Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック  院長コラム

ガラパゴスコバネウはなぜ飛べなくなった?(その2)

                               


























https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ


https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae







https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidae

https://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus

https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara















羽ばたきロコモーション 海鳥12




2021年8月15日

 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。

 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。飛べないウであるガラハゴスコバネウがなぜ飛べなくなったのかを引き続き考えます。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://ja.wikipedia.org/wiki/ウ科

https://en.wikipedia.org/wiki/Cormorant


https://en.wikipedia.org/wiki/Flightless_cormorant

https://ja.wikipedia.org/wiki/ガラパゴスコバネウ



https://en.wikipedia.org/wiki/New_Zealand_parrot

フクロウオウム科


https://en.wikipedia.org/wiki/Kakapo

https://ja.wikipedia.org/wiki/フクロウオウム


https://en.wikipedia.org/wiki/New_Zealand_kaka

https://ja.wikipedia.org/wiki/カカ



https://en.wikipedia.org/wiki/Southern_cassowary

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒクイドリ


https://en.wikipedia.org/wiki/Emu

https://ja.wikipedia.org/wiki/エミュー



https://en.wikipedia.org/wiki/Rhea_(bird)

https://ja.wikipedia.org/wiki/レア (鳥類)



https://en.wikipedia.org/wiki/Common_ostrich

https://ja.wikipedia.org/wiki/ダチョウ



https://science.sciencemag.org/content/356/6341/eaal3345.full

A genetic signature of the evolution of loss of flight in the Galapagos cormorant

Alejandro Burga,  Weiguang Wang, Eyal Ben-David, Paul C. Wolf, Andrew M. Ramey, Claudio Verdugo, Karen Lyons, Patricia G. Parker, LeonidKruglyak

Science  02 Jun 2017: Vol. 356, Issue 6341, eaal3345, DOI: 10.1126/science.aal3345

 (全文無料で読めます)


https://www.sciencemag.org/news/2017/06/how-clumsy-galapagos-cormorant-lost-its-flight

How the clumsy Galapagos cormorant lost its flight,  By Ryan CrossJun. 1, 2017

doi:10.1126/science.aan6921

 (全文無料で読めます)


https://www.nationalgeographic.com/science/article/on-islands-even-flying-birds-are-edging-towards-flightlessness

Birds on Islands Are Losing the Ability to Fly

ByEd Yong Published April 12, 2016


https://en.wikipedia.org/wiki/Neoteny

https://ja.wikipedia.org/wiki/ネオテニー



https://en.wikipedia.org/wiki/Sensenbrenner_syndrome







https://www.birdsinfo.org/wp-content/uploads/2020/04/Kakapo-owl-parrot-bird

-facts-information.jpg  https://www.birdsinfo.org/kakapo-owl-parrot/


フクロウオウム(カカポ)ニュージーランドに棲息する飛べないオウムの仲間です。

まぁ、珍鳥中の珍鳥ですね。人間の入植前は天敵も無く平和に暮らしていましたが、人間の

もたらした動物により個体や卵が捕食され絶滅寸前にまで至りました。現在は全頭が天敵

の居ない島に移入され頭数の回復傾向を示しています。オーストラリアのエミューの様に

大型化して走禽化していれば敵を防御も出来た筈ですが、森でひっそり生きる生活では

大型化に向けて進化しようがありません。



Kaka (Nestor meridionalis) and Kakapo (Strigops habroptila)  skeletons.

Buller, W. L. A History of the Birds of New Zealand. 2nd ed. (London, 1888). page 246.

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/46/Bul01Bird246a.jpg

CC BY-SA 3.0 NZ <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/nz/deed.en>,

via Wikimedia Commons


左はフクロウオウム科の別の仲間のカカ、右は飛べないオウムのカカポ。いずれも

ニュージーランドに棲息します。カカポの方は翼の骨が貧弱且つ胸筋群に付着の場を

与える胸骨の竜骨突起(胸郭前面の包丁の刃の様な突起)も小さいサイズです。カカポ

がガラパゴスコバネウと同様の機序で翼を縮めたとしたら面白いですが、別の要因の

可能性は勿論あり得ます。






ガラパゴスコバネウはなぜ飛べなくなった?(その2)



