院長のコラム 2021年7月〜12月掲載分
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*内容についてですが、動物学、生物学、医学に関する一定以上の知識、興味、関心をお持ちの方に向けてのものとなります。
羽ばたきロコモーション 海鳥16 |
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2021年9月5日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。カモのロコモーションのお話の続きです。 カモの地上ロコモーション キンクロハジロやカイツブリの様な、後肢を体幹の後方に据えてパドリングする泳法(後肢伸展維持型)に適応しているトリであれば、その状態とは90度後肢の配置を変えて体幹の腹側から地面へと突き出す地上歩行には、後肢の筋骨格形態は適応的ではない可能性があります。実際、カイツブリの仲間はヨタヨタどころかまともに地表を歩くことが出来ません。空中飛翔するか水面に浮上する或いは潜水するかの性向が非常に強く、地上歩行性を捨て去った変わったトリとも言えるでしょう。多くの海鳥は空中飛翔と海面或いは潜水で殆どの時間を過ごし、上陸するのは繁殖期の営巣時に限定されますが、それでも一応は地表を歩くことが出来ます。カイツブリは営巣自体が水面上に枯れ草などを盛り立てて巣を作ったりするぐらいで、余程地表が苦手の様に見えます。体重も軽いですので、その様な営巣も可能な訳ですが。 潜水動作を全く行わないマガモ並びにその家禽化されたトリであるアヒルは、歩行時には鉛直軸回りに左右に体幹を目立つ様に振り (= yawing ヨーイング)、尻を振りながらのヨタヨタした歩行を示します。この時には体幹−トリの胸郭と骨盤は構造的に一体化して飛行船の胴体の様に一塊で運動します−はほぼ水平位に保たれており、進行方向軸回りの回転即ち rolling ローリングの発生は目立ちません。このヨーイング発生は、片側の足を着地して地面を後方に押すときに生じる体幹の回転−例えばボートの片側を櫓で漕ぐと船体は櫓側への回転運動を発生します−を、股関節回りの筋で逆回転を起こして解消し、体幹の向きを一定して前方に保つ機能に乏しいことを意味します。因みに、我々人間が二足歩行する時には個体差はあるものの骨盤を鉛直軸回り左右に回転させます。例えば右足を空中に浮かせて前に進める時(遊脚期と言う)には、骨盤は左に回転しますが、そのままだと右足のつま先も左側に回転して着地してしまいますが、この時には無意識的に右脚を股関節回りに右に回転させ、つま先の軌跡が後ろから前へと進行方向にまっすぐな平面上を進む様な動作が行われているわけです。これは歩幅を稼ぐのにも役立ちますし、また前方推進力を得るためにも効率的です。骨盤のyawing に対して全く意識せずに後肢を逆 yawing させている訳ですが、その様な筋の動きが生得的に脳に仕組まれている話になります。アヒルにはそれが未熟な状態にあると言っても良いでしょう。水面を左右交互にパドリングして進む時には、体幹のヨーイングは目立ちませんが、これは左右交互に細かくパドリングしてブレを軽減すると同時に、体幹の持つ水の抵抗性がこれを打ち消して問題にならないからかもしれません。 因みにダチョウやレアなどの大型の走鳥が地表を走る場合、この様な体幹の揺れは生じず、安定且つ効率的に前進が可能です。体幹が左右にヨタヨタとブレる様では高速走行もままならず、機能形態面、運動制御面での改良が進んだのでしょう。ヒトでは骨盤の yawing が発生し、走行時には無駄なエネルギーの費出になりますが、これを如何に抑制して走るか−ダチョウ型走行の取り入れ−が陸上短距離種目の1つのカギと言えるかもしれません。院長の見た限りですが、ウサイン・ボルト選手には疾走時の骨盤の yawing が殆ど感じ取れませんでした。これが有利に作用している可能性はありますが、ボルト選手の場合は脊柱側弯症に由来する骨盤の非対称的な動きがあるとも指摘されており、更に解明を進めた方が良さそうです。以上、走るトリのコラムにて詳述する予定です。 他方、カモの仲間に一番近い分類群のガチョウの場合ですが、地表歩行を前方から観察すると体幹が左右に明瞭にブレ、またこれと同時に鉛直軸回りの回転運動も発生します。これは接地している脚の側に体幹がローリングすると同時に、その脚回りにヨーイングが発生する歩行ですが、アヒル以上に稚拙な歩容と感じます。エネルギー面でも、体幹に余計なブレを発生させずに進行方向のみに移動させるのが得策です。ローリングの発生は、ボディサイズが大きく体重が重いので、左右交互に後肢1本で体幹を支えるのが困難度を増してしまうからかもしれません。 動揺歩行 swaying gait とは アヒルの歩行の話のついでに、ヒトの動揺歩行 (動揺性歩行とも) と呼称される歩行について少し触れておきましょう。