Ken's Veterinary Clinic Tokyo

相談専門 動物クリニック  院長コラム

ペンギンの二足歩行

                             


























https://ja.wikipedia.org/wiki/ネズミ


https://en.wikipedia.org/wiki/Dipodidae







https://en.wikipedia.org/wiki/Caviidae

https://ja.wikipedia.org/wiki/テンジクネズミ科


https://ja.wikipedia.org/wiki/カピバラ

https://en.wikipedia.org/wiki/Capybara


https://en.wikipedia.org/wiki/Hydrochoerus

https://en.wikipedia.org/wiki/Lesser_capybara















羽ばたきロコモーション 海鳥19




2021年9月20日

 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。

 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。

 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。今回からペンギンのロコモーションについて扱います。



以下本コラム作成の為の参考サイト:


https://en.wikipedia.org/wiki/Penguin

https://ja.wikipedia.org/wiki/ペンギン


https://en.wikipedia.org/wiki/Emperor_penguin

https://ja.wikipedia.org/wiki/コウテイペンギン


https://en.wikipedia.org/wiki/King_penguin

https://ja.wikipedia.org/wiki/オウサマペンギン


https://en.wikipedia.org/wiki/Ad%C3%A9lie_penguin

https://ja.wikipedia.org/wiki/アデリーペンギン







You Don't Want to Be a Penguin 2021/09/15 WILD VERSUS

https://youtu.be/rGVgQJmikkM

ペンギンなんかになりたくないよ

ショッキングな画像を含みますので再生にはご注意下さい。


マイナス70℃にも達する極寒の中を過ごし、巣材も無いので生んだ卵は足の甲の上に乗せて

下腹部で温めます(2:10-)。雛が迷子になり凍死し、仲間同士のイジメ、外敵からの襲撃等にも

見舞われます。多様性に富むとは全く言えない閉ざされた厳しい環境の中で生き抜くのは容易

ではありませんね。しくじりは死に直結します。雛を抱えての二足歩行(1:38-1:40)、二足歩行

(3:20-3:22, 6:00-6:13)、潜水(6:15-6:30)。二足歩行も緩歩時の鉛直軸回りの反復回転メイン

で歩幅を稼ぐ歩容と、後肢を幾分伸展しての体幹が左右に揺れる歩容に区別出来ますね。地上

では動きが鈍く、敵の思うままにして遣られ、かと言って我が意を得たりの海面下ではアシカや

シャチの様な大型哺乳類やサメの餌食になります。受傷して戻ったペンギンも<獣医>も居ま

せんので早晩感染症の悪化や飢えで死ぬでしょう。ペンギンに限らず野生動物の実態は大方

この様なもので、綺麗事ではけして片付けられません。




Penguin tracks in the sand at Bruny Island, Tasmania

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b1/CSIRO_ScienceImage_11266

_Penguin_tracks.jpgCSIRO, CC BY 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by

/3.0>, via Wikimedia Commons


立位を取り、一体化した<体幹+折り畳んだ後肢>で進む場合、歩幅は大きくは取れず、

砂上には足が刻んだ特徴的な紋理が遺されます。これはタスマニアですのでコガタペン

ギンの足跡でしょうか?



Adelie penguin (Pygoscelis adeliae), Hope Bay, Trinity Peninsula, on the northernmost

tip of the Antarctic Peninsula. Image taken from a zodiac. https://upload.wikimedia.org

/wikipedia/commons/e/e3/Hope_Bay-2016-Trinity_Peninsula%E2%80%93Ad%C3%A9lie

_penguin_%28Pygoscelis_adeliae%29_04.jpg Andrew Shiva / Wikipedia


アデリーペンギン、南極半島のトリニティ半島にて。南極に棲息しますが南極半島は北に突出

しており、まだ気候はマイルドになります。体重は5kg 程度と小型のペンギンです。




Adelie Penguins Walking 2017/12/14 Eric Lo

We were visiting Paulet Island and while hiking back to the beach we get picked up,

I had to follow a penguin path https://youtu.be/HC46cRGyCqk


アデリーペンギンの二足歩行。凸凹した足場の悪い場所を歩行していますが、その際、

膝関節は或る程度屈伸させている様に見えます。石を積んで巣を作る習性があります。





 

ペンギンの地表ロコモーション



 前回コラムにて、ペンギンが地表を大方直立位で立つ時には、後肢は実は膝を大きく屈している事、そしてこれはおそらくは、後肢を折り畳んで体幹に密着させ、寒冷への曝露から後肢を守る適応だろうと述べました。従って、外見的には基本的に足 foot 部分のみが顔を覗かせる形になります。