 前回、Science 誌に掲載の論文の解説記事を採り上げましたが、要は、ガラパゴスコバネウにヒトのセンセンブレンナー症候群(= cranioectodermal dysplasia ,CED, 頭蓋外胚葉異形成)を惹起する遺伝子 IFT122 と CUX1 の異常が見付かり、しかもその疾患のヒトの臨床症状が頭蓋骨の変形、胸郭の発達不良並びに四肢の短縮、呼吸器の異常を伴うものであり、ガラパゴスコバネウの姿に似ている、と言う話でした。どう言うことかと手短に述べれば、ガラパゴスコバネウはセンセンブレンナー症候群類似疾患を発症しているウである可能性があるとの主張で、それゆえ、遺伝子治療で正常遺伝子を導入すれば<正常な>ウに戻る可能性もあるし、他のトリでこれらの正常な遺伝子をノックアウト(遺伝子機能を潰す)すればガラパゴスコバネウと同様な形態のトリが誕生するかも知れない、と言う話になります。呼吸器の異常が併存すれば潜水行動は不可能と考えられますので、ガラパゴスコバネウにはその様な生理学的な異常を起こすまでには至らない、類型、或いは亜型の状態が発現していると考えるべきでしょう。

 これは、環境に適応するなどのプラスの理由で翼と胸骨を縮小したのとは異なり、病気の状態のウがたまたま天敵が存在しない環境下に在ったため、支障なく生きながらえて今日に至る、とのその次の推論を許容する話になります。飛ぶことを止めたトリは少なくはありませんが、空中飛翔性を捨て地上性或いは水中性に特化する方がそのトリには適応的、即ち望ましかった例は確実にあり得る (これはダーウィンの進化論で説明は可能です)筈です。例えば、空中飛翔するには翼を羽ばたかせる為の強大な胸筋群が必須ですが、飛翔なるロコモーションの為に摂食したエネルギーが大量に消費されてしまい、またそれを維持するべくタンパク質の必要量も大きくなるでしょう。仮に飛ぶのを止めれば、その分の採餌は少なくて済みますし、エネルギーやリソースを他の部位や生理機構−例えば地表を走る事−に回すことも可能になります。飛翔なるロコモーションの手段が生きる為の主目的化し、飛ぶ為に餌を求める様な生き方であるとすればそれを止めることで、人生ならぬ鳥生の別の充実を見い出せもする訳です。生息場所に天敵が存在しないとの前提で、生息環境下で飛ばないで地表を歩いて餌を求める方にメリットがあるなら、飛ばない方向に進化が進むでしょう。アフリカのダチョウ、南米大陸のレア、オセアニアのエミューとヒクイドリは大型化し、或いは速度高く走る事も可能で、自身の身を守るレベルにまで到達しています。ニュージーランドのキウイやフクロウオウム(現地語でカカポ)などの非大型の飛べないトリはその様な地表に降りる進化の道を選択したと思われますが、人類の上陸以前には哺乳動物として数種のコウモリしか居なかった為に棲息が容易でした。この点は、ガラパゴスコバネウと似ています。

 この事に関しては下記の記事が示唆を与えて呉れます。

https://www.nationalgeographic.com/science/article/on-islands-even-flying-birds-are-edging-towards-flightlessness

Birds on Islands Are Losing the Ability to Fly

ByEd Yong Published April 12, 2016

 (本コラムでは内容には触れませんが、飛べないトリについて扱うコラムにて解説する予定です)








Fig. 1 The Galapagos cormorant, a model for studying flightlessness  evolution.


(A) The average wing length of an adult Galapagos cormorant male is 19 cm  (3.6 kg

body mass), whereas the wing length of its closest relative, the  double-crested

cormorant, is 31.5 cm (2.2 kg body mass). [Illustration by Katie Bertsche  from

specimens 134079 and 151575, Museum of Vertebrate Zoology at  Berkeley]

(B) The CEGMA score is a good predictor of genome completeness  from a

gene-centric perspective. The blue line is the linear regression model  (r2 = 0.75,

P = 4.3 × 10?7). Genomes reported in this study are red triangles;  other

published avian genomes are black circles (table S2). (C) Bayesian  phylogram

reconstructed with fourfold degenerate sites from whole genome sequences. The

orange bar illustrates the time span between the approximate origin  of  the

proto-Galapagos archipelago (9 Ma) and the origin of the oldest extant  island,  San

Cristobal (4 Ma).  Nodes represent median divergence ages. Blue bars  indicate

the 95% highest posterior density interval. (D) Heterozygosity levels  inferred

from whole genome sequences. Birds are not drawn to  scale.