実は生き物それぞれにはロコモーション時にメインとなる体幹の反復回転運動の軸が定まっては居ますが、直交する3軸回りの回転は全て発生し、瞬間瞬間の回転軸の配置は各軸回りの運動を合成した運動の軸となります。従って厳密に言えば、推進力を稼ぐための反復回転性以外の運動成分を含みます。メインの回転性以外の運動性を無駄なものである、余計なブレが起きていると考える時、その運動性を<動揺>と定義する事も可能です。そして、この動揺の程度がノーマルな値を超えていると視認される場合には、その様なロコモーションを動揺性ロコモーション、ヒトの場合には動揺性歩行と大雑把に呼称することになります。この考え方は身体の各パーツの運動性についても当てはめることが可能で、例えば、体幹の動きが正常な範囲にあっても、後肢だけ特異な運動性を示す場合もあり得ます。尤も、四肢含めて或る部分の動作が異常であれば、それは目立たずとも必ず身体の他の部位に波及して影響はしている筈ですが。院長コラムのイヌの変形性股関節症などの項でも採り上げましたが、歩容 gait を見れば、患者、患畜のどこに異常が起きているのかを、その道のプロであればほぼ一瞬で確実に絞り込む事が可能です。 筋ジストロフィー患者等に観察される歩容 gait の場合ですが、各患者さんの病型や進行程度に拠り個人差はありますが、片足を地面から挙げて前に降り出す時(遊脚期)に、挙上の高さを稼ぐと同時にバランスを保つべく、体幹全体を反対側(接地している側)に傾けてしまう歩行を行い、これを左右交互に繰り返すと、前方から見た時に体幹が時計の振り子の様に大きく左右に反復回転して見える事を言います。体幹が鉛直軸回りにではなく、前後方向軸回りに反復回転する動作 (= rolling ローリング)になります。即ち、体幹回転の軸性がアヒルの歩行の振れとは大きく異なり、どちらかと言えばガチョウの歩行に近いですね。実はこの歩容を動揺(性)歩行と呼称するのも、まだ曖昧性を含んでおり、より正確には異常運動の軸性を明確にしてローリング歩行 rolling gait とでも呼ぶべきですね。因みに横軸回りの回転運動は pitching ピッチングと呼称しますが、四足哺乳類が平地を疾走するロコモーションの際には、四肢と体幹を含めこれが主たる軸性になります。 筋ジストロフィーに関しては、https://www.kensvettokyo.net/column/202002/20200201/ のコラム含め8回に亘り詳細に解説していますのでご覧ください。 因みに、アヒル歩行なる医学用語は、英名 goose gait, 或いは waddling gait で表記され、アヒル歩行では無くガチョウ歩行と和訳するのが正しいのですが、これは、神経麻痺や筋の障害(筋萎縮など)に拠り足関節の背屈筋が正常に動作しない為に遊脚相で下垂足(つま先がダラッと下がってしまう)を呈するところを、足先端部が床面に接触しない様に患肢を通常より高く挙上し、また踵着床時に足底部が床にペタペタと着いてしまう歩容がガチョウの歩行と似ているところから名付けられものです(南山堂Promedica より引用並びに一部改変)。筋ジストロフィーの場合は、足の背屈筋のみならず全身の筋が萎縮しますが、同様の歩容が発生することになります。この名称に関してですが、元々からして、ヒトの疾患の症状を動物の名前を冠した名で呼称する自体が適切であるとも思えませんので、この様な呼称はもう止めるべきでしょうね。歩容を語るにしては残念ながらロコモーション的な視点、特に運動軸性の概念に欠如している呼び名にも見えます。 上にも述べましたが、正常歩行時のヒトの骨盤は鉛直軸回りに反復回転し、胸郭はこれとは反対に回転しますが、後肢は進行方向軸に沿って振り出され進みます。これは股関節が骨盤とは逆方向の鉛直軸回りの回転を発生させている為ですが、これで後肢を左右にブラさずに効率よく前方に進む事が出来る訳です。筋ジストロフィー患者の<ローリング歩行>時には、この様な体幹並びに後肢の鉛直軸回りの各反復回転性、即ちヒト型の歩行は基本的に全て維持されています。まぁ、正常な gaitに異常な運動成分が加わり、その異常部分が目立つと言う訳ですね。 二足歩行と言っても色々なタイプがありますが、ヒトの二足歩行の進化、即ちヒト型二足歩行の進化は院長の専門とする分野であり、後日別コラムで纏める予定です。 |
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羽ばたきロコモーション 海鳥H |