 大型のコウテイペンギンの成体では、平らな氷上での通常の歩行時には、一体化させた<体幹+折り畳んだ後肢>を鉛直軸回りに左右交互に反復回転して進みます。これは上述の様に寒冷曝露への対策とも言えますが、卵や雛を足の甲の上に乗せて下腹部で包み込むようにして前進移動する際にも適応的な歩容です。この際、体幹の前後左右へのプレはあまり観察されませんが、歩幅は稼げません。ふわふわの雪が積もった場所や凸凹した場所ではこの様な歩容では進む事が出来ません。一方、独り立ちしつつある雛鳥や小型のアデリーペンギンなどの場合、足場の悪い場所以外の平らな場所であっても、後肢をやや伸展し、スタスタと歩幅を大きくして前進しますが、この際には後肢は前後方向への運動成分を増し、同時にガチョウの二足歩行時の様な体幹の左右のブレ、即ち rolling が発生するのが明瞭に見て取れます。鉛直軸回りの反復回転性の程度は弱くなります。この歩容はコウテイペンギンが海面下に飛び込む際の加速付けの際や足場の悪いところを進む際にも観察されますが、30kgを超える体重を後肢を伸ばして支えるのは苦しいと見え、基本は短時間の動作に留まります。






Sneak Peek: Emperor Penguins | Dynasties | Saturdays at 9pm | BBC America

2019/02/14 BBC America Will the ice hold out long enough for a new generation of

Emperor Penguins to grow? https://youtu.be/u7e78zVGCTg


コウテイペンギンのロコモーション。鉛直軸回りの反復回転を基本としつつも、後肢は前後方向

への運動成分を持ち、同時に幾らか体幹の左右のブレ rolling が発生しています。ソリの様に

水平位を取り、足で蹴り出して漕ぎ進める方法も取りますが、地表では立位歩行がメインです。




Close Encounters of the Emperor Penguin Kind 2012/11/12 

Antarctica New Zealand Footage shot by Jenny Ryan on the sea ice while on a trip

between Cape Evans and Cape Royds. https://youtu.be/646p-spLFpE


コウテイペンギンのロコモーション。鉛直軸回りに反復回転して前進するのが見て取れます。

体重が重そうで、二足歩行する自体がラクではなさそうに見えます。前方を見るために頭

部を体幹とは逆方向に回転させていることに気が付きましたか?




Emperor Penguins in Antarctica 2010/12/09 Kevin Knutson

https://youtu.be/c7M686pXr6M


実際に南極に出掛けてコウテイペンギンを自分の目で見られれば最高ですね。




Penguin walk at Asahiyama Zoo, Asahikawa Japan. 旭山動物園のペンギンの散歩。

2015/01/20 Adrian Leis The penguin walk at Asahiyama Zoo in Hokkaido.

Pretty cute!  https://youtu.be/GbHoHfc7uIg


柔らかな積雪の上を歩行させていますが、仮に最大種のコウテイペンギンであれば

本来的に平らな氷上を後肢を挙上させること無く進むのがラクですので、後肢を挙上

しながらこの様な積雪面を進むのは苦しい筈です。これはオウサマペンギンですが

体重は10-16kg 程度とコウテイペンギンの半分程度にとどまります。歩行時の鉛直

軸回りの反復回転性も弱く、下腿を前後に動かして大股に進むのもそれほど困難で

は無さそうです。但し、体幹の左右のブレ、rolling は一段と大きいですね。




Penguin Baywatch (Wildlife Documentary) 2017/04/26 Best  Documentary

Meet Chinstrap, Macaroni, Adelie, Gentoo, King and... Queen. Spend a year  with

them in the icy waters or on the volcanic islands of the vast Southern  Ocean.

https://youtu.be/lF9qWq3uVcg


オウサマペンギンの歩容を見ると、確かに鉛直軸回りの反復回転性が弱く、体幹に rolling

が発生し、また後肢を伸展させて体幹から長く突き出ている様に見えます。




Adelie Penguin Sliding On Its Belly 2021/01/09 Monika  Kloudova

Antarctic Peninsula 2018 - Detaillee Island: During our visit of Detaillee  Island

