ロコモーションの話 ー カメのロコモーション@ |
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2021年3月10日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。その第21回目です。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 爬虫類についてのお話の17回目です。 以下、本コラム作成の為の一部参考サイト:ttps://ja.wikipedia.org/wiki/爬虫類https://en.wikipedia.org/wiki/Reptilehttps://ja.wikipedia.org/wiki/カメhttps://en.wikipedia.org/wiki/Turtlehttps://ja.wikipedia.org/wiki/セオレガメ属https://en.wikipedia.org/wiki/Kinixyshttps://ja.wikipedia.org/wiki/板歯目https://ja.wikipedia.org/wiki/モササウルス科https://www.britannica.com/animal/turtle-reptile |
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カメとは 現生のカメ類は、亜種を含めて356種程度とされますが、水中棲息性或いは地表陸生或いは水陸両棲のものが見られますが、英語では水棲のカメをturtle タートル、また陸棲のカメを tortoise トーテスとよぶのですが、後者には陸棲のハコガメを含んだりと、生物学的な分類に完全に一致する呼び名ではありません。 重くて丸い甲羅を備えていて体幹の柔軟性は消失していますので、木登りする、地中にトンネルを掘って住む、滑空する!などのカメは存在しませんね。また、一生の殆どを海洋で過ごすカメであっても産卵は地表(砂浜)で行う事を余儀なくされ、そこを人間その他の動物に狙い撃ちされます。まぁ、母カメの成体が捕獲されたり、卵を横取りされたり、孵化した子ガメが水中に戻る間をトリに捕獲されたりと各種の受難を受けます。直接子ガメを産む卵胎生のカメは存在しません。詰まり、一旦成長して甲羅を抱えれば敵は最小限度になりますが、代替わりの繁殖時に大きな弱点を抱えている生き物と言う事になります。ワニ(そしておそらく一部の恐竜、そして恐竜の子孫とされるトリ)の様に巣作りして子供を養育することはなく、只産卵して立ち去るのみです。 カメは自分を守る強固な<外骨格>を抱えている点で、或る意味、進化的には相当の知恵者と呼ぶことが出来ます。哺乳動物のアルマジロもその名の通りの鎧を着ている状態であり、またアルマジロとはやや離れた哺乳類になりますが、センザンコウも松かさ様の<外骨格>を備えて居ます。恐竜の仲間のアンキロサウルスも厳ついまでの重武装スタイルです。カメ以外のこれらの動物は、骨格形態は他の哺乳類や爬虫類の基本形から大きく外れることは無く、体表の、主に背側の体毛や鱗(これらは同一起源です)が二次的に硬くなって体表を覆っているものと見倣す事が出来るのですが、一方、カメの方は、ホネそのものが変化した、即ち各肋骨が幅を増して互いに接着し合い、更に腹側の甲羅も含めて一体となったボックス構造を取っている、との大きな違いがあります。カメ以外の動物で腹を露呈させると柔らかいままであり硬い鎧構造はありませんが、カメは腹面もがっちり武装している訳です。 カメの背中側の甲羅 carapace カラパスは、10個の脊椎骨とそれから各々延びる左右10本ずつの肋骨が癒合して出来ていて(軟骨性骨 endochondral bone 由来)、またそれを取り巻く縁の骨は皮膚由来の骨(膜性骨 dermal bone と言う)となります。一方腹側の甲羅 plastron プラストロンの方は、4枚の大きな骨板と、前方の小さな1枚の骨板から成り、これら5枚はいずれも膜性骨です。ここで説明しておきますが、骨の出来方には2通りがあり、骨化点の周囲に軟骨が増殖しそこにカルシウムの沈着が起きて骨化するタイプの軟骨性骨(手足など含め多くの骨)と、皮膚由来の組織に直接カルシウムが沈着して形成される膜性骨(頭蓋骨、膝蓋骨など)とがあります。