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2021年8月1日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、ウの仲間を引き続きご紹介しましょう。今回は飛べないウとして知られるガラパゴスコバネウ並びに棲息地であるガラパゴス諸島についてざっとお話しして行きます。次回にはこのウの機能形態面について論考する予定です。 ガラパゴスコバネウ Flightless cormorant Phalacrocorax harrisi ガラパゴスコバネウ ガラパゴス小羽根鵜 flightless cormorant (Galapagos cormorant とも呼称される) Phalacrocorax harrisi は、飛べない鵜として非常に有名なトリです。エクアドルのガラパゴス諸島の内の、 イサベラ島北部および西部・北東部の一部、フェルナンディナ島の2島にのみ棲息するウです。分類的には、過去には本種のみを一属一種の Nannopterum 属に含めるなどされましたが、最近の分類では他のウの仲間と同じく Phalacrocorax 属に含めるのが主流です。名前の通り空中を飛翔出来ませんが、飛べないのはウの仲間の内の唯一の種になります。 ここでガラパゴス諸島−スペイン語でゾウガメを意味する galapago に由来−についてざっと触れておいた方が良さそうですね。日本文化は極東の離れ小島で独自の高度な発展を遂げたがゆえに、他の世界の世界認知軸とは座標系を別のものとしており、その秩序の元で運営されている社会です。物作り、教育、言語、対人関係観、宗教観、自然観、そして動物観からして大きく異なり、他国から日本へ、そして日本から他国に渡り生活することは、大きな文化的衝撃を当人に与え、良い意味での intercultural な break through 突き抜け、を得られる大きな利点があります。これが孤立して独自の動物相を発達、維持させているガラパゴス島になぞらえられ、携帯電話1つとってもガラパゴス携帯などと日本人自らがは呼びますが、そこに別段卑屈な姿勢は存在しません。ガラパゴス諸島は、複数の大小の島と岩礁から構成される島嶼ですが、エクアドル−Ecuador はスペイン語の赤道の意−本土の西約906キロにあり、現時点では123の島に名前がついています。最北のダーウィン島と南のエスパニョラ島の間は220km離れており、最大のイサベラ島は面積44588平方km(四国の面積の1/4)の火山島で、その島のウォルフ火山は海抜1700mに達します。 数多くの固有種で知られており、チャールズ・ダーウィンがビーグル号での第2回目の航海時にそれらを調査し、彼の観察と標本収集は、彼の、自然淘汰を通じての進化理論構築の発端に貢献しました。まぁ、隔絶された地理的位置にあり、各々の島が海流で遮断され交通が困難であり、各島での動物が独自の進化を示すに至った島嶼です。本邦の場合は4つの大きな島の間の行き来は特に困難ではありませんが、大陸とは日本海流並びにしばしばの荒天に阻まれ、行き来は容易ではありませんでした。しかしそれも、ガラパゴス諸島と南米大陸との隔絶を考えるとだいぶマイルドには見えます。孤立した島嶼で棲息する動植物が独自の進化を遂げる例は、東京都の小笠原諸島の動植物になどにも見られ、現象としてはそれ自体は珍しいことではありませんが、ガラパゴスの場合は、多種の独自な種が島嶼内の島毎(小笠原と異なり各島のサイズが大きい)に明確に棲息し、それがダーウィンの脳髄を大きく刺激したと言う話でしょう。 ガラパゴス諸島の動物相 fauna については改めて別項にて解説したいと考えて居ますが、10回以上の長期シリーズになりそうな予感はします。その前にもう一度 『種の起源』を批判的観点も交えて読み直す必要もありそうで・・・。 以下、https://en.wikipedia.org/wiki/Flightless_cormorant からの部分和訳(パラグラムタイトルのみ改変)形態と習性他の全てのウと同様、本種は趾間にヒレのある頑丈な足を備え、水中で強力に漕ぎ進め魚や小型のタコ、他の小さな海棲動物を補食します。海底の獲物を捕食しますが海岸から200m以上離れる事はありません。ウの仲間では最大種で、全長89 - 100cm、体重 2,5−5.0kg、翼の長さは飛翔に必要と考えられ長さの1/3に留まります。飛翔に必要な筋肉が付着する場である胸骨の竜骨突起も、また著しく縮小しています。本種は、彼らの短くギザギザの翼を除いては、ちょっとアヒルのように見えます。体幹の上半分は黒く、下部は茶色を呈し長いくちばしは先端で曲がり、目はトルコ石の色です。ウ科のすべての仲間と同様に、4本の趾(あしゆび)はヒレ皮によって繋り、雌雄は外観が似ていますが、雄は大きく約 35%が重いのです。若い個体は大方は成体に似ていますが、色が暗く、身体が艶のある黒色である点で異なります。成体は低いうなり声で発声します。他のウと同様、この鳥の羽根は防水性を持たず、一回の潜水毎に陽光下でその小さな羽を乾燥させて過ごします。彼らの風切り羽根とその輪郭は他のウと非常に似ていますが、本種の体幹の羽根ははるかに厚く、柔らかく、より濃密に生えています。尾腺からは非常に少ないアブラしか出ません。密な羽毛に閉じ込められている空気層が身体が水びたしになるのを防ぎます。分布と生息地このユニークなウはガラパゴス諸島に固有のもので、その内の僅か2つの島、即ちフェルナンディナ島、及び、イザベラ島の北西部の海岸にのみ棲息します。