I came across this adorable Adelie Penguin sliding on its belly which is  faster

and more efficient way for penguins to move than walking. I couldn't stop  laughing

how super cute this Adelie penguin was! https://youtu.be/tKPv_2hicY0


アデリーペンギンの腹滑り。この撮影者がコメントしている様に二足歩行するよりは効率

的且つ速く前進出来ます。人間が雪上を滑って遊ぶのと同じですが、トリの行う、空中

飛翔、潜水遊泳の中間的な、地表滑空とでも呼べそうな動作です。まぁ、ペンギンにして

みても他のトリと同様に本来的に地上歩行が苦手と言う訳なのでしょう。





 

 以上を鑑みるに、

 1.寒冷への適応→<ボディサイズの大型化+後肢屈曲>

     →<鉛直軸回りの反復回転性強化+平らな地表への適応>


 2.潜水への特化→後肢の体長軸に沿う配置→地表での立位姿勢


  の2つから、ペンギンの大型化、立位後肢屈曲型歩容が成立した、と考えても良いでしょう。

 暖かい場所に生息するペンギンは、これほどまでには特殊化を示さず−進化の途上にあるのか、<普通>のトリに二次的に戻りつつあるのかは別として−ボディサイズは小型化し、体幹は斜めに配置、足場の悪い凸凹した場所や岩場でもOK、体幹の鉛直軸回りの反復回転性減少且つ rolling 増大、後肢はやや伸展してスタスタ歩く、と言う次第です。即ち、ペンギンの地表二足歩行にもグラデーションが存在し、<ペンギン歩き>と単純に括るのはあまり正確とは言えませんね。まぁ、ボディサイズが歩容に違いをもたらす主たる要因だろうと院長は考えます。体重が軽ければ、後肢を伸ばしてスタスタと歩幅を稼いで前進する傾向が強まる一方、体幹の rolling も増大する、との理解です。

 歩行時の鉛直軸回りの反復運動性はコウテイペンギンでは明確ですが、これが二番目の大きさのオウサマペンギン (体重はコウテイペンギンの半分程度の10〜16kg程度)になると、一気にこの傾向が弱まり、上記の様な歩容となります。本邦のさる動物園でオウサマペンギンに行進させるのを売りにしている施設がありますが、積もった雪の上をやや大股に、体幹を大きく rolling させながら進むのが観察出来ます。まぁ、運動不足を解消させるのにも、もって来いでしょうね。。コウテイペンギンではこの様な運動は<拷問>になるのかも知れません。

 寒冷地に棲息するコウテイペンギンやオウサマペンギン、アデリーペンギンでは、地表では立位歩行の他、腹這いになり足で蹴り進めて氷上や雪上をソリの様に水平に滑り進む動作も観察されますが、これは水中での遊泳動作を地表で短時間行う動作と言えそうです。長距離をこの様な水平姿勢のままで進むことはありませんので定常的なロコモーションとは呼べないでしょう。但し、ヨタヨタと二足歩行するよりは素速く、省エネで進めるのは確かに見え、これがスムーズに行える場所ではそこそここの動作で前進します。トリの行う、空中飛翔、潜水遊泳の中間的な、地表滑空とでも呼べそうな動作です。まぁ、ペンギンにしてみても他のトリと同様に本来的に地上歩行が苦手、いや、その太って丸い体幹を考えると、実は他の一般的なトリ以上に二足歩行が苦手と言える様にも思います。この辺りは、地上を時速60kmで疾走するダチョウやレアなどとは対照的です。

 地表では直立位か水平位かのいずれかで前進し、スイッチが瞬時に切り替わるのが面白く感じます。余談ですが、院長が観察を続けているアジアのコロブス(葉食性のサル)の仲間のアカアシドゥクラングールやキンシコウでは、体幹を水平にしての四足歩行と、体幹を鉛直にしてのぶら下がり移動や二足歩行との間をスイッチングし、体幹を斜めの姿勢にしながら前進する例は全く観察されません。ロコモーション時の体長軸が90度に瞬時に切り替わる訳です。

 情報収集装置である頭部は基本的に常に進行方向に向けている必要性があります。この為、ペンギンに於いては、立位で反復回転して進むその体幹とは逆方向に頭部を回転して方向を前方に保つ動作が行われています。実はヒトの二足歩行時にもこれが行われていますが、行って居る当人は全く意識せずにこの動作を行って居ます。胸郭の回転方向とは逆の回転を起こして前進していることになります。この様な立位歩行時の体幹の分節的な回転性については、院長の昔からの研究テーマの1つですので、この先、二足歩行ロコモーションのコラムにて詳述する予定です。ペンギンの二足歩行性の進化の解明は、ヒトの二足歩行成立へのヒントを与える様に考えて居ますが、論文発表前ゆえ詳細はここでは述べることができません。ご了解下さい。