Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック

                               


























































































































































































































































































院長のコラム 2020年11月25日 カピバラI ビーバーの泳法との比較U









カピバラI ビーバーの泳法との比較U




2020年11月25日

 皆様、KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 前回に引き続き、「巨大ネズミ」 カピバラに関するトピックスを採り上げます。院長の専門分野であるロコモーション絡みの話ですが、カピバラの比較対象としてビーバーの泳法を採り上げましょう。ビーバーの形態と泳法の核心に迫りましょう。



以下、本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus


https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara


https://ja.wikipedia.org/wiki/ビーバー

https://en.wikipedia.org/wiki/Beaver






細く短く小さな前肢骨とそれと対照的な後肢骨との差にご注目下さい。



Castor canadensis, American Beaver skeleton. [C 30689]

Photographer: Rodney Start Source: Museums Victoria

Copyright Museums Victoria / CC BY (Licensed as Attribution 4.0 International)

https://collections.museumsvictoria.com.au/specimens/139095

https://collections.museumsvictoria.com.au/content/media/33/1047533-large.jpg

https://collections.museumsvictoria.com.au/content/media/43/1047543-large.jpg


アメリカビーバーの交連骨格標本。尾椎の左右に張り出す横突起が

蝶の羽根を思わせる形態を呈し大変面白く感じます。

オーストラリアのビクトリア博物館の所蔵ですが、オセアニア

にビーバーは棲息しませんので、英国などから譲り受けた

ものではと想像します。






ビーバーの形態と泳法


 ビーバーの交連骨格標本を見て第一に思うことは、身体の後ろ半分の骨要素の頑丈さです。太い骨要素の周囲にはそれに見合う大量の筋肉が配置すると考えて良いのですが、ビーバーに於いては地上及び水中での前方推進力産生に<下半身>が強力に関与していることを示します。<上半身>の方は、工具の「食い切り」にもよく似た、削るマシーンに特化した頭蓋骨と、進行方向選択と小物握りに役立つ短く骨細な前肢の組み合わせです。

 指の数は前後とも5本ずつ有りますが、前肢の手には水かきがなく後肢の足には水かきが良く発達しカモの足にも類似します。これは前肢の手を推進力を得るためのパドルとして利用するのではなく、小物を把握するのに利用することを明確に示しています。web 上の複数の投稿動画を見ても、ビーバーの前肢は推進力産生には殆ど関与していない様に見えます。前後枝の機能的分化の程度が弱く、四肢を用いた犬掻き型で水中での前方推進力を得るカピバラやヌートリアとはこの点が大きく異なっている訳です。

 潜水時には体幹を背腹方向に屈伸し聖徳太子の持つ杓の様な形の扁平な尻尾を強力にスイングさせ、後肢の蹴り出しと併せて前方推進力を得ています。これはクジラや海牛類の水平に張りだした尻尾(正確には尾びれ)と同じ機能的意義を持ちますが、クジラや海牛の尾びれと類似する構造をビーバーが獲得していることへの言及は院長は見た事がありません。ビーバーは、水中での前方推進力産生に当たり、哺乳類の特徴である背腹方向への屈伸力を<尾びれ>を備えて効率良く利用している動物の1つと言う訳です。

 この様に、効率的且つ特殊化したな潜水泳法と形態を獲得している点に於いて、ビーバーは齧歯類中最強の水中生活適応ロコモーション性を示す動物と言えます。

 尚、各種動物の尻尾の扁平化が意味するところについては、次回、番外編として扱う予定です。







Beaver Swimming

2011/08/21 derwater

https://youtu.be/9cwu_Wu5ONI


前肢の手には水かきがなく後肢の足には水かきが良く発達しカモの足

に類似します。体幹を背腹方向に屈伸し聖徳太子の持つ杓の様な形の

扁平な尻尾を強力にスイングさせ、後肢の蹴り出しと併せて潜水時の

前方推進力を得ています。前肢は推進力産生には殆ど関与していない

様に見えます。効率的且つ特殊化したな潜水泳法と機能形態を獲得

している点に於いて、齧歯類中最強の水中生活に適応したロコモー

ション特性を持つ動物と言えます。空気層を含む毛皮は銀色に輝きます。






齧歯類の水棲環境への適応戦略




 齧歯類の水棲環境への適応性を考えて来ましたが、齧歯類で親水性を持つ動物には、

@いずれもそれが属する同一系統群の中でボディサイズが最大級である

A水中での推進力を得る際に、前後枝の機能的分離の程度に違いが見られる

B尻尾の形態に違いが大きい

C祖先系動物に掘削型の動物が居たものがある

 などの特徴が観察されました。

 今回考察を加えた、カピバラ、ヌートリア、マスクラット、ビーバーは、各々独立的に水中生活性を高める方向に進化したものと考えて居ますが、齧歯類ではない他の目、例えば食肉目の動物でもイヌ科のヤブイヌが潜水を得意としたり、カワウソが水に遊ぶ、また少し離れたアザラシの一派(鰭脚目)が高度な適応形態を示したりと、様々な、<水の入り方>の像を示しています。偶蹄目では、カバが居ますし、やや離れてクジラが完全に魚類体型を獲得しました。ハイラックスの仲間が海棲のマナティやジュゴンになったり例もあります。はたまた所属不明?のデスモスチルスの様な絶滅種もいます。まぁ、一度丘に上がって進化した哺乳類が再び水中に戻る姿に関しては、面白ろおかしい、また進化とは何かを考察するに当たり、非常に有益な書き物が出来そうですが、のちに纏めることが出来ればと考えて居ます。

 院長の専門は霊長類の運動性がどのようにして変遷し、最終的にはヒトの二足歩行能獲得に至ったのかを解明することにあります。言わば、高いところが好きで木に上った霊長類、ヒヨケザル、コウモリの様な互いに近い一群を視野に入れた仕事ですが、この中でヒトを対象とすることは再び木から下りた生き物の進化の道筋を解明する事に他なりません。同じ様に、陸地から重力の反対方向の<水たまり>に踏み出す動物の進化を考えるのも大変に面白ろそうですね。哺乳類の食虫目を含めた幅広い目から水中に進出した動物が出ており、その有りようも各々異なってもいますので、霊長類なる1つの目のロコモーション進化を考えるよりは、動物学的には遙かに豊かな考察をもたらしそうです。

 その内、水棲哺乳類学会などが立ち上がるととても面白いと思います。ヒトの直立二足歩行は水中で立ち上がったことに由来するとの考えも提出されていますので、霊長類も扱われるのかもしれません。