これは、東へ向かって流れる赤道深層の季節的な湧昇 (クロムウェル海流) に関係していますが、この流れが冷たく栄養豊富な海水をガラパゴス諸島西側のこの2つの島に供給する訳です。個体数はこれまでに激しい変動を受けました。 1983年に発生したエルニーニョの南方への振れ EL Nino-Southern Ovishillation(ENSO) で個体数は 5割の400頭iに減少しましたが、その後急速に回復し1999年までに推定 900頭に増加ました。本種は、火山島の岩礁海岸に生息し、湾や海峡を含む浅い沿岸水域で採餌をします。本種は場所を移動しない性質が非常に強く、自分が居住する数百メートルの長さの海岸線の範疇で、生活の殆どの時間を過ごし、また繁殖します。この固着的な性質は、主たるコロニー間で、特にフェルナンディナ島とイザベラ島の間のコロニー間に於ける遺伝的違いに反映されています。繁殖営巣は、海面温度が最も寒く餌が豊富で、雛への熱ストレスの危険性が低下する4月〜10月の間に起こる傾向があります。現時点では、最大約12対からなる繁殖コロニーが知られています。求愛行動は海で始まります。雌雄は首を蛇の様に曲げて互いの周囲を泳ぎます。それから彼らは土地に移動します。営巣用の海藻は、主に雄によって持ち込まれ、雌に贈られ編み込まれます巣は高潮帯のすぐ上に作られます。雌は一般的に巣ごとに3個の白い卵を産みますが、通常は1頭の雛だけが生き残ります。孵化の為には雌雄が均等に協力します。孵化後には、両親は雛を熱や寒さ、捕食からの守り、給餌すべく、引き続き責任を共有し続けます。尤も、雌は雄よりも40−50%多い餌を雛に提供します。雛が独立する70日齢に近づいている時に、仮に餌が豊富であるならば、雌はそれ以降の雛の世話を任せ、新たな雄と番い繁殖を進めます。斯くして、雄ではなく雌個体が、一繁殖シーズンに複数回の繁殖を行い得るのですが、10年以上の研究は、これを可能とする十分な餌が入手出来る環境条件はまれにしか起きないことを示しています。両性の年間生存率は凡そ90%で、寿命は凡そ13年です。 繁殖による集団の増加は本種個体数を維持するのに十分です。保護本種は捕食者の居ない生息地で進化しました。敵が全く存在せず、主に餌に富んだ海岸線に沿って潜水しして食物を摂取し、繁殖地に旅行する必要がないので、鳥は結果として飛ばなくなりました。実際、風切り羽根の中で空気を貯める翼は、海表面から潜水するウには不利であったろうと思われます。しかし、人間が島を発見して以来、島は捕食者フリーではない状態が続いています。長年に亘り、猫、犬、豚が島に持ち込まれ続けています。更に、本種は人間を恐れず、簡単に近づくことができ、捕獲できます。過去には、持ち込まれ野生化したイヌが、イザベラ島の本種に大きな脅威でしたが、その後島から根絶されています。フェルナンディア島へのラットや猫の将来の持ち込みは、種に対する潜在的な巨大な脅威です。漁網は現在の脅威となっています。これは、ウの餌の入手可能性を低下させるだけでなく、しばしば鳥が網に巻き込まれて死に至る結果をもたらしています。季節的な寒冷水が本種の繁殖戦略を形作ってきました。繁殖期間の数度の海面温度の上昇やそれが繁殖期を通じて維持されること (すなわちENSO発生)は、繁殖成功率を低下させます。 ENSO発生は、最近の数十年間で頻度と規模を増加させている様に見えますが、これは気候変動に関連する可能性があります。大規模な原油流出は脅威をもたらすでしょう。しかしながら、本種の生息数は小さくその範囲が限られており、本種の繁殖能力は、個体数が危機的水準を超えている限り、災害からは迅速に回復することができるのです。本種は世界的な珍鳥です。2004年に チャールズ・ダーウィン研究所 が行った調査は、約1500頭が維持されていることを示しました。 2009年に、バードライフインターナショナルは、僅か900頭と算定しましたが、より最近の2011年の評定では1679頭としています。本種は以前は IUCN によって絶滅危機種に分類されましたが、最近の研究は、本種が以前に信じられていたほど稀なトリではなくなり、生息数が安定していることを示しています。その結果、本種は2011年に脆弱種へとランクダウンしました。本種の全個体はガラパゴス国立公園および海洋保護区の中に棲息しています。さらにガラパゴスの島々は1978年に世界遺産に登録されました。チャールズ・ダーウィン研究所は、経時的な個体数の変動を追跡するために定期的に種を監視して来ています。保全の為には、年間監視プログラムの継続、種棲息地域内の人間の訪問の制限、および鳥の採餌範囲内での網を用いる漁業の防止が提言されています。(以上院長訳) |
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羽ばたきロコモーション 海鳥G |
