Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               




























































































































































院長のコラム 2020年2月25日


『イヌと筋ジストロフィーE 分子レベルでの治療V』






 

イヌと筋ジストロフィーE 分子レベルでの治療V




2020年2月25日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 筋ジストロフィーのお話の第 6回目です。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://www.colliehealth.org/degenerative-myelopathy/


American College of Veterinary Internal Medicine

https://www.acvim.org/


Muscular Dystrophy in Dogs

https://wagwalking.com/condition/muscular-dystrophy


https://geneticliteracyproject.org/2018/10/25/promising-treatment-for-duchenne-muscular-dystrophy-developed-with-crispr-gene-editing/


https://science.sciencemag.org/content/362/6410/86


https://geneticliteracyproject.org/2018/10/25/promising-treatment-for-duchenne-muscular-dystrophy-developed-with-crispr-gene-editing/


国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部


https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r_dna2/en/research_dystrophy.html


iPS細胞を使った遺伝子修復に成功 −デュシェンヌ型筋ジストロフィーの変異遺伝子を修復−

2014年11月27日

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141127_1.html


https://ja.wikipedia.org/wiki/核酸医薬


https://ja.wikipedia.org/wiki/脊髄性筋萎縮症


https://www.nature.com/articles/s41588-019-0575-8#Sec38

A slipped-CAG DNA-binding small molecule  induces  trinucleotide-repeat contractions in vivo

Masayuki Nakamori, et al. Nature Genetics   Published:  14February 2020

抄録のみ無料で読めます。


東京都医学研 脳神経病理医学データベース

https://pathologycenter.jp/disease/triplet/triplet1.html

トリプレットリピート病


https://ja.wikipedia.org/wiki/筋強直症候群

筋強直性ジストロフィーの解説あり。


https://ja.wikipedia.org/wiki/脊髄小脳変性症


https://ja.wikipedia.org/wiki/ハンチントン病


Tian, X., Gu, T., Patel, S. et al. CRISPR/Cas9   An  evolving  biological tool kit

for cancer biology and oncology. npj Precis.  Onc.  3, 8(2019).

https://doi.org/10.1038/s41698-019-0080-7

https://www.nature.com/articles/s41698-019-0080-7

CRISPR-Cas9に関するレビュー記事です。

無料で全文読めます。


https://science.sciencemag.org/content/367/6478/616

CRISPR takes on cancer

Jennifer Couzin-Frankel

Science  07 Feb 2020:  Vol. 367,  Issue  6478,  pp. 616

DOI: 10.1126/science.367.6478.616

抄録のみ無料で読めます。









 前回に引き続き、

@ viral vector mediated delivery of a  recombinant  dystrophin gene

A antisense oligonucleotide mediated exon-skipping  to  restore the open reading frame in the dystrophin mRNA

B read-through of premature stop mutations

C genome modification using CRISPR-Cas9

D cell based transfer of a functional dystrophin  gene.


今回はこの内の、B、Cを扱います。




B read-through of premature stop mutations

これは前回ご紹介した上記 Aとちょっと似た様な手法となりますが、「ジストロフィン遺伝子の途中に、遺伝子の読み進めを停止させる様な異常部位が存在する場合、それを飛び越えて読み進ませる方法」です。詳細は例えば以下の記事を参照して下さい。 DMD患者さんの 10-15% がこの様な読み込みを停止させる無意味な部位(ストップコドン)を持って居るとされます。

https://www.actionduchenne.org/what-is-duchenne/duchenne-explained/glossary-of-research-terms/stop-codon-readthrough/

Stop Codon Readthrough


 話はちょっとズレますが、本年 2020年 2月 14日付けの Nature Genetics 電子版に、大阪大学の中森氏らが、トリプレットリピート(遺伝子の例えば CAGと言った塩基配列の3つ組が異常に繰り返して反復配列する)を短縮する化学物質を発見したと報告しています。

https://www.nature.com/articles/s41588-019-0575-8#Sec38

A slipped-CAG DNA-binding small molecule  induces  trinucleotide-repeat contractions in vivo

Masayuki Nakamori, et al. Nature Genetics   Published:  14  February 2020

(抄録のみ無料で読めます)


 DMD とは全く異なる疾患の筋強直性ジストロフィー (常染色体優性遺伝の疾患、ジストロフィン合成自体に問題は有りません)では遺伝子の非翻訳部位(何も合成しない暗号部位)にトリプレットの過伸張が存在し、これが原因で骨格筋を含め全身の様々な疾患が発生します。この無意味な遺伝子の反復を薬剤により短縮させ正常に戻すことが出来れば、中森氏が主張する様にハンチントン舞踏病のみならず筋強直性ジストロフィー含め他のトリプレットリピート病(例えば脊髄小脳変性症の一部の型など)の患者さんを治療することが可能となるでしょう。遺伝子そのものをダイレクトに編集する方法となりますが、正常な遺伝子部分に対して害作用が無いかなどを確認の上、製剤化出来ると良いですね。







Tian, X., Gu, T., Patel, S. et al. CRISPR/Cas9  An evolving biological tool kit

for cancer biology and oncology. npj Precis. Onc. 3, 8 (2019).

https://doi.org/10.1038/s41698-019-0080-7

https://www.nature.com/articles/s41698-019-0080-7

Fig.1 CRISPR/Cas9-based gene modification. Common methods of delivering

the CRISPR system include a plasmid-based method and Cas9 protein

complex with sgRNA or RNP. After the sgRNA binds to the target site

of genomic DNA, the Cas9 protein creates a DSB around the PAM site.

