wikimedia.org/wiki/File:West_Highland_White_Terrier_Krakow.jpg

Christopher Walker from Krakow, Poland [CC BY 2.0

(https://creativecommons.org/licenses/by/2.0)]  ウェストハイランドホワイトテリア





 四足歩行性の動物に於いても、1本の後ろ足が利用出来ないとなれば、個体の生存に著しく不利となりますが、イヌでは特に或る犬種(ラブラドール、ロットワイラー、ボクサー、ウェストハイランドホワイトテリア、ニューファウンドランド、ブルドッグ等)にACL 損傷が多発します。もうお察しかと思いますが、股関節形成不全と同様、本疾患の多くは遺伝的背景を抱えていることになります。まぁ、四足歩行動物のクセに四肢が弱い動物になって仕舞った、それを人間側の飼育が許容し今日に至っていると言う次第です。直接的な原因ですが、靱帯そのものが脆弱性を持っている、或いは関節面の角度或いは半月板に異常がありこの靱帯に普段から負担が掛かっている、などの遺伝的要因が考えられますが、まだ十分に解明はされていません。