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2021年7月25日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、ウの仲間を引き続きご紹介しましょう。 ウの水中ロコモーション 鵜飼いのウ、即ちウミウが潜水する際には、ゆっくりと首を水面下に突っ込んでそのまま潜水する場合も有りますが、カラダを一度水面上で軽くジャンプさせてから体幹を腹方に屈し、クチバシから真っ逆さまに没入する方法を採るのが一般的です。これは少しでも運動エネルギーを増して勢いを付けて潜水する為である他、潜水に好適な姿勢を整えるとの意味もあるでしょう。 潜水中は、翼を畳んだ状態で2本足を同時に或いは左右交互にパドリングして推進力を得ますが、翼で軽く羽ばたきを行い推進力の足しとする例も報告されています。しかしながら、院長も複数のウの潜水動画を確認しましたが、翼を利用する例は全く見ず、全て足のみで推進力を得ていました。と言う次第で、ウの水中遊泳方式は足だけで馬力を得ると考えて良いと思います。翼を使いませんので、舵取りは足の動き、また首の動きを利用している様に見えます。左右の足で同時にパドリングすれば体幹を左右に揺れ動かす力成分も打ち消し合い、まっすぐに進む事が出来ます。長い首を背腹方向に屈伸する動作(S字型のくねらせ)も観察されますが、ペダリングする際のリズムメーカーとして踏ん張る力を入れる事が出来るのでしょう。水深45m迄潜ったとの記録が有ります。水中では獲物の魚を求め、高速かつ巧みな舵取りで進み、捉えた獲物を水中でそのまま呑み込む場合もあれば、咥えたまま水面に浮上し、その場で丸呑みするシーンも観察されます。 考えて見れば、水中で翼を折りたたんで身体の流線型を保ち、足でペダリングして推進力を得る方法−魚雷に類似−も大きな合理性があります。翼を利用すると水の抵抗を増大し、同時に構造力学的に弱い前腕部の揺れ動きを発生させますので、全体としての馬力は増大できても、ウ型の潜水に比べるとエネルギー効率的には落ちる可能性があります。また実際のところ、空中を飛翔するに必須の翼を傷める危険性もある筈です。おそらく、ウの祖先型は水面を足でパドリングして漕ぎ進める力が強大で有り、水中で翼を利用するのではなく、水面を浮かんでいる翼を畳んだままの姿で潜水に習熟する方向に進化したのでしょう。カツオドリ科とウ科は系統発生的にはだいぶ近い仲間同士なのですが、潜水して魚を捕る方向に共通して進化はしていますが、水中遊泳時の翼利用の有無、水中への突入の有無など行動特性を大きく異にしています。共通祖先からは、<ちょっとした>切っ掛けで別々の道を歩んだ訳ですが、機能形態的な要因のみならず、中枢神経系に拠る運動制御性自体に別の進化を生じ、それがロコモーション上の大きな違いを生み出した可能性はありそうです。 ウの仲間は潜水後に、地表で陽光下で翼を広げでじっとしている光景が良く観察されます。ウは翼に防水性を持たせるための分泌腺が貧弱であり、これゆえに、翼に水が沁み通ってしまう為にこのような姿勢で乾燥させるとの説が唱えられています。皮膚に接近した層は空気層を保持できるが、それより表層には水が沁み通るとの説も提出されていますが、実際のウで実験すればすぐに片が付く議論だと感じます。この動作はガラパゴスの飛べないウであるガラパゴスコバネウにも観察されますが、示さない種類のウも存在します。体温調整に役立つ、消化の為、魚の存在を示す、など様々の説も提出されていますが、カワウでの詳細な研究はこの動作が確実に翼を乾かすためのであることを示しています。ガラパゴスに棲息するウミイグアナは冷たい海中に潜水して海藻を食べるのですが、岡に上がってからは冷えたカラダを陽光で温める為に岩場でじっとしています。しかし、恒温動物且つ断熱性高い羽毛で覆われたウが潜水後に体温を陽光で回復させると考えるのは的外れに思えます。 |
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羽ばたきロコモーション 海鳥F |
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2021年7月20日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、今回はウの仲間をご紹介しましょう。 カワウ Great cormorant Phalacrocorax carbo カワウは、カツオドリ目 Suliformes ウ科 Phalacrocoracidae ウ属 Phalacrocorax に属するトリ Great cormorant Phalacrocorax carbo ですが、両極海域を除く各大陸の広い範囲に棲息するトリであり、汎世界的に観察されます。学名の Phalacrocorax はラテン語のウに相当し、また carbo もラテン語の炭ですので、炭のように黒いウ、の意味になります。確かに、顔面を除けばカラスを連想させる黒いトリですが、背や翼は褐色味を帯びています。繁殖期には頭部が白くなり、腰の両側に白斑が出ます。全長約は 80-101cm、翼開長130-160cm、体重1.81-2.81kg 程度と大型のウです。