Random indels or precise modifications introduced into

the genomic DNA by the NHEJ or HDR pathway


CRISPR-Cas9 ベースの遺伝子改変

「クリスパーシステムを届ける方法はプラスミドベース法と、 sgRNA を伴う

Cas9 タンパク即ちRNPとから成ります。DNAの標的位置に sgRNA を結び

つけた後でCas9 タンパクはPAM 領域にDSB を形成します。NHEJ かHDR

経由かに拠りランダムな挿入欠失や適切な改変がDNA に導入されます。」


何を言っているのかよく分からない!かと思いますが、ターゲットにした遺伝子配列

部分を破壊し出来た隙間にランダムな配列を入れたり縮めたり、必要とされる適切

な配列を新たに加えたりする技法です。

CRISPR-Cas9法の概略を掴んで戴ければ十分と思います。






C genome modification using CRISPR-Cas9

 CRISPR-Cas9 (クリスパーキャス9)を用いた遺伝子改変


 ゲノム(遺伝子)編集技術「CRISPR」は、遺伝配列を特定し、削除、置換できる技術ですが 2012年に発表されました。CRISPR-Cas9 は短いRNA鎖と、効率的なDNA切断酵素からなるリボ核タンパク質複合体となります。もともとは細菌がその敵であるウイルスのDNAを探し出し、その配列を切り刻んで破壊する機構を応用した技術ですが、これを利用してDNAの特定の部位を検知し、切り出して除去、更に置換することが出来ます。細菌自体もウイルスからの攻撃に対する防御を獲得していてなかなか侮れませんね。ヒトの点突然変異由来の遺伝性疾患は32000種あるとされますが、この間違った1つの塩基を正しく置換するだけで半数が治療可能との見込みも為されています。但し、ブレーキ機構がありませんので核内に長く留まると別の場所まで切断してDNAを傷つける虞もあります。ヘタをすると細胞死や癌化に繋がりますね。Cas9酵素を変異させて切断能力を抑制する、DNAではなく対象を mRNAにするなど模索が続けられていますが、現状では制御性に関してまだ問題が残っています。前回のコラムで触れた「遺伝子編集の結果 デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデル犬でジストロフィン発現が回復した」はこの手法に基づくものです。基本的に遺伝子そのものを修復(編集)しようとの作戦の1つです。


 本年 2020年 2月 7日付けのサイエンス電子版に、がん患者自身の免疫細胞を強化する療法 「CAR―T細胞療法」にゲノム編集技術ゲノム編集技術 「CRISPR」を応用し、改変した免疫細胞が患者の体内で機能することを臨床試験で確認したと、米ペンシルベニア大の研究チームが発表しました。

https://science.sciencemag.org/content/367/6478/616

CRISPR takes on cancer

Jennifer Couzin-Frankel, Science  07 Feb 2020:  Vol.  367,  Issue 6478, pp. 616

DOI: 10.1126/science.367.6478.616

(抄録のみ無料で読めます)


「CAR―T細胞療法」 とは、数が少なく攻撃力も弱いT細胞に 「キメラ抗原受容体 (CAR)」の遺伝子を導入して強化し、一度体外で増やしてから患者に戻す療法で既に使われ始めています。副作用として 「サイトカイン放出症候群」 を起こし体内で炎症作用 (発熱等)を起こすことがあります。T細胞は癌細胞が産生する特有のタンパク質 (=抗原)をキャッチして癌細胞を識別し破壊する機能を持ちますが、「クリスパー・キャス9」技術を使い、T細胞の受容体を一度消滅させ癌細胞を識別して攻撃する能力が高い受容体を新たに作らせる操作を加え、同時に免疫細胞の働きにタガを掛ける受容体 「PD―1」を消失させました。まぁ、T細胞を一度体外に取り出してその遺伝子を編集してサイボーグ化させてから増殖し体内に戻す作戦、を更に改良したと言う話ですね。スーパーサイボーグ T細胞を作り出したと言うことでしょう。60代の患者計 3名に対しての結果に過ぎませんが、部分的な癌 (正確には肉腫)の縮小が観察されたとのことです。CRISPR-Cas9 自体が T細胞自体を癌化させる (T細胞白血病)危険性が考えられますが、そこをクリアー出来ているのか、ですね。この様に CRISPR-Cas9 技法を用いた試験的な研究はあらゆる生物を含めた各分野で鋭意行われて来ています。今や論文の掲載数ももの凄い数に達しています。一般の方々は耳にしたこともないのではと思いますが、大学、企業のラボでもどこでも囓っているとの現状です。








 上に、つい最近の Nature 或いは Science に掲載の論文を紹介しましたが、特に遺伝子工学的な手法を応用した遺伝子関連の治療法については進歩が最近富に速まり、数多くの先端的な治療法への道が開かれつつあります。この先、5年、10年の内に従来は根治的治療が不可能であった疾患が治療可能となる例も数多く出てくるのではないでしょうか?現況に於いて根治法が無いとされる疾患に対しても、QOLを維持しつつ前向きに考えて生活することが大切と院長は考えています。