カメの背中側の甲羅と腹側の甲羅は由来が異なると言う訳ですね。尤も、一番手前側の小さな腹甲は前肢の肩帯の要素も含んでいる可能性が有ります。 甲羅の前後の出口から前肢後肢が突き出る形になっていますが、前肢の方ではその付け根の骨となる肩帯(肩甲骨など)が、本来は肋骨の外側に位置していたのが、肋骨の内側に取り込まれてしまっています。例えばヒトの場合は、胸骨柄(第一胸骨)の先端から肋骨の作る胸郭の外側へと鎖骨が延びる構造ですが、カメでは鎖骨が胸郭の内部に向かうと同時に胸郭の出口が左右に拡大し前方にも拡大したものと考えると理解し易いかもしれません。後肢についても然りです。詰まり前肢後肢は胸郭の前後の出口からおのおの顔を出す構造ですが、進化的に徐々にこの様な位置変化が起きたのでしょう。実は哺乳類のモグラでは肩甲骨は胸郭に内側に取り込まれることこそ有りませんが、掘削行動に高度に適応し、その形態及び胸郭との位置関係が他の哺乳類とは大きく異なっています。これについては別項で詳細に解説したいと考えて居ます。 骨で固められたボックスの表面を爪と同様のケラチンを主たる成分とする薄い甲羅(いわゆる背甲、腹甲)が覆う形になります。因みにタイマイの鼈甲細工とは、この様な背甲、腹甲を材料として剥がし、水分を含ませた上で、熱したコテで圧着して厚い板状に整えてから、ヤスリ掛けして細工物を作る工芸ですね。薄くて黄色い腹甲は特に価格が高く、以前に関西の落語家が黄色い縁の眼鏡をトレードマークにしていましたが、院長はこれがもし本物の鼈甲フレームであれば当時で軽く150万は行くだろうと眺めていました。東京の浅草界隈、長崎にも鼈甲細工師の店構えがあり、いずれも立ち寄った経験が有ります。院長宅には学術標本としてタイマイの剥製を抱えていますが、これは法律制定以前に国内に大量に流通していた中古品をオークションで入手したもので、腹甲側に、1976,Beirut の記述がありますので、そこら経由で国内に持ち込まれたものなのでしょう。現在の法律では商行為として第三者に譲渡すると法令違反になりますので、手放すとすれば基本的に大学や研究機関に譲渡、寄贈する以外にはありません。この際にも環境省に相談して何か譲渡証の様な書類を整える必要があるのかもしれませんね。実はセンザンコウややや珍しい種類のアルマジロの剥製標本も保有していますが、こちらも同様の手続きが必要と思われ、扱いが面倒そうです。 |
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体表の殆どを硬い甲羅に覆われてしまい、肺を膨張したり縮めたりして呼吸を行うには、手足の付け根の皮膚の部分或いは喉の筋肉を用いて陽圧と陰圧を交互に掛けねば成りません。換気の面では効率が悪く、これでは重い甲羅を抜きにしても、哺乳類のような活発な動きは期待出来ません。種類によっては寒冷時に水没したまま数ヶ月に亘り冬眠を続けるものが有りますが、身体の代謝を落とすと同時に、酸素消費の少ない解糖系の呼吸(ブドウ糖を燃やして乳酸を作る家庭でエネルギーを得る)にスイッチングして過ごします。身体に有害である血中の乳酸を甲羅のカルシウムに吸収させて処理する方法が採られることが明らかにされています。詰まり、例えばヒトの骨も運動器としての機能のみならず、カルシウムを出し入れしてカルシウムの血中濃度を一定に保つ役割なども明らかにされていますが、それと同じく、運動器や防御具としての機械的な機能のみで形態を見てはいけないとの例ですね。 院長宅に国内繁殖もののセマルハコガメを飼育していますが、腹側の甲羅が前後に二分して柔らかい蝶番で連結されています。、手足頭を引っ込めた状態でこの2つの甲羅を背中側にそれぞれ曲げれば、全身を覆う完全な一体化した甲羅となります。これに対し、セオレガメの仲間では背中側の甲羅の最後方に蝶番構造があって、尻尾側の縁の部分を幾らか曲げることが可能です。また、偏平なカメとしてパンケーキリクガメが有名ですが、これは岩の平らな隙間に隠れ、捕食者が引き出そうとすると柔らかな腹甲部分(5枚の骨板間に隙間があり互いの結合が弱い)を膨らませて隙間にピッタリと填まり、それに抵抗する事が出来ます。カメもそれなりに?進化・工夫している模様です。 |
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