因みに、飛べないウであるガラパゴスコバネウはウ属の最大種であり、またウミウもカワウよりは大型です。黒い足には水かきが良く発達しています。明るい色のクチバシを持ちますが、上クチバシの先端が下に曲がり非常に鋭く、下クチバシの基部が帯状に黄色く目に付きます。川鵜の名前ですが、河川ばかりでなく湖沼、河口、浅海域でも普通に観察出来ます。ウミドリとは異なり、海水を好まないのは事実の様です。 カワウは集団で過ごす寝ぐらを持ち、夜間はそこで休息し、明け方には隊列を組んで飛翔し5〜10km程度先の餌場に向かいます。水辺に繁殖コロニーを作り周年繁殖が可能ですが、この群れは数十羽から数千羽にまで達することもあります。一夫一妻で、枯れ枝などを利用して樹上や鉄塔などに皿形の巣を作り雌雄で育雛します。潜水して魚類を捕獲しますが、1分以上、水深10m近くまで潜水することもあります。ウ類の翼羽は油分が少なく濡れ易いため、潜水後に濡れた翼を広げ長時間を掛けて乾かします。 集団営巣場所では、生木の枝を折り取り利用する為、樹木が広範囲に亘り枯死し、多量の糞により営巣場所や餌場周辺の環境が悪化します。近年生息数が急速に増大し、漁業被害も含め農林水産業被害が拡大しており、2007年6月1日以降は狩猟鳥として指定されましたが、肉や羽毛等含め利用法が無いトリとされ、駆除は進みません。確かにわざわざこのトリを狩猟して料理して食べようとの気持になれませんね。胸肉はそこそこの量が得られそうですが、肉は実際、臭みが強いとのことです。関東では上野の不忍池に集うのが有名ですが、院長の記憶では、不忍池にカエルを増やそうと全国各地からカエルを寄付して貰い池に放ちましたが、数年繰り返しても全く増えず、これはカワウが全滅させたものと判明した、との報道を目にしたことがあります。この先も日本各地で個体数が増加することが予想されます。 ウミウ Japanese cormorant Phalacrocorax capillatus ウミウはカワウが汎世界的に分布するのに対し、ロシア南東部、朝鮮半島、中国東部、日本のみに分布し、岩礁海岸に生息します。本邦では九州以北の海岸で局地的に繁殖し、繁殖地付近では留鳥として周年生息しますが、寒冷地では越冬のため南西諸島まで飛来した記録があります。全長84-92cm。翼開長133-152cm。体重2-3kg程度、全身黒い羽毛に覆われます。繁殖期にはカワウと同様の色彩模様になります。学名の種小名 capillatus はラテン語 capillus 髪の毛、の形容詞ですので、髪の毛のあるウ、の意味になりますが、皆さんにはそう見えますか? カワウが大きな集団繁殖コロニーを形成するのに対し、ウミウのコロニー規模は小さく、海岸の断崖の隙間に枯草や海藻を組み合わせた皿状の巣を作り、5-7月に1回に4-5個の卵を産み、雌雄交代で抱卵します。国内の鵜飼いには本種が用いられますが、中国ではカワウを利用します。本種がカワウより大きいのですが、中国内陸ではウミウが捕獲出来ないこともあるからでしょう。 三陸リアス線に切り替わる直前に、山田線の鵜住居(うのすまい)駅を通過したのですが、黒屋根の民家が駅のすぐ近く、線路際までぎっしりと建ち並んでいました。リアス線のぴかぴかの駅名表示板がホームに立てられており、白い紙で目隠しされていたことを思い出します。現在の写真を見ると駅周辺が原野化していますが、津波の大被害を受け町が壊滅し、死者・行方不明者 583人を出しました。ウミウの方は断崖絶壁に避難し無事だったろうとは思いますが、この駅名を思い返す度に哀しい気持になります。因みに流出した駅舎は2018年に再建されました。 鵜飼い Cormorant fishing 鵜飼いは、現代でも中国や日本などで行われている漁法ですが、日本では『日本書紀』や『古事記』に記述が有り、平安時代からは貴族や武士などが鵜飼見物を行ってきた歴史もあり、現代でも各地で観光としての鵜飼が行われています。一方、ヨーロッパ、特に英仏ではで 16世紀から17世紀 の短期間、漁の為では無く貴族のスポーツとして行われました。ギリシアとマケドニア国境の湖では現在も古来からの鵜飼いが行われています。中国の鵜飼いは日本から伝わったとの見解がありますが、中国ではサギを利用したり、カワウソを使う同様の漁法も存在した模様です。 日本では野生個体を捕獲したウミウを使うのに対し、中国では家畜化されたカワウを使います。これは中国の広大な内陸部ではウミウが供給され得ないからでしょう。 日本の鵜飼いに使われるウはウミウであり、国内の2箇所を除く11か所すべての鵜飼は、茨城県日立市の鵜の里で捕獲されたウミウを使用しています。トンネルを抜けると鳥屋(とや)と呼ばれる海岸壁に設置されたコモ掛けの小屋まで一般人も見学に訪問できます。鳥屋の前方に放した囮のウミウにつられ休憩に近寄ってきたウミウを、鳥屋の中からかぎ棒を出し、ウミウの足首を引っかけて鳥屋に引きずり込み捕獲します。野生のトリですので捕獲個体に対しては環境省に捕獲申請を行うことになる筈です。