Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               



















































































































































































































院長のコラム 2020年5月25日 


ネズミの話16 ドブネズミの生殖






 

ネズミの話16 ドブネズミの生殖




2020年5月25日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 家ネズミの筆頭格?であるドブネズミのお話の第6回目です。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ

https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae


ドブネズミ

https://en.wikipedia.org/wiki/Brown_rat


https://ja.wikipedia.org/wiki/クーリッジ効果

https://en.wikipedia.org/wiki/Coolidge_effect







Momma Rat: 15,000 Babies a Year! | National Geographic 2010/03/03 National Geographic

You can't call them lazy.  Once a female rat reproduces, she could have 15,000

descendants by the end of just one year!   https://youtu.be/1rnL1l4kN3Y


1頭の雌は1年後には15000頭の子孫を持つに至るとの計算ですが苦手な方は見ない方が・・・。






生殖とライフサイクル




 状況が整えばラットは年間を通して繁殖が可能であり、雌は年間5産まで為し得ます。妊娠期間は僅か21日間であり、産仔数 (litter size リッターサイズ と言います)は最大14頭ですが7頭が一般的です。5週齢で性成熟に達しますので、ラットにとって理想的な条件下では、これは、雌の人口が8週間(性成熟に5週間+妊娠期間3週間)で3.5倍(7頭の半分が雌として)に増大し得ることを意味する訳ですが、計算上は僅か15週で雌の個体数が10倍に増加する計算です。結果として、一年で2頭から15000頭までに増大し得る訳です。文字通りのネズミ算ですね。最大寿命は3年ですが、殆どの個体は1年も生存出来ません。年間の死亡率は95%と見積もられていますが、捕食されたり他種との争いが死亡の主因です。


 研究機関でラットやマウスを飼育する際は通例は委託動物業者に飼育管理を預けるのですが、彼らは餌と水を遣り、床敷き(針葉樹を削ったおがくずの様なもの)を定期的に粛々と交換するのみで中身には関与しません。それで研究者側が中身の確認を忘れていると、狭い飼育ケージの中にびっしりネズミが増えることにもなりますが、そうなると正直なところ、研究者としては三流の烙印を押されてしまい、委託業者側からは密かに軽蔑されることにもなります。人間の飼育下にある(と人間側が考える)動物に対しては生殖管理し得て初めて飼育の名に値する飼育となります。これが出来ていない様では動物飼育失格と相成ります。魚や昆虫等を含め、一般的な生き物飼育の場でも、子孫を上手く遺して継代に繋げんとの者と、只飼育している者との差は大きく、ペット業界で言うとブリーダーとお客さんほどの違いはあります。作物栽培の農家と消費者の関係にも類似します。まぁ、ネズミに関しては、内から沸き上がる様な恐るべき生殖パワーを持つことに違いはありません。

 下水道や穴蔵などの地下の場所や巣穴のいずれでも、ラットは大きなヒエラルキー構造のグループ内で生活します。食物供給が不足する時には社会順序の低いラットが真っ先に死にます。ラットの人口の大きな一派が死に絶えると、残りのラットが生殖率を増加し、急速に元の個体水準までに回復させます。

 雌ラットは出産後直ちに妊娠する能力があります。新たに妊娠しながら生んだ産仔を世話することが出来ます。自身の摂食量を変えることなく、正常な産仔数と体重値の健康なお産を2度繰り返し仔を育てることが出来ます。しかしながら、食餌が制限される時には妊娠期間を2週間以上延ばし、正常数並びに正常体重の子供を出産する能力があります。


 妊娠期間を胎児の成長具合で大幅に延長する能力は確かにヒトではあり得ない能力です。子宮内の胎児のサイズが分娩の発動成立に関与するのでしょうか?授乳中は雌のラットは24時間周期の母性行動を示します。産仔数が少なければ授乳により多くの時間を費やすのが普通です。ゆったりと授乳する訳ですね。






Willard (1971) - Official Trailer (HD) 2017/05/02 ScreamFactoryTV

https://youtu.be/b8Gn98fbeMs


大ヒットしたホラーサスペンス映画『ウィラード』です。ヒッチコックの『鳥』を担当した調教師

がこの映画のネズミを調教したと聞きましたが、当人曰く動物で調教できないものはないそう

です。苦手な方はこちらも見ない方が良いかも・・・。





 雄は一度の交尾で複数回射精出来ますが、これは妊娠の可能性を高めます。複数回の射精は雄が複数の雌と交尾可能な事をも意味しますが、数頭の発情した雌が存在すればより多くの一連の射精行動を示します。雄はまた雌よりも短い間隔で交尾します。グループの中で雌はしばしば相手を交替します。優勢な雄はより高い交尾成功率を持ちより多くの回数射精しますが、これは、雌は優勢な雄の精子を受精の為により利用することを意味します。


 交尾に於いて、雌は以前に交尾経験の有る雄よりも見知らぬ雄の方と好んで交尾するのが明瞭に示され (これはCoolidge effect クーリッジ効果としても知られます)、また、新奇なパートナーと出会った時には止めていた交尾行動を再び始めることがしばしばあります。


 これは単に同じ雌個体に飽きただけの様なきもするのですが・・・。まぁ、番いを形成するのではなく、郡内乱交形態ですね。遺伝子のシャッフルを期待し、様々な遺伝子の組み合わせの子孫を遺す戦略の様です。そうすれば環境変動に対しても生き残る子孫が出てくる確率が高まりそうです。番いを形成して少数の産仔をじっくり育て上げる様な動物とは生殖戦略がだいぶ異なっています。

 雌は、若い時に社会的ストレスを経験していない雄と交尾するのを好みもします。どの雄が若い内にストレスを経験しているのかいないのかを、外見的には何らの違いの無い雄の性行為の内に、見分けることが出来るのです。


 ストレスを経験しているとは社会的に劣位にあることを意味しますが、それがストレスホルモンの分泌を増大させるなどして影響が出ていると言う事なのかもしれません。鋭い嗅覚で匂いの違いを感じ取るのでしょうか?ヒトの女性の場合は、相手の(不労所得ではなく自分で稼いだ)収入額なる簡潔明瞭且つ便利な指標を利用すれば取り敢えずの間違いは避けられますが、精神面での幸福な結婚生活が送れるかどうかとはまた別の話になります。この辺は皆さんご承知の通りです。