from  A genetic signature of the evolution of loss of flight  in  the

Galapagos cormorant, Burga1,A,, et al., Science  02 Jun 2017:,  Vol. 356,

Issue 6341, eaal3345, DOI: 10.1126/science.aal3345

https://science.sciencemag.org/content/356/6341/eaal3345.full


トキ Nipponia Nippon と鵜の仲間が 2000万年前に分岐したのち、鵜の仲間が130〜

400万年前に細かく分かれました。飛べないガラパゴスコバネウP.harrisi と一番近縁な

飛べるミミウP.auritisの仲間とが分岐したのは僅か237万年前に過ぎません。つまり、

これら同士を比較して何か遺伝子の違いが見付かれば、それが形態変化を生む責任遺

伝子である可能性が濃くなる訳です。図Dで遺伝子対のヘテロ接合性 heterozygosity が

コバネウで低い値ですが、単純に言えば遺伝子が煮詰まっている、近親交配が進んで

いる事を意味します。






 これは院長の考えですが、ガラパゴスコバネウの場合は適応しての翼の退化傾向とは別の機構、即ち、突然にマイナスの改変が生じたものの、それを出発点として生きる為の適応が二次的に加えられたトリでもあり得ることを示します。

 ガラパゴスコバネウは一番近いウの仲間であるミミウの仲間から約240万年前に分岐しましたが、遺伝子の突然変異で翼の未発達のウとして当初に分岐したのか、或いは分岐して以降のある時期にその突然変異が起きたのかは不明ですが、既に潜水して餌を獲る行動自体に支障なく、淘汰されずにその遺伝子異常が温存され個体数が拡大して行ったのでしょう。飛べずに飛翔しないことは、ボディサイズの大型化を許容し、これは寒冷水中への潜水行動には有利になりますし、また単位体重量当たりのカロリー消費量が減少しますので、採餌する時間間隔を拡大出来、飢えにも強くなります。天敵が居なければこの様な別の枝への進化が可能だったと言う訳です。

 遺伝子突然変異は当該種に不利に作用する事が殆どですが、それが生理機能などに影響をもたらさずに、当該種のロコモーション面でも不利益をもたらさないような改変 modification −より正確には奇形と呼称しても良いでしょう−に留まるのであれば、生存に特に問題も起きない筈です。

 勿論、他の研究者が、これが単一の原因では無く別の遺伝子異常などもあり得るだろうと指摘するのはもっともですが、院長は、何らかの遺伝子異常に基づく疾患+二次的な適応改変の和が今日のガラパゴスコバネウの姿を作り上げているとの、複合原因説を提出するものです。

 ガラパゴスコバネウが雛の状態そのままに翼を発達させずにアダルトに育ったとの説 (ネオテニー、幼形成熟)を提唱する者も居ますが、ネオテニーは実は非常に曖昧な概念であり、何らかの原因により、ある部分の臓器や組織を発達させるべき広義の遺伝の作用が阻害され、或いは量的作用が少ない、小さいが、他の部位は<まともに>個体発生したがゆえのモザイク的な成体が誕生した話となります。この様な状態で存続するためには、最低、生殖機能が<まとも>である必要がありますが、他の部位は個体生存に特に支障が出ない範囲で<退化>して痕跡的になっても許される訳です。ダーウィンの進化論に乗っ取れば、当然幼形成熟するのが当該種の生存にとってより優位だったからとそうなったと解釈する事になりますが、Parker 女史が考えるのと同様に、ガラパゴスコバネウにとって翼を縮めて飛べなくなったことが有利な選択であったとは院長もちょっと思えません。翼が有ったにしても同様な生活形態は可能ですし、空中から魚影の濃そうな海面に舞い降りて採餌する自由度も増大します。まぁ、この論文は、ダーウィニズムで全てこの世の生き物の形態や生き方が解釈出来るものではないとの、一種クギを差した論文とも受け取れ、従来の<文学的進化論>の解釈にj毎度辟易させられてきた院長には一服の清涼剤となりました。しかし、ダーウィニズムに異を唱えることに躊躇するのか、執筆者が奥歯ににモノが挟まった様な慎重な態度を示すのが院長には多少気になりました。

 因みに、ニュージーランドにはフクロウオウム科のトリが数種棲息していますが、飛べないのはカカポだけになり、ひょっとして、翼を形成するのに必要な何かの遺伝子に突然変異が起き、それが天敵の居なかった環境下にて温存されてきた可能性はあります。ガラパゴスコバネウで検証されたのと同類の遺伝子異常がカカポに仮に発見されるならば大変面白いと思います。

 次回コラムでは、センセンブレンナー症候群の実態に迫り、本当にこの様な遺伝子突然変異に基づく改変の結果、翼が縮小し得るのかについて、逆方向から考えてみたいと思います。