雌雄捕まえて繁殖させる手もありそうですが、飼育個体は野性が減少し漁に支障が出るとのことですが、中国のカワウは人間の完全な飼育下にあっても漁が可能ですので、伝統を守るとの意味合いが強いのかも知れませんね。 岐阜県岐阜市の長良川鵜飼ならびに関市の小瀬鵜飼は、宮内庁式部職である鵜匠(風折烏帽子、漁服、胸あて、腰蓑を身に着ける)によって行われています。これは世襲制の国家公務員です。長良川の鵜飼は1300年ほど前まで起源をさかのぼり、近世に至るまで時代の権力者の庇護下に有りました。明治維新後は1890年に宮内省主猟寮属となりました。特に宮内庁の御料場で行われる8回の漁を御料鵜飼と呼び、獲れた鮎は皇居へ献上されるほか、明治神宮や伊勢神宮へも奉納されます。 中国では日中も鵜飼いが行われ、カワウは良く調教されており、小舟から自由に放たれたウは魚を捕獲すると自分から船に戻ります。どうも動物の家畜化に関しては中国人の知恵が一枚上を行っている様に院長には思えてしまいます。国内では夜間にかがり火を焚いて鮎を集め、それをウに捕獲させる方法を取ります。ウの首の付け根には紐が巻かれており、一定以上のサイズのアユは飲み込めず、鵜匠はそれを吐き出させて漁獲とします。ウの側も折角捕まえた魚を人間に横取りされてしまう訳で、次第にやる気を無くします!ので、適宜休みを与えながら調子の良さそうな個体を選んで漁に出る訳です。嘗ては徒歩鵜 かちう、と言って川岸を歩きながら紐に繋いだウ、に魚を捕らせる漁法もありましたが今は廃絶しています。これは、高級キノコのトリュフを採掘する際に紐に繋いだブタを連れて行き、ブタの嗅覚でキノコを見つけさせる姿を連想もさせます。 有名な松尾芭蕉の俳句、 おもしろうてやがて悲しき鵜舟哉 芭蕉 (真蹟懐紙・夏・貞享五)、ですが、句の前文を見ると、鵜飼いがとても面白くて他の人にも見せてあげたいぐらいだ、立ち去るのが名残惜しい、とあり、コキ使われるウを哀れんだ、との解釈は誤りになります・・・・。 |
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2021年7月15日 KVC Tokyo 院長 藤野 健です。 カピバラと他の水棲齧歯類との運動特性の比較をこれまで行ってきました。最終的にビーバーの尻尾の扁平化の持つ機能的意義について考察しようと思いますが、その前に途中追加的にロコモーション関連の話をまた〜りと採り上げます。運動性に関することですので、youtube からの動画資料を多くお借りしての解説です。 ウミガメの様な水中羽ばたき型の遊泳ロコモーションを示す各種の動物を引き続き見て行きましょう。 カツオドリ gannet エトピリカのロコモーションの項 https://www.kensvettokyo.net/column/202106/20210625/ にてもチラと触れましたが、ウミスズメ科とは別の科に属し、潜水動作を活発に行うトリとして、今回はカツオドリの仲間をご紹介しましょう。 カツオドリの名は、イワシの大群を追ってきたカツオの居場所を知らせてくれるトリとして猟師が命名したことに由来しますが、実はイワシの群れを追って飛翔するトリは狭義のカツオドリだけではなくミズナギドリなどの他のトリの仲間も含まれます。 https://ja.wikisource.org/wiki/ソーラン節ソーラン節作者:北海道民謡著作権者:不明(北海道民謡、著作権保護期間満了)引用:ソーラン節, https://ja.wikisource.org/w/index.php?title=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E7%AF%80&oldid=107315 (2021年7月18日最終訪問).7番まである歌詞の内、以下5つにカモメのことが歌われています。ヤーレン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン ソーラン<にしん来たかと 鴎に問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞け>チョイ ヤサエ エンヤンサーノ ドッコイショ ア ドッコイショ ドッコイショ<>内が、以下に置き換わります:<沖の鴎に 潮どき問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞け><躍る銀鱗 鴎の唄に お浜大漁の 陽がのぼる><沖の鴎が 物言うならば たより聞いたり 聞かせたり><沖の鴎の 啼く声聞けば 船乗り稼業は やめられぬ> ソーラン節は日本海域のニシン漁を歌ったものですが、日本周辺の亜熱帯域に棲息する種名 カツオドリ Brown Booby Sula leucogasterが混じっていたとは考えられず、鳴き声を立てる鴎ということでウミネコなどかも知れませんね。まぁ、カツオドリと同様に、漁の目印となって呉れる生物学的指標として人間の役に立っている訳です。ヒトと動物の関係性を表す一つの事象として面白いと思います。 カツオドリの仲間 (ペリカン目、或いはカツオドリ目カツオドリ科)は、全長 60-85cm、翼開張 130-150 cm、体重1kg程度であり、強大な翼を持ち、4本の足指の間には水かきを持ちます。クチバシは長く尖り、基部が目立つ色彩を呈し、ノコギリ様のギザギザを備えます。上クチバシの先端は軽度に下に向けて曲がり、また海面に突入時に水の侵入を防止する為に、鼻孔は外に向かって直接に開きません。目は前方に位置し、広い空間を立体視出来る仕組みを備えています。魚類や軟体動物を食べますが、魚影を見つけると、羽ばたいて空中にホバリングし、上空から急降下して潜水して捕獲します。写真画像を見ると、尖ったクチバシとそれに続く突起物の無いヌメッとした頭部は、海水に突入する際の抵抗を低減するに大いに役立つ様に見えます。熱帯、亜熱帯域に棲息する種もいれば温帯域から寒冷海域に棲息する種類もあります。英名 gannet は、古語の ghans に由来しますが、これは goose ガチョウと同系の言葉です。コロニーを作り地表に降りている カツオドリを見ると、遠目には ガチョウの体型に似て見えなくもありません。 典型的な ウミドリであり、繁殖期に大規模なコロニーを作る時以外は地表に立ち寄りません。樹上や断崖等に巣を作り1回に1-4個(多くの種では1個)の卵を産みますが、雛同士が殺し合う習性を持つとされ、多くの種では1羽の雛しか育ちません。 長年の繁殖行動に拠り、島嶼や崖の近辺などに、カツオドリを含む海鳥の死骸・糞・エサの魚・卵の殻などが、数千年から数万年ほどの長期間堆積して化石化し、これはグアノと呼ばれ、窒素源としての肥料、或いはリンを得る為に嘗ては大量に採掘されましたが、現在ではいずこもほぼ資源としては枯渇しています。 カツオドリの水中ロコモーション 水中に潜水するトリには、これまでご紹介してきたウミスズメの仲間の様に、海面にぷかぷか浮かび、おもむろに海面に頭を突っ込んで倒立し、水中へと潜水動作を開始する方法もあれば、カワセミの様に水中の小魚を確認し、それをめがけて空中から急降下して一瞬の内に餌を捕獲し、すぐにUターンして水を蹴って飛翔する方法を取るものもいます。後のコラムでご紹介しますが、ペンギンは飛翔自体が出来ませんので、氷の崖からダイビングするか、海面に浮かんでからダイビングするか、になります。 カツオドリの仲間は、矢の様に垂直急降下して或る程度の深さに潜水し、そこから羽ばたき、そして足で水を押して水平移動する潜水法を示します。海上を水平飛翔し、魚影を認めると、その上空で羽ばたき静止(ホバリング)し、狙いを付けると高速に海面に向かい羽ばたきますが、没入する直前で翼を畳み、細長い弾丸様に姿になります。時速100kmを超える速度で急降下して潜水する (急降下式潜水 plunge-dive) しますが、丸で矢が海面に降り注ぐ様に見え、その姿には驚嘆させられます。この様な急降下方式は潜る深さを稼ぐのに効果的ですが、水深10m程度までには一気に潜水可能です。これは、高い運動エネルギー状態のままに一気に潜水深度と遊泳速度を稼ぐ作戦ですが、翼と足のヒレを使っての潜水遊泳力を補足する方法と考える事も出来るでしょう。まぁ、水中遊泳の勢い付けですね。水中で羽ばたきは行うものの、ウミスズメやウミガラスなどに比較すると、1回毎の羽ばたきに力を込めて遅いストロークで飛翔し、この時に体幹が背腹にひしゃげて揺れ動く場面も観察されます。<余裕>を持って水中飛翔を楽しむ姿ではありません。翼は半分程度に折りたたんで雨傘をすぼませた感じがします。翼の上腕部に力を掛け、構造的に水中ではぶよぶよと撓る前腕部は進行方向に出来るだけ平行に配列して水の抵抗を軽減する肢位なのでしょう。潜水時に水かきのある足を利用しこちらからも前方推進力を得ていることが明確に分かります。 因みに、アオアシカツオドリ Blue-footed_booby Sula nebouxii (中央アメリカ西岸、ガラパゴス諸島に棲息、種名カツオドリ Brown booby Sula leucogasterに近縁)が地上を歩行する動画では、身体の割には大きな足を地面に左右交互にぺたぺた着けながら、身体をヨタヨタと左右に振り不器用に歩きます。ヒトが潜水用の足ヒレを履きながら地上を歩く姿を連想させられます。潜水時の推進力を得るためにその様な足のサイズと形になったものと思われますが、カツオドリは、地上歩行性の重要性を低下させ、空中飛翔と海中飛翔の2本建てに生きる方向に進化しているトリであることが判ります。 カツオドリは左右幅の大きな強大な翼を保有し、強力な空中飛翔を行います。空中での羽ばたき無しの滑空も可能とします。詰まりは、空中飛翔の完成度が高いトリと言えますが、その分、翼の幅が大きくは無く、滑空は出来ずにストローク数を上げて空中飛翔するウミスズメなどに比較すると、水中飛翔はあまり上手くは無いトリだと言